【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
国家戦略の欠如
最近、財政当局の農業予算に対する考え方が改めて示された。そこには、とにかく歳出を減らすことだけしか念頭にない大局的見地、国家戦略の欠如が懸念される。
1. 農業予算が多すぎる
表のとおり、1970年の段階で1兆円近くあり、防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、実質減らされてきた。10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱とか、米国などでは言うが、その中でも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。その予算がバランスを欠いて減らされ続けているのに、まだ、高水準だという認識は、国家戦略の欠如ではないか。
2. 飼料米補助をやめよ
海外からの穀物輸入も滞りつつある中、国産飼料の拡大は大切な方向性であり、水田を水田として維持して飼料米も増産することが安全保障上も不可欠との方針で進めてきた飼料米への助成は、まさに国家戦略だった。
それを、お金が増えてきたから、もう終わりにしよう、という論理は破綻している。財源がもったいないから、ではなく、国家戦略として、安全保障上も必要だから続けてきたことを、そのような理由で、2階に上げておいて、梯子を外すことはありえないはずだ。
3. 低米価に耐えられる構造転換
規模拡大とコスト削減は、もちろん必要だが、日本の土地条件では限界があることを無視した議論は机上の空論だ。
日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している。規模拡大しても効率化できずにコストが下がらなくなる(グラフのように20ha以上になると60kg当たり生産費が上昇し始める)。
写真のように、豪州は1面1区画の圃場が100haで、まったく別世界だ。コスト下げて輸出拡大すればよいという議論にも限界がある。そもそも、稲作農家が赤字で激減しそうなときに輸出でバラ色かのような議論はナンセンスである。
4. 備蓄米を減らせ
中国は、14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。国際情勢が悪化する中、コメ91万トンの備蓄は、消費量の1.5か月分程度。これで、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。
今こそ、総力をあげて、コメや牛乳や、その他の農畜産物生産を強化し、備蓄も増やすのが、あるべき国家戦略であることは明白なときに、備蓄を減らせという話がどうして出てくるのだろうか。
5. 食料自給率を重視するな
「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代が終わったことが明らかに実感されている今こそ、国民の食べる食料は国内でまかなう「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、国民の命を守る視点の欠如ではないか。
そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも、色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。
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