中米2万4000円で成約の波紋【熊野孝文・米マーケット情報】2024年11月19日
11月14日に千代田区の中労委ホールで開催された全米工の東日本取引会で6年産中米が1俵2万4000円で12.24㌧が成約した。中米とはくず米を篩って比較的品位の良いものの総称で、容積重では380匁程度クラスのものを指している。主な用途は主食用増量原料や清酒用のかけ米などに使用される。この日の取引会ではこうした中米が2万円以上で7件150㌧以上成約、この分野の引き合いが旺盛なこと伺えたが、くず米を篩ったコメが2万4000円もするということはコメの需給ひっ迫が一向に改善されていないことを示しているばかりか、コメ加工食品業界が極めて高額な国産原料米を買わざるを得なくなることも意味している。さらには7年産加工用米の価格が大幅に値上がりする要因にもなる。
農水省の需給緩和見通しとは裏腹に6年産米の出盛り期を迎えたにも関わらず、スポット価格は一向に値下がりする気配がないどころか新潟コシヒカリを筆頭にさらに値上がりしている。量販店向けの全国広域銘柄だけでなく、外食・中食向けの業務用米の値上がりも著しく、仕入れ価格は5年産の2倍の価格になっている。価格の上昇を抑えるには価格の安い増量原料が必要になるため中米の引き合いが旺盛になり価格が高値に踊る原因なっている。中米の原料になるライスグレーダー1.7㍉上から1.85㍉下の発生量は、6年産は5年産米より7万㌧多い29万㌧程度と推計されているが、発生が多くても増量原料に使用されるものの引き合いが極めて強くなり、この分野のコメがタイト化している。この煽りを受けているのが米菓、味噌、清酒、焼酎などコメ加工食品業界で、並白と言われるくず白米でも㌔300円というこれまでにない高値で調達せざるを得なくなっている。コメ加工食品業界の多くは高値の国産米を嫌気して割安なMA米にシフトしているが、国産米にこだわっているメーカーや国産米使用を表示しているメーカーは高値でも購入せざるを得ない。
国産米にこだわっている米菓メーカーの中には政府備蓄米を1460㌧も落札したところもある。政府備蓄米は加工用向けに1万㌧を入札方式で売却することになっているが、食糧法より財政法が優先されているためなのか買入価格より高値で売却することが基本方針となっている模様で最低落札価格が高く、玄米1俵当たり1万3500円以上する。これに搗精賃や運送料等の諸掛りを加えると精米価格では㎏300円近い価格になってしまう。最も深刻なのは国産米使用を表示している業界で、焼酎メーカーの中には5年産で国産加工用米の購入契約を行っていたものの、これだけでは需要量を賄いきれないため代替原料として中米を買い受けることにしたが、あまりの高値でやむなく政府備蓄米を落としに行っている。また、焼酎メーカーの中には原料米が高いのでベトナムに工場を作って、現地のコメを使った焼酎を逆輸入しようとしているところもあるという。現状を見れば焼酎業界は国産米使用を宣言したことが裏目になり、以前のようにタイ米使用に切り替えなくては経営が成り立たないという事態に追い込まれそう。
今、コメ加工食品業界が最も懸念していることは7年産加工用米がさらに値上がりする可能性が高いこと。農協系統や商社等と7年産加工用米の事前購入契約を行う場合、当然のこととして事前に価格を決めなくてはいけない。農協系統としては主食用米の価格が高騰していることから7年産米の概算金の最低価格を1俵2万円に設定して、それと生産者手取りが同じになる加工用米の契約価格は1俵1万7000円が最低ラインのレベルになる。それでもその価格で仕入れられれば良いが、主食用米の異常とも言える高値により、地主から地代の値上げを求められる生産者もおり、関東では1反5万円を要求する地主もいる。大規模生産者は自治体や国から機械代等の助成を受ける際の条件としては生産調整の協力が必須であり、飼料用米や輸出用米、加工用米と言った転作作物扱いになるコメを生産しなければならない。1反5万円支払って採算が合う転作作物は飼料用米では販売価格が安過ぎて不可能だ。また、輸出用米も輸出価格を大幅に値上げしないと主食用米との手取りが同じにならない。結果的には最も有望な転作作物は加工用米ということになるが、地代を5万円も払って採算が合う加工用米の契約価格とはいくらになるのか?そうしたもろもろのことを想定すると制度米穀を作付けするという判断そのものがあり得ないということになるかもしれない。そうなった場合、飼料用米や輸出用米はもちろん加工用米の生産もなくなってしまう。今の制度はこうした矛盾を内包していることが中米の異常高騰で図らずも証明されている。
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