花業界の年末商戦は松市(まついち)からスタート【花づくりの現場から 宇田明】第48回2024年11月28日
いよいよ師走、花業界の年末商戦は松市からスタートします。
松と千両は、正月には欠かせない縁起ものですが、需要があるのは年末だけです。
そのため、一般の切り花とは別扱いで、12月の上旬から中旬に年に1度、松だけ、千両だけの市がたちます。
この市を逃すと、松と千両が手に入らないので、花屋、仲卸が全員集合する緊張感あふれる花業界の一大イベントです。
以前は、迎春の縁起物として梅と万年青(おもと)の市もありましたが、流通量が減ったため、いまは通常の市で取引されています。
当コラムの第22回で紹介したように、門松などにつかう松は山から切ってくるため森林を破壊していると誤解されることがあります。
しかし、松は山採りではなく、ほかの農産物と同じように、農家がほ場で栽培しています。
松ぼっくりからとったたねをまき、苗をほ場に植えて、3年以上育てて、松市にあわせて11月から掘りとります。
収穫した松は規格別に選別され、松市に出荷されます。
「門松の松は山から切ってくるの?」(花づくりの現場から第22回)
松には、若松、門松、枝松、三光松、根引松、からげ松など多くの種類がありますが、それらはつくり方や形態が違うだけのいわゆる商品名で、植物的にはすべて黒松です。
松の生産量は徐々に減っています。
その原因は、ほかの農産物とおなじで、生産者の高齢化と作業員の不足です。
松は、年に1度の松市にあわせて掘り取り、調整し、規格に選別して出荷するため、短期間に多くの人手が必要です。
しかし、作業員が集まらないうえに、時給があがっているため、経営が厳しく、生産の縮小や廃業が増えています。
お正月の風習、伝統行事が衰退していることも、松の生産減少の一因です。
門松、しめ縄を飾る家が少なくなりました。
神社仏閣に飾られるような大きな松竹梅の門松や、商業施設の松をつかったお正月用の生けこみも減っています(写真1)。
凧あげ、羽子板、獅子舞などとともに、門松も「サザエさん」の世界だけのお正月風景になりつつあります。
その一方で、お正月のホームユース花材として松が見なおされています。
花屋にとって、行事ごとにシンボルとなる花材があると売りやすいからです。
たとえば、春と秋の彼岸にはキク、お盆には蓮と鬼灯(ほおずき)、母の日には赤いカーネーション、クリスマスには赤バラや赤と緑の葉のポインセチア、月見にはお月さまのようなピンポンマムがあります。
これらに加え、ハロウインのカボチャも定着しました。
観賞用のカボチャは花市場で扱われ、特別にカボチャ市が立つほどです。
カボチャ市では、せり人も仮装してハロウインを盛りあげています。
お正月には、健康長寿のシンボルであり、新しい年を祝う縁起物の松がピッタリです。
通常の花束に松が1本入るだけで、一挙にお正月のめでたい花束に変身するために、小さな松の需要が増えています(写真2)。
松の規格は、長さ別に100cm以上から50cmまで多くの規格があります。
市場価格は、茎が太くて長い3L、2Lサイズが高く、細くて短いM、Sサイズが安いのは切り花とおなじです。
MやSでも3Lとつくる手間、選別の手間は同じですから、MやSが増えて3Lが減ると、売上の減少に直結します。
そのことも松の生産減少の一因です。
しかし、生産する規格・形態を実需に合わせて変えることは、松だけではなく、すべての花で持続的な経営のために必要なことです。
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