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七草【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第323回2025年1月9日

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 1月7日、宮城県南生まれの家内は必ず七草がゆをつくる。ただし、七草は自分が摘むのではなくて生協から購入しており、作り方もかなり省略している(らしい)。

 家内の祖母はいつも次のようにしてやっていたという。
 まず6日の夜、次の歌を4回唱えながら七草を刻む。
  「七草たたき 何たたく(注1)
   唐土(とうど)の鳥の 渡らぬうちに」
 翌7日の朝、さらに3回この歌を唱えて刻み、こうしてみじん切りにした七草をおかゆに入れ、塩で味をつける。

 ところで、この七草の歌に出てくる「唐土の鳥」とは鬼車鳥という中国に伝わる伝説の怪鳥らしいが、この「唐土の鳥」は唐=異国から飛んでくる渡り鳥のことらしい。
 この渡り鳥がさまざまな害をもってくることを昔から日本人は知っていたのではないか、だから「渡らぬうちに」七草がゆをつくってビタミンをとって備えようとしたのではないかとも言われている。
 なるほど、そうかもしれない、もしかすると私たちの先祖は渡り鳥が鳥インフルエンザなどの病気をもってくるのを知っていたのかもしれない。
 それを知ったとき、この歌のいうように唐渡(からわた)りもの(中国からの輸入品)はもちろんあらゆる舶来品に気をつけよう、こんな冗談も言いたくなったものだったが、それはそれとしてこの鳥インフルで渡り鳥のイメージがダウンした時期があった。
 その昔の私たちには白鳥や雁の飛来の姿、益鳥としてのツバメ等で、渡り鳥に対しては非常にいいイメージがあったのだが。

 しかし、私の生家では七草がゆをつくらず、当然歌も歌わなかった。もしかするとやっていたのかもしれないが、ともかく記憶にない。
 これは雪国かそうでないかによる違いではないかと私は考える。山形の一月の田畑は雪で覆われ、保存のできる大根を除いてせり、はこべなどの青いものは一切ない。一方、家内の故郷の宮城の場合は同じ東北でも雪のない太平洋側なので、ともかく七草はとれる。だから七草がゆの行事があるのではなかろうか。

 こんなことで、七草の名前は知っていたが、食べたのは家内といっしょになってからだった。あまりおいしいものではないが、ともかく今も毎年食べている。

 なお、山形では七草粥のかわりに納豆汁をつくって食べるという説もあるそうだが、よくわからない。たしかに正月に納豆汁を食べる(これはおいしい、身体も温まる。いつか本稿で紹介したいと思っている)が、必ず7日に食べたのかどうか記憶がないからである。

 二月は節分の豆まきである。根のついた大豆の茎にめざしの頭を刺し、それを家の中はもちろん小屋や便所にいたるまでのすべての入り口や窓の上におく。鬼をそれで誘うのだそうだ。誘われてやってきた鬼を外に追い出すべく、戸や窓を開け、家長である祖父と私たち子どもがさけびながら、外に向けて豆を投げつけて歩く。
 「福はー内、福は内、福は内、
  鬼はー外、鬼はっそっとーー」
 子どもたちはさらに付け加える。
 「鬼の目ん玉 ぶっつぶせー」
 投げた豆が座敷の中にも落ちる。その豆を何個拾えたか子どもたちが競争し、それをぽりぽり囓る。炒ったばかりの豆は香ばしいが、固くてあまりおいしくはない。噛んでいるうち甘くなるけれども、そうすると時間がかかる。それで本当にわずかしか食べられない。

 三月の節句は海苔巻きといなり寿司だ。
 押し入れからお雛様が出され、箱のなかから取り出し、雛の顔をくるんである柔らかい紙をとり、床の間につくった雛壇に飾る。妹が買ってもらった新しい雛以外に、何代か前の古い雛もいっしょに並べられるが、古い雛の顔は大きくて何かのっぺりしていて気持ちが悪く、どうしても好きになれない。それはなるべく見ないようにして、飾ってあるあられをつまむ。

(注)
1.家内は「何叩く」と歌うが、これは幼い頃に覚えたため、「七(なな)叩く」を間違って覚えたのではないかと思うのだが、どうなのだろうか。
2.自噴水(山形では「どっこん水」と呼んでいたが)の湧き出る地域ではその周囲の雪が解け、せりなどが冬でも顔をのぞかせるが、こうした一部の地域を除いてせりはもちろん野菜類は一切とれなかった。

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