百花総覧!まず学ぶ:海外からの招聘と各地での交流、政府との意見交換など【近藤康男・TPPから見える風景】2024年10月31日
前回記事(2024年10月3日付 https://www.jacom.or.jp/column/2024/10/241003-76837.php)でも反対運動における国際連帯・連携の具体化の状況を紹介した。ハワイでパブリック・シチズンのローリー・ワラック氏やニュージ―ランド(NZ)のジェイン・ケルシ-氏と出会ったことがきっかけだった。「TPPに反対する人々の運動」(以下「人々の運動」とする)単独で彼らを日本に招聘して東京での講演会を主催、併せて新潟はじめ各地域で地元の反対運動グループがシンポジウム・集会を準備して招聘した。更には上述のお2人に限らず、またお2人の国に限らず僅かなつながりを辿って、更に国の輪を広げていった一方で「TPP阻止国民会議」も海外ゲストの招聘に取り組み、時には互いのグループが招聘した海外ゲストを紹介し合うといった協力も進めた。
そして、これらの取り組みは、次に触れる、分析・批判を記した冊子の発行にも繋がっていった。
最初は韓国・米韓FTAについての分析・学習、冊子の発行、そして運動持続への財政基盤確立と理論的研鑽も
TPPに先行して既に2012年3月に韓米FTAが発効していたが、韓国での激しい反対闘争は日本にも伝わっていた。まず韓国に学ぼうということで、韓米FTA反対闘争について現地のグル-プがまとめた韓国語の冊子を翻訳し、併せて「人々の運動」のTPP反対運動への立ち上がりを紹介した原稿と合せて「韓米FTAとTPP」という書名で発行した。
これを皮切りに「人々の運動」とネットワークとしての「TPPテキスト分析チーム」(以下「分析チ―ム」)、そして日米貿易協定については「TPPプラスを許さない!全国共同行動」(以下「全国共同行動」)のネットワークで、分析と冊子発行に取り組みが進められた。
また「TPP阻止国民会議」の代表である元農水大臣の山田正彦氏も「5分でわかるTPP」を発行された。
このように、様々なつながりで、様々な分析作業を進めつつ冊子の発行を続けた。そして、運動としては珍しく好調な売れ行き、団体単位での引き受けが拡がり、財政基盤の強化にも貢献することが出来た。財政については冊子販売に加えて大口の寄付金もあり、海外ゲスト招聘の予算にも苦しむことなく、「TPPから見える風景」の諸団体が加わって"「全国共同行動」"の形でのネットワーク収斂する際には、少ない金額になっていたが、単独で蓄積した財源の残額を移管することも出来た。
国内各地に散らばる海外ゲスト
「人々の運動」は単独で、あるいは参加していたネットワークとして、更には「TPPを考える国民会議」と協力する形で、海外ゲストを招いてシンポジウム・講演会など、頻繁に各地で開催した。
その中でも代表的な事例の一つが、13年5月26日~6月3日まで各地で開催した取り組みだ。これは、東京での「TPPを止める5.30国際シンポジウム:韓米FTA,NAFTAからの警告」を中軸としたうえで、鹿児島~北海道各地を海外からのゲスト複数名が訪問しシンポジウム・集会を開催したという点で画期的だった。
ちなみに、東京での「TPPを止める!5.30国際シンポジウム」は、主催は「人々の運動」と「TPPを考える国民会議」、協力が「STOP TPP!!市民アクション」という枠組みで取り組まれた。登壇者は韓国3名、メキシコ1名、ニュージ―ランド(以降NZ)1名、そして日本からの1名だった。
そして、東京でのシンポジウムを挟んで、5月26日~6月3日まで韓国・NZ・メキシコ、遅れて参加した米国のゲストが、新潟・栃木・大阪・福岡・鹿児島・沖縄・山形・札幌と各地を"転戦"した。
また、16年1月30日~2月3日の間、韓国・マレーシア・NZ(31日山形、2月1日大阪)からゲストを招聘して東京・大阪・山形で講演会・シンポジウムに取り組んだ。NZからの先住民の活動家は、先に紹介したジェイン・ケルシ-氏の紹介によるもので、マレ-シアからの参加者は政府の重鎮マハティ―ル氏の事務所に働きかけて実現した。
ちなみにNZの結んだTPP協定では、先住民マオリ族とNZ政府間の"ワイタンギ条約"により伝統的な風習などを尊重した法制度があるため、その内容のうちTPPなどに関連する部分は、TPPでも独立した例外条項(ワイタンギ条約に基づく)として認められている。
このような大規模の取り組みには、生協などの消費者団体・農民運動組織・労働団体・など主要な組織が常に共催あるいは協賛の形で取り組むことが定着していった。
また、この頃からは、既に活動していた「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」「TPPに反対する弁護士ネットワ-ク」「主婦連合会」などへの呼びかけや共同の取り組みも実施されるようになっていた。
政府も自ら説明会を
民主党政権時代には、政府からの出席での説明会が市民団体主催により何ヶ所かで開催された。しかし、自民党政権復活後中断され、形を変えて政府主催での(TPP参加を後押しする意図での)説明会が12年5月~12月まで各地で開催された。その後15年10月~12月には全国6ヶ所で市民団体の実行委員会主催による説明会も復活をした。
この意味でTPPは政府と市民団体、しかも有志の市民団体が一堂に会する機会が少しずつ実現・定着する機会でもあった。
そしてそれ以降の多国間経済連携協定の多くの場合、議員会館の会議室で、実務レベル(課長クラス)の出席により、突っ込んだ質疑も自然に開催されるようになった、と記憶している。
2013年6月からは各国の団体と毎週の定例電話会議を
各国の時差に配慮しながら、米国・アジア・オセアニア数カ国の参加者による電話会議が始まり、合意署名がされるまで続けられた。この会議では、各国の参加者がそれぞれの国の運動の状況や政府の動きなどについて情報交換をしながら課題について議論、いつか声で名前も分かる関係になっていった。そして、TPP交渉会合や閣僚会合への各国市民団体の参加の動向や、更にそれを受けて交渉会合の現地での共同行動などについての打ち合わせもするようになった。
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