【浅野純次・読書の楽しみ】第101回2024年10月24日
◎藻谷浩介『誰も言わない日本の「実力」』(毎日新聞出版、1870円)
本書は毎日新聞のコラム「時代の風」に2018年から連載された最近までの67回分を再録したものです。というわけで古いのもあるのに、多くの論考がいまだに強い生命力を保っているのは大したものです。
政治、経済、国際、社会、思考法の五つに分けた構成になっていて、アベノミクス、排外主義、新型コロナ対策、有事と能登地震、過密首都圏と過疎問題など、どれも筆法鋭く世の中の常識を批判していて痛快です。
「この10年間に景気対策に突っ込んだ国費はどこへ消えたのか。政府の純債務は年平均18兆円増えた。これらはどこかの企業に段階的に中抜きされて消費に回らないままになっているのではないか」など、ファクトに立脚することで説得力が増すところが本書の強みでしょう。
「憲法9条改正で国を守ろう」という動きに一撃を加えているのも大事な論点です。声高に「自衛」を叫んで軍備を強化すれば戦争の脅威は遠ざかるのか。話は逆だということがよくわかります。
書名は、日本ダメ論に対し、いや日本も捨てたものでもないよ、視点を変えてやるべきことをやればいいのだ、ということを一方で述べているところから。日本の「実力」を知って元気ももらえます。
◎鈴木宣弘『マンガでわかる日本の食の危機』(方丈社、1650円)
「食糧危機はすでに始まっている」から本書は始まります。食料自給率37%が世間の常識ですが、著者は「10%程度ではないかという見方もある」と10%説に肯定的に言及しています。野菜のタネ、化学肥料、ニワトリ(鶏卵)の飼料などの輸入を考慮すると、自給率はどんどん下がってしまうというわけです。
日本の食は量的のみならず質的にも危機的状況にある(GMO、ゲノム編集食品、成長ホルモンなど)ことが指摘されます。そして酪農家など農家全体の経営危機についても詳しく述べられます。
いちばんの問題は米国政府、世界企業の言いなりになっている行政の甘さにあることです。食の基本である農業を売り渡してきたツケは取り返しがつかない地点に来ていること。著者の危機感は強烈です。まったくそのとおりでしょう。
ただし「マンガ」はあまり感心しませんでした。全ページの3割も使いながら、本文への導入部としての役割を果たしているとは思えず残念でした。
◎鎌田浩毅『M9地震に備えよ』(PHP新書、1320円)
能登地震では農漁業、商工業、観光業、みな壊滅的な打撃を受けました。日本は南海トラフ、九州、北海道、そして首都直下などの巨大地震がいつ起きてもおかしくない局面にある、と著者は言い、その地学的説明と予想される災害について詳しく述べています。
日本の大地震はほとんどが大津波を引き起こすと考えられるだけに、その説明もたっぷりで、日本海側の津波は到達時間が短いので用心しないといけないそうです。
南海トラフ地震は2030年代にほぼ確実に起こるであろうこと、今、20の火山が噴火スタンバイで富士山は特に要注意なこと、など日本列島と海域はひずみだらけ、よく言えば「生きている」ことを知らされます。
M9クラスの巨大地震は日本のあらゆる場所で起こりうる、そしてM9はM7の1000倍のエネルギーというのは改めて驚かされます。著者は「自分の身は自分で守ろう」と強く訴えています。
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