【小松泰信・地方の眼力】輸入米で輸入するもの2024年12月25日
12月24日が学校給食記念日であることを東京新聞(12月25日付)のコラムで知った。「1946年のこの日、東京都内の小学校で米国のアジア救済公認団体(LARA)からの給食用物資の贈呈式が行われたため」とのこと。ただ、学校給食に苦い思い出の多い者としては、脱脂粉乳攻撃の始まった日と覚えておく。
学校給食費は「隠れ教育費」
この後に続く本題は、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の野党3党が、公立小・中学校の給食を無償化するための法案、「学校給食法改正案」を衆議院に共同提出したこと。法案の目的は、年間5万円前後の給食費を無償化し、子育て世帯の経済的負担軽減を図ること。「生活に困っている世帯の給食費は既に無償であり、格差是正のメリットは少ないなどの慎重論」に一定の理解を示した上で、「一律に無償化すれば、現在、給食費を払っていない家庭の子どもも後ろめたさを感じず、給食を楽しむことができる。無償化には親の財布だけではなく、子どもの心を助けるという側面もある」と改正案を評価する。
木内登英氏(野村総合研究所、エグゼクティブ・エコノミスト)は、「NRI研究員の時事解説」(12月25日6時2分配信)で、「学校給食無償化は、共産党も掲げる政策であり、野党間での共闘が最も容易な政策の一つと言える」と位置付ける。
憲法26条第2項において、「義務教育は、これを無償とする」と定められている。しかし、文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、「隠れ教育費(図書、文房具、ランドセル、学校納付金、修学旅行や遠足、給食など学習費全体の保護者の負担額)」が、公立小学校で年間35.3万円、うち給食費は3.9万円で「隠れ教育費」の11.1%に及ぶことを指摘する。
「『義務教育は無償』という憲法の定めに照らしても、無償化を地方自治体の予算に任せるのではなく、国の支出で学校給食無償化を図ることには一定の合理性がある」とする。ただし、「年間約4,900億円とされる学校給食無償化の財源については、しっかりと議論を進める必要がある」と、クギを刺すことも忘れていない。
食環境の充実は国の安全保障の根幹
「全国の子ども食堂が初めて1万カ所を突破し、公立中学校の数を上回った」で始まるのは日本農業新聞(12月19日付)の論説。この傾向を「食と居場所を提供する子ども食堂の増加は、子どもの『食』を巡る環境の悪化を物語る」と厳しく捉え、「食を中心にした子ども関連施策の統合・強化とともに、持続可能な食堂運営に向けた国による法整備」の必要性を訴えている。
さらに、「韓国では、『子どもの成長を支える食環境の充実は国の安全保障の根幹をなす』との考えから、学校給食を教育の一部と位置付け、22年に幼稚園から高校まで完全無償化が実現した」ことを紹介し、縦割り行政となっている現状から、「食を通して子ども政策を統合し、強化すべきだ」と提言する。
揺らぐ食環境
「子どもの成長を支える食環境の充実は国の安全保障の根幹をなす」との考えに異議はない。だからこそ、平和的国防産業である農業をはじめとする第1次産業の国策的衰退を看過することができない。
農林水産省は20日、2024年度で4回目となる輸入米の入札を実施し、全量(2万5000トン)が落札されたと発表した。今回の入札で今年度分の輸入米はすべて消化され、7年ぶりの完売となった。
日本経済新聞(12月21日付)は、「国産米の高値が今後も続くと判断した外食などの企業が割安感がある輸入米メニューを組み入れようと積極的に確保に動いた」と、価格に注目する。
日本農業新聞(12月21日付)は、「この背景には、国産米の不足感がある」「従来、仕向け先の中心だった業務用だけでなく、『(輸入米で)年間を通じた安定供給を担保したい』(大手スーパー西友)など、小売りにも輸入米が広がりつつある。国産米の需要が奪われている」と、まずは量に注目する。
しかしその直後に、「国産米価格の回復は歓迎すべきだが、流通段階での過度な調達競争が価格を必要以上に高くしている向きがある。国産米の需要を維持する視点で、流通が冷静さを取り戻すことが重要だ」と、価格にも言及している。
じわりじわりと広がる輸入米
東京新聞(12月22日付)はこの問題を1面で取り上げている。
「どの取引先からも『米はないか、どの国の米でもいいから探してくれ』と言われる。絶対に落札したかったのですが...」と声を落とすのは、輸入食品の卸業者。今年8月、ベトナム産のジャポニカ米200トンの販売を始めたが、粘り気や甘みなどが国産米に近い短粒種で、5キロ3000円弱という割安感から発売4カ月で「あっという間に」在庫がなくなったそうだ。
同紙は、取引が過熱した原因を国産米の高騰とする。総務省によると、11月の店頭小売価格(東京都区部)はコシヒカリで5キロ3985円の前年同月比65%高。米穀安定供給確保支援機構の調査によれば、高値は今後も続く見通しとのこと。
大手スーパーの西友は11月中旬から台湾産米を関東エリア138店舗で販売。5キロ2797円と同社が扱う国産米に比べて2割程度安い。広報担当者の「売り上げは想定以上。一部で品薄状態になっている」とのコメントを紹介し、輸入米が家庭向けにもじわりと広がっていることを伝えている。
同紙(12月19日付)の読者投稿欄に載っていた「安い輸入米考えてみて」と見出しがついた次の一文からも、輸入米がじわりじわりと広がっていることがうかがえる。
「スーパーへ行くと、必ずコメ売り場の前を通り、値下がりがないのを確認している。値段が高くて国産米を買う気になれず、ここ数ヶ月、輸入米を買ってきている。(中略)国産米の高騰が続く中、値段の安い輸入米を買わざるを得ないのは、値段の安い100円ショップで買い物をするのと似た気分だ。それでも構わない方は、輸入米を買い求めてみていただければと思う」
首を絞めつつ輸入米
この国の消費者はいつも物価高への怒りの矛先を農畜産物価格に向けてきた。それが生産者のプライドを傷つけ、やる気をそぎ、だれにも継がせたくない職業にした。結局自分たちの首を絞めるというのに。その流れを作ってきたのは、政治家や官僚。
輸入米は、この国の稲作が生み出してきた多面的機能までは生み出してくれない。いざとなれば兵糧攻めの手段と化す。
「それでも構わない方は、輸入米」を買いなはれ。その結果の責任を負うべきは、消費者、政治家、官僚であることを忘れるな。
「地方の眼力」なめんなよ
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