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花業界の年末商戦は松市が終わると次は千両市【花づくりの現場から 宇田明】第49回2024年12月12日

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花業界の最繁忙期である年末商戦は、松市が終わると、次は千両市(せんりょういち)がはじまります。松と同じく、年に一度、正月の縁起物の千両だけを取引する特別な市です。
この千両市で、年末商戦は佳境を迎えます。

花コラム49写真1(宇田).jpg

松は一年中緑を保つ常緑樹で、不老長寿や健康を象徴する縁起物です。
一方、千両はその名前から商売繁盛に通じ、赤い実が富と繁栄を表すため、正月の飾り物として尊ばれています(写真1)。
同じように赤い実をつける南天は「難転」として、難を転じて福となす縁起物です。
万両も赤い実をつけ金運に恵まれる縁起物ですが、千両は赤い実が葉の上に着くのに対して万両は葉の下に垂れ下がるため、枝物としては利用されません。

千両は、常緑広葉樹林の樹下に自生する陰性植物です。直射日光にあたると葉焼けし、枝が枯れ込むため、栽培には遮光が必須です。
そのため、主産地である茨城県鹿島地域では、「楽屋(がくや)」とよばれる竹すで囲ったほ場で栽培されています(写真2)。楽屋には、千両役者が控える場所の意味が込められています。

花コラム49写真2(宇田).jpg

千両の繁殖は実生で、たねをまいて2年で楽屋に定植し、4年目から収穫がはじまります。その後10年以上毎年収穫することができます。
花は6月に咲き、緑色で花弁がなく目立ちません。自家受粉して実が成長し、10月には赤く色づきます。
収穫1年目を「初鎌」、2年目を「初盛」、3年目以降を「本盛」とよび、出荷ケースに表示されます。

お正月の縁起物である千両の生産が激減しています。
千両は栽培が難しい品目です。
花や実は関係なく、緑の葉があれば出荷できる若松とはちがい、千両は、花芽分化、開花、結実、着色と、出荷に至るまでに多くのハードルをクリアしなければなりません。
気候の影響を受けやすく、需給調整が難しいため、生産者にも花屋にもリスクが高い品目です。

生産が減っている原因は、正月行事の慣習が薄れてきたため、需要が減っていることです。
また、生産者の高齢化や、栽培施設である楽屋や千両の株が古くなり、生産性が低下していることも影響しています。
若松とおなじように、年に1度の市にあわせるための短期集中労働も経営継続の障害です。
たねをまいてから収穫まで4年かかるため、新規参入が難しく、生産者の減少に伴い生産量も減っています。

生産量の減少により、単価は高騰しています。
生産者からすると、経費が上っているので、これぐらいの単価高ではとても採算が取れないという思いが強いでしょう。

花コラム49写真3(宇田).jpg

しかし、千両を仕入れる花屋にはそれぞれ相場感があります。
ある価格以上になると、そこまで高いなら「千両でなくてもいいや」となります。
赤い実が縁起物で必要なら、輸入のヒペリカム(おとぎりそう)(写真3)の赤い実で代用しようと考える花屋がいても不思議ではありません。
アフリカ産のヒペリカムは年間を通して安定供給され、価格もお手頃です。
赤い実は千両より大きく、派手です。
迎春の花飾りで千両がヒペリカムにかわっていても、消費者からのクレームはありません。
さらには、お盆の蓮や鬼灯(ほおずき)に造花が増えているように、正月の千両も造花になるかもしれません。
このままではお正月の花材から千両は姿を消してしまいます。

伝統を継承するためには、生産の維持・回復が必要であり、そのためには花業界全体で千両や若松などの伝統花材を買い支えることが求められます。

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