【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】残された時間は多くない~「詰めの甘さ」の克服2025年1月9日
千葉県の酪農家さんの農水省前での訴えを思い出す。辛いものがあった。
「皆さんにお詫びします。私たちは潰れます。それによって、うちの従業員さんも、獣医さんも、餌屋さんも、機械屋さんも、農協もメーカーもみんな仕事を失います。申し訳ない」と。これも重大だ。
これ以上、国産の農産物が減ってしまえば、食べる物が無くなっていくんだから。それ自体が大騒ぎだけれども、それだけじゃなくて、日本の各地に一次産業があって、農家の皆さんが頑張ってくれて、このおかげでどれだけの関連産業と、どれだけの組織が成り立っているか。そのことをしっかりと「運命共同体」として認識して、支え合う仕組みを作っていく取り組みを強化しなければ、逆に運命共同体として泥船に乗ってみんなで沈んでいきかねない。
一次産業なんてちっぽけな産業だと言う人がいる。確かに年間生産額は10兆円規模。でもそれを基礎にして成り立っている関連産業の規模は110兆円。そうだ。日本の経済社会とは、まさに1次産業があって、そのおかげですべてが成り立っているのだ。しかも、山間の地域から平野部、そして海に近づくにつれて、一次産業の取り組みの循環のおかげで、全てがしっかりと循環圏を作り上げて生活が成り立つ。
東京のように都心部だけが肥大化すれば、もう人が住めなくなってくる。皆の力で日本各地にしっかりと都市と農村が融合した循環圏を作っていこう。
そのときに、やはりアメリカとの関係がネックというか、思い出される。もう食生活も変わっちゃったんだし、日本の農地じゃ足りないんだから、自給率なんか上げられないってよく言う。でも誰がそうしたのか。アメリカの政策だ。だから政策で変えられるはずだ。江戸時代を思い出せばすぐにわかる。
江戸時代は鎖国政策で外から物は入ってこない。でも当然自給率は100%。徹底的に地域の資源を循環させて、循環農業・循環経済を作り上げて、そして世界があっと驚いていた。これが我々の実績だから、こういう部分をさらに強化していこうじゃないかと。それをぶち壊したのが、アメリカの占領政策で、慶應医学部教授が回し者のようになって、米を食うと馬鹿になるっていう本を書いて大ベストセラー。極めつけが子供たちから変えていけというアメリカの戦略。学校給食だ。アメリカ小麦のパンと、それから脱脂粉乳。
あれで、むしろ私は嫌になったけど、こんな短期間に、伝統的な食文化を一変させた民族は世界に例がないと。完全にやられた。食生活改善運動ってみんなが頑張ったけど、全部アメリカのお金だった。非常にわかりやすい。
こういう流れの中で、農水省は一度頑張って、もうちょっと食事を見直せば、食料自給率は63%まで簡単に上げられるんだと。いいじゃないかと思ってみんなで頑張ろうと思ったら、このレポート(農林水産省「我が国の食料自給率(平成18年度食料自給率レポート)」は調べても、なかなか出てこない。わかりやすい。みんながこういうものを見て頑張ったら困るという話か。
そして、わかりやすいデータがある。我々の計算だ。大きな自由貿易協定を1つ決めるごとに、自動車が3兆円儲かって、農業がどんどん赤字になっていく。これを繰り返してきたわけだ。これで日本の産業は発展できたけれども、自動車は儲けを増やしてきたけれども、そこに何があったのか。もっと日本の産業界は、農業農村に対して責任を持つべきじゃないか。
農業を「生贄」にするために、メディアを通じて、日本の農業は過保護で衰退したんだっていう嘘が刷り込まれた。日本の農業は補助金漬けだって。でも調べたら、せいぜい所得に占める税金の割合は3割。スイス・フランスほぼ100%だ。
えっと思うかもしれないが、命を守り、環境を守り、地域コミュニティーを守り、国土国境を守っている産業は国民がみんなで支える、世界の常識だ。それが唯一、おかしなことかのように思わされている日本人が、世界の非常識じゃないかと言うことを今こそ考えないと。
フランスのように政策を頑張ってきた国の農家の平均年齢は51歳。日本の農家の平均年齢はもう69歳。10年経ったら、日本の農業農村、どれだけ存続できるか。今、全国を回っているけれども、5年持たないって言う声さえ多い。特に、稲作や酪農が。あと5年続けてくれる人がこの地域にはいないと。地域が消えると。そういう状況がどんどん進んでいる。
皆さんは一生懸命、農家と消費者が支え合う仕組みを作ろうとしてくれたり、農業をしっかりと頑張ってくれているけども、その皆さんの努力をもっともっと強化してスピードアップしないと、日本の農と食が救えなという、こういうことになってきているんだということを、ぜひ認識して、さらに皆さんが一肌も二肌も脱いでいただかないといけない状況だ。
以前、私のセミナーに参加してくれたフランス女性が指摘してくれた。「日本人は詰めが甘い。フランスのように政府が動くまで徹底的にやらなくては意味がない。流れを変えられなければ、すべての努力は、残念ながら、結局パフォーマンス、アリバイづくりで終わってしまう。フランスなら食料・農業の大事さをわかってもらうために、パリに通じる道路を(トラクターなどで)封鎖して政府が動くまでやめない。」 やり方には議論があろうが、「詰めの甘さ」をどうにか打開したい。
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