【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】命、子ども、農と食を守る~給食を核にした地域循環圏が未来を創る2024年10月25日
日本の食料自給率はなぜこれほど低いのか。最大の要因は米国の占領政策だ。戦後、米国の余剰農産物の最終処分場にされたが日本だ。とくに麦や大豆やトウモロコシの関税が実質撤廃されて、一気に米国の農産物が押し寄せ、国内生産は壊滅した。
そして御用学者が「コメを食うとバカになる」という本を書き、日本人に米国産小麦を食べさせるために「食生活改善」がうたわれ、きわめつけは、子どもたちをターゲットにして学校給食で米国産小麦のパンと脱脂粉乳を出し、これほど短期間に伝統的な食文化を一変させた民族は世界に例がないとさえ言われた。
そして、また子どもたちが狙われる。ゲノム編集についても米国からの審査も表示もするなとの要請で日本は率先して野放しにした。さすがに販売業者も日本人も心配するだろうから、どう浸透させるかと考え、「やはり子どもからだ」ということでゲノム編集トマトの苗を全国の小学校に無償配布し、給食などで子どもたちに食べてもらおうとしている。これを日本の子どもを実験台にした新しいビジネスモデルかのように国際会議で発表した。子ども(学校給食)から広めて、結局利益は特許を持つ米国のグローバル種子農薬企業に入るという構図だ。
戦後、日本の子どもたちの食から改変し、米穀物メジャーがもうけた占領政策が、今も形を変えておこなわれていると考えても過言ではない。私たちは総力を挙げて子どもたちを守らねばならない。ここから逆に示唆されるのは、米国の思惑から子どもたちを守り国民の未来を守る鍵は学校給食にあり、地元の安全・安心な農産物を学校給食を通じてしっかり提供する活動を強化することが必要だということだ。
よく例に出る千葉県いすみ市は有機米を1俵2.4万円、それに触発された京都の亀岡市は3.6万円、山県市はJA岐阜から3万円、塩谷町も3万円、常陸大宮市はJA常陸から通常米価格+1万円で、といった具合に、自治体行政やJA、生協などが一緒になった取り組みが全国に広がってきている。
まず一番身近な地元で給食という出口(需要)をしっかり作り、高い価格で買い取り、子どもたちの健康を守る。これは農家にも大きなやりがいになり、みんなを幸せにする地域循環の仕組みをつくる大きな鍵だ。いすみ市は現在、「給食がいいから子どもが元気になる」ということで「移住したい田舎」の首都圏1位だ。
大都市部でも世田谷区(人口90万人)や大阪の泉大津市などが有機給食に動き始めた。域内の田畑では全然足りないから全国から有機米を買いとる。都市部の自治体が頑張っている生産地の農家と連携していくという地域間の循環も生まれている。給食を核にした地域内循環と地域間連携のセットに期待がかかる。
兵庫県明石市では、財政難のときに前市長が「守るべきは命、子ども、食料だ」ということで給食無償化をはじめ子ども予算を2倍に増やした。当初は嘲笑されたが、子どもが元気になり、出生率も上がり、人口は増加。経済活性化で税収も増えて財政赤字を解消した。これは非常に大きな教訓だ。
今、財務省はやるべきことは二つ、①増税と②支出削減しかないと言う。これは「負のスパイラル」を生むだけだ。経済の好循環を生むには守るべきものを守る仕組みを作り、みんなが元気になる需要創出で波及効果を作ることだ。その意味でも給食を核にした地域循環の仕組みは重要だ。
今、種を握って支配しようとする巨大な力も動くなかで、地元でとれた種を守り、生産したものをまず地元で循環させる仕組みをつくる。その鍵になるのは給食の公共調達だ。生協などの産直的な流通や JAも力を入れている直売所も含めて、地域の種から作るローカル自給圏を強化し、これをベースにして支え合うことだ。
農業に関わりたい消費者も増えている。和歌山県では母親グループが耕作放棄地を借りて親子連れで来てくれと呼びかけて無農薬小麦を生産し、輸入小麦の代わりに給食に使えるように取り組んでいる。ひとりひとりがコーディネーターとなり、政治行政が仕組み作りをリードし、協同組合がサポートすれば、流れは変えられる。
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