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シニアの外国語:その可能性【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月29日

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 定年が近づくと、いろいろな事を考えます。私は最初に外国語(ポルトガル語)を専攻したため、時々ふとポルトガルやブラジルのことが思い浮かびます。

 40年前の1980年代初頭、バブル経済前とはいえ当時の日本は強気の時代であった。筆者が入学した東京外大では新入生歓迎会の喧噪がひと段落したゴールデン・ウイーク(GW)の行動が人によりかなり異なり驚いた。筆者は入学して初めて接したポルトガル語が全くわからず、GWも自宅で基礎的な単語を必死で丸暗記していた記憶しかない。良くも悪くも日本の高校・受験生時代に何となく身に付けた学び方しか知らなかった訳だ。

 GWが明けて大学に行き始めると、アジア系言語を専攻していた同級生達からは続々と海外報告を聞かされた。例えば、インドシナ語学科(当時はこの中にタイ語とヴェトナム語専攻があった)の同級生達は、早速バンコックやチェンマイで何を見てきたか、何を食べ、どこを訪問してきたかを教えてくれた。朝鮮語を学んでいた同級生も同じである。もちろん、先輩たちの中にはヨーロッパを回って来た人達もいた。

 流石に南米は遠く費用も高いため最初のGWで行ってきた同級生は記憶にないが、それとは対照的にアジア系諸国への「とりあえず行ってきた」学生達の多さに「これが外語か!」と思ったものだ。さらに、その後も週末や長期休暇に集中してアルバイトを行い、一定の渡航資金を作り、年に何度も往復を繰り返していた知人達は多い。

 残念ながら当時のブラジルは資金的にも距離的にも遠く、筆者が初めて行けたのは大学3年が修了してからである。当時は現在と異なり、身近にブラジル人などほとんどいなかった。古い友人の伝手を頼りに大使館関係者を紹介してもらい、読み終わった雑誌や新聞など譲り受けて読んでいたが、正直、1/3くらいしかわからなかった。畳の上の水練を繰り返していた訳だ。苦い思い出である。

 全く同時に未知の言語を習い始めても、この行動力の違いが習得レベルの差になるのだと痛感し、後に英語を学びなおす際の大きな教訓とした。

 さて、文部科学省による令和5年度「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況等に関する調査」によれば、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数は2014年には37,095人であったが、2023年には69,123人へと大きく増加している。このうち、外国籍は57,718人、日本国籍は11,405人である。

 グローバル化は子供の教育にも多大な影響を及ぼす。先の数字は親が外国籍を持ち日本で就業している子供が大半だが、日本人の親の海外勤務が長いと子供の日本語は相当気を付けていても現地の言語が優勢となる。小さいうちなら母語はすぐに戻るが、高校受験が現実的問題となると現地での滞在期間を踏まえ難しい判断を迫られる。その結果、家族は日本に帰国し、父親だけが外国単身赴任というケースは筆者も数多く見てきた。

 大所高所の議論を見れば、世の中はグローバル化の勢いがやや収まり、人々の関心は地域創生などローカルに向いている印象が強い。だが、小中学校の教育現場では依然としてグローバル化が進展している可能性が高い点を先の調査数字は示している。

 いったい小中学校の現場の教員に英語だけでなく、他に何か国語の運用能力を求めるのだろうか。先生たちはそもそも教育者ではあってもこうした言語の専門家ではない。それでもこれらの言語を母語とする児童生徒が入学してきた場合、真摯に対応している訳だ。この点については本当に頭が下がる思いである。

 日本企業の定年はかなり伸びてきたが、仮に65歳とすれば、筆者の大学入学同期世代は恐らく、今年度から来年度にかけて多くが定年を迎えるはずだ。この時代の同級生達は英語に加えもう1言語を学んでいる方が圧倒的多数であろう。定年後の活動の一つとして久しぶりに古い道具を引っ張り出してみるのもよいかもしれない。

* *

 かつて学生時代に学び、もしかしたらビジネスで用いた様々な外国語は、日本に滞在する子供たちが日本語を学ぶときの手助けとして活用できる可能性は高いのではないでしょうか。

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