ドーハの喜劇【小松泰信・地方の眼力】2024年11月6日
「その昔、朝鮮、台湾を植民地にしていた時代、植民地から安い米を移入して米価を低く抑えて百姓を困窮に追い込み,その原因を零細な土地所有のせいにして大陸に目を向けさせて戦争に駆りたてたという歴史をけっして忘れてはならない。末代までも語り継がなければならない」(故山下惣一氏の論考を新たに編集した『百姓の遺言』家の光協会、2023年、234頁)

ベトナムからジャポニカ米がやって来る
 山下氏が危惧していたことの始まりなのか、東京新聞(10月20日付)によれば、きらぼし銀行は、ベトナムで米を生産する現地企業と海外食品を取り扱う日本企業をつなぎ、ベトナム産ジャポニカ米の輸入販売が実現した、と発表した。ジャポニカ米は日本で主に食べられている種類で、ベトナムで生産、精米されたジャポニカ米の発売は初めて。
 同行が業務提携しているベトナム企業と、海外食品を販売する同行取引先3社が連携した取り組みで、来年には1万5千トンを出荷予定とのこと。9日に同行本店であった記念式典で渡辺寿信頭取は「今後も(日越両国の)ビジネス連携を強力にサポートしていく」と語ったそうだ。
幻想の「コメ輸出論」
 「食糧安保のためにコメを輸出する、という曲論が横行している。平時は輸出して儲け、非常時には輸出を禁止し、その分を国内へ供給する、という身勝手な政策である。(中略)ここには、身勝手というだけでなく、日本のコメは旨いから、価格が少しくらい高くても海外で売れる、という幻想がある」で始まるのは、森島賢氏による本電子版(10月21日付)のコラム「正義派の農政論」。
 幻想は次のように暴かれる。
 まず、コメは東アジアの穀物で大部分が東アジアで生産され、東アジアで消費されている。品種別割合は、インディカ種が約85%、ジャポニカ種が約10%。日本で生産されているのは、ほとんど全部がジャポニカ種。日本以外の国で生産されているコメは、大部分がインディカ種。この2つは、食味が全く違う。どちらが旨いか、と考えるのは無意味。
 ゆえに、「国際市場で、日本のコメは旨いと評価されている、という認識は幻想」となる。
 つぎは価格について。コメの指標的な国際価格は、タイ国貿易取引委員会が発表している価格。最近の価格は、精米1トンあたり604米ドル。玄米60kg当たりに換算すると6、040円(1米ドル=150円、精米歩留まり=0.9)。
 一方、日本の最近の米価は、農水省発表によれば、玄米60kg当たり22、700円。輸出時のコスト(海上運賃と保険料)を無視しても国際価格の3.8倍。
 ゆえに、「日本のコメはそれほど高くない、というのも幻想」となる。
 結果、ふたつの幻想によって創り出されている「コメ輸出論」も幻想となる。
 それに基づき、「食糧安保政策の王道は、コメの米粉化による輸入小麦の放逐であり、コメの飼料化による輸入穀物の追放である。そして、それらによる食糧自給率の飛躍的な向上である」と訴える。
身勝手な「コメ輸出論」
森島氏は「コメ輸出論」を身勝手と指弾しているが、谷口信和氏(東京大名誉教授)も参考人として出席した2024年6月6日の参議院農林水産委員会で、「(わが国において食料供給困難な兆候が認められた際)輸出をやめてということになると、相手の輸入国はどうなるんだ。実は、日本は、WTOで一貫して主張してきたことは、食料輸入国の立場として、輸出国が緊急事態のときに輸出禁止という措置をとることはおかしいと、それでは輸入国は困るじゃないかと、そういう片務的な関係では国際関係はうまくいかないよということで輸出禁止を否定したわけですね。今回のやろうとしていることは、大変になったときには日本も輸出禁止にしましょうということなんですね。そうすると、WTO上の外交対応というものがバッティングしてしまう。こういうダブルスタンダードの意見を国際関係の中で言うということはまずいんじゃないかなと思います」と、その身勝手さを指摘している。
米粉よ!お前もか
 輸入小麦を放逐することが期待される米粉についても気になる記事が。
 日本農業新聞(11月6日付)が、全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会(全米輸)とぐるなびが5日、インバウンド(訪日外国人)に向けて、米粉の魅力を伝えるイベントを東京都内渋谷区で開いたことを伝えている。国産米粉の認知度向上と輸出拡大のヒントを探るために、米粉を使ったクッキーやラーメンなど、14種類の試食品を訪日客に配付したとのこと。
 「とても美味しい。フランスでも米粉商品を探してみたい」と語ったのは、初めて米粉を使った唐揚げを試食したフランス国籍の20代女性。
 近年、米粉の輸出量は100トン前後で横ばい。その要因として、全米輸の担当者は「認知度の低さが課題」と分析しているそうだ。その担当者の仕事ではないだろうが、国内での利用の伸びはどうなっているのか、どうすれば輸入コムギを放逐できるのか、分析してほしいところだ。
「ドーハの喜劇」が示唆する近未来の米問題
 9月にドイツに行ったが、乗り換え空港はカタールの首都にあるドーハ国際空港。免税店をのぞいていると、「響」「山崎」「竹鶴」等々の漢字が目に飛び込んできた。ここ数年、近所の酒屋の棚から消えたジャパニーズウイスキーの銘品が、ドーハならぬ「どーだ」と言わんばかりに積まれていたのには驚いた。
 自慢げに近づいてきた店員に、日本にはないことを告げると、「お土産にいかがですか」と言われたような気がした。笑えぬショートコントの大根役者のように、こそこそとその場から立ち去ることに。帰りのミュンヘン空港にもジャパニーズウイスキーが売られていた。
 メーカー各位は、「貧乏な日本人相手の商売は馬鹿馬鹿しくてやってられない。円安という追い風にも乗って海外に行き、儲けなくっちゃ。商品はね、安いところから高いところに流れるの」と、愛飲家を裏切って儲けを優先しているのだろうか。 
 「ドーハの喜劇」は、稲作が縮小の一途をたどる今、ベトナム産米が輸入されることが引き起こしかねない近未来の米問題を示唆している。加えて、山下氏の危惧していることが待ち受けているとすれば、「コメ輸出」に賛成する理由無し。
「地方の眼力」なめんなよ
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