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年末商戦の締めくくりは梅【花づくりの現場から 宇田明】第50回2024年12月26日

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花業界の年末商戦は、年に一度の特別な市を中心に展開されます。
12月上旬の松市からはじまり、千両市が続き、最後は梅で締めくくられます。
しかし、近年は梅の取扱量が減ったため、梅単独の市は少なくなり、多くの花市場では千両市や通常の市で売られるようになりました。
それでもお正月の縁起物としての梅の重要性はかわりません。

梅は、桃、桜とおなじバラ科Prunus(サクラ)属で、3種ともに観賞用と果実用があります。
それらは夏に花芽分化をし、落葉する秋には花芽が完成しています。
この枝を切りとり、水につけて、「むろ」または温室に入れて加温すると花が開きます。
これは「蒸(ふ)かし」とよばれる枝もの独特の強制開花技術です。
たとえば、3月3日のひな祭りは桃の節句ですが、露地ではまだ桃の花は咲いていません。
この時期に飾られるのは、蒸かしの花桃です。
季節を先取りすることが園芸の真髄です。

花コラム50写真(宇田)_2.jpg

お正月の縁起物の梅は、桃、桜とは異なり花を楽しむものではありません。
写真のようなズバイとよばれる細く、まっすぐな梅の枝を門松や、お正月の生け花に使います。
ズバイとは聞きなれないことばです。
ズバイは、「楚(すわえ)」から転じ、「ずわえ、ずわい、ずばえ」などともよばれます。
広辞苑によると、「すわえ」とは「木の枝や幹から細く長くのびた若い小枝」のことです。
ズワイガニは、細い枝のような長い足から名づけられたと考えられます。
したがって、種類に関係なく細く長くのびた枝はすべてズバイとなるはずですが、花業界では正月用の梅の枝だけをズバイとよんでいます。
縁起物として、ズバイには「寿梅」、「瑞梅」の漢字が当てられています。

また、関西では「コクセン(国仙)」とよばれる梅もあります。
1m以上の長い枝をズバイとよび、30~50cmの短い枝をコクセンとよんで区別しています。
つまり、ズバイの短い枝がコクセンです。
このコクセンの名の由来については、花業界の長老に聞いても「昔からそうよばれている」としかわかりません。
コクセンを出荷している生産者自身もその由来を知りません。
花のような小さな業界でも、文化や伝統を受けつぐのは難しくなっています。

ズバイを生産しているのは、梅、桃、桜などの枝ものの生産者ですが、最近は実梅の生産者も加わっています。
梅干し用の実梅は11月からせん定がはじまります。
そのせん定枝を拾い集め、長さ別に選別・調整して、ズバイあるいはコクセンとして花市場に出荷しています。
廃棄するせん定枝が商品になるため、一見丸儲けのように感じますが、けっこう手間がかかるため、相場が安ければ採算にあわないこともあります。
なぜ、実梅のせん定枝が商品になるのかというと、ズバイやコクセンのような徒長枝には花芽がつきにくく、花が咲かないので、花梅と実梅のちがいがないからです。
そのため、ズバイ・コクセンに品種名が表記されることはありません。

ズバイは門松に使われますが、竹と松が主役で強く自己主張しているのに対して、ズバイは松竹梅の一員でありながら、花が咲いていないためまったく目立ちません。
脇役の南天や葉ボタンはわかりますが、ズバイに気づくひとは少ないでしょう。
3本の孟宗竹の後ろに、まっすぐな細い枝のズバイがひっそりと刺さっているので、関西の人は初詣の神社の門松で確認してください。

正月用のズバイは年末で終わりですが、年が明けると、花が咲いた枝の出荷がはじまります。
これはズバイとはよばれず、花梅の枝ものです。
同時に、花桃や桜の枝ものの出荷もはじまります。
除夜の鐘を境に花業界の季節がかわり、花屋には一気に春の花があふれかえります。

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