深刻な「米」問題【小松泰信・地方の眼力】2025年1月15日
「米」。1月7日開催の経団連、日本商工会議所、経済同友会による新年祝賀会で、NHKの記者から今年のキーワードを問われた細見研介氏(ファミリーマート社長)が書いたのがこの一文字。「トランプ政権のアメリカ」と「コメ」を意味している。
下品の極み
24年7月17日の当コラムで暗殺未遂事件を追い風に「きっトラ」(「きっとトランプ」の略)を予想した。それを自慢する気はないが、「本当にこんな下品な人が大統領で良いの?」という疑問が日に日に強まっている。自称民主主義大国の民が選んだわけだから、民のレベルもわかる。24年12月29日になくなったジミー・カーター元大統領がやけに上品なこと。
下品の極みトランプ氏が記者会見で、グリーンランドの購入と中米パナマ運河の管理権獲得に意欲を示し、実現のためには軍事力や経済的圧力の行使も排除しない考えを明らかにした。
信濃毎日新聞(1月10日付)の社説は、「国境不可侵の原則は世界の平和と安定の基盤を成す。武力をちらつかせて他国の主権を侵害し、領土を奪い取ることは、明確に国際法に反している。米国は世界最大の軍事力と経済力を持つ。大統領が相手国に譲歩を迫る手段として力を誇示して恫喝すれば、国際協調の維持に影響を与える」として、「身勝手な振る舞いを認めてはならない」と断じる。
加えて、「カナダを編入して51番目の州にする」とか「メキシコ湾の名称を『アメリカ湾』に改める」と表明したことにも言及し、「法の支配を無視して力ずくで現状変更する試みを肯定するもの」であるため、「トランプ氏2期目の世界は極めて危うい状況に陥る」と警鐘を鳴らしている。
ここでも始まる忖度
これらのトランプ発言を関して新潟日報(1月10日付)の社説も「前時代的な『膨張主義』と言わざるを得ない言動だ」として、「大国が覇権拡大に走るのでは危うい」と危機感を募らせる。
大統領選のさなかには、就任後24時間でロシアとウクライナ停戦を実現すると豪語していたが、最近の会見では目標を「6カ月、できればそれよりだいぶ前に終わらせたい」としたことに疑問を呈する。その理由は、「米国の大統領は、国際社会をリードする立場にある。発言には責任を持たねばならない」からだ。
さらに、トランプの言動に迎合するかのような米企業の動きも取り上げている。米IT大手メタが、運営する交流サイト(SNS)で、第三者機関による投稿内容のファクトチェック制度を米国で廃止することを紹介し、「自社に不利な政策変更のリスクを軽減する狙いだろう」と読む。しかしその結果として、陰謀論や偽情報がSNSに増える恐れは拭えないことから、「分断を深める情報の蔓延」を危惧する。
明らかになったアメリカの底の浅さ
毎日新聞(1月6日付)によれば、ワシントン・ポストの著名な風刺漫画家アン・テルナエス氏が、同紙のオーナーである「アマゾン」の創業者ジェフ・ベゾス氏らが、トランプ氏にひざまずいて金を差し出す様子を描いた風刺漫画の掲載を拒否されたのを理由に辞職した。同紙は「検閲」を否定しているが、アン氏は「言いたいことを言う自由を持つべきだ」と訴えている。
米メディアによると、トランプ氏の勝利後、ベゾス氏ら「IT長者」が、それまで距離を置いてきたトランプ氏の自宅を相次いで訪れたことや、アマゾンやメタが、政権移行のために設立された基金に多額の寄付を決めたことを報じている。
日本経済新聞(1月13日付)のコラムは、近年多くの米国企業が掲げてきた「DEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包摂性の頭文字)」推進の活動に急ブレーキがかかっていることを告げている。マクドナルドは多様性確保の目標を撤廃、ウォルマートも人種公平性に関する従業員向けの研修を打ち切る、ファクトチェックをやめるメタはDEI施策も廃止する。この変身ぶりを、「保守派による圧力に加え、まもなく大統領となるトランプ氏へのお追従の色も濃い」と指弾する。
この流れは「じきに日本を襲うかもしれない」が、日本でのDEIに「どこまで中身があろう」と斬る。法制審議会答申から約30年になるのに立ち往生したままの選択的夫婦別姓を例に上げ、「見直すレベルには、ことが進んでいない」と嘆息。
要するに、アメリカの企業も底が浅いということ。底浅き大国の植民地日本を見れば、なんとすでに底は抜けている。
情けないが「馬が合わない」関係に期待
沖縄タイムス(1月12日付)の社説は、「石破茂首相とトランプ氏は、政治家としての肌合いが著しく異なっている。とても『馬が合う』関係にはなれそうもない」としたうえで、「見方によっては、そこに石破政権が独自性を発揮することのできる可能性が潜んでいる、とも言える」と、興味深い見解を示している。その上で、「対中包囲網を強化するため日本に法外な防衛費増額要求を突き付ける可能性がある。これまでのように唯々諾々と従うだけでは、国際社会が日本に求めている役割を果たすことにはならない。東南アジア諸国連合(ASEAN)や『グローバルサウス』と呼ばれる新興国・途上国とも連携し、非軍事的支援や紛争回避のための対話を進めることが、日本に対する評価につながる」と期待を寄せる。
主権国家なら『食料主権』を主張せよ
そしてコメ。日本経済新聞(1月15日付)の社説は、「日本の食料安全保障を確かなものにするため、水田政策を大きく転換することが必要になっている。コメの生産調整を軸にした農政からの脱却がカギを握る」と訴える。2030年の農家や農業法人などの総数が20年の半分に減る見通しだからだ。
「大切なのは国民の命をつなぐのに欠かせないコメや麦、大豆などの生産を、それぞれどうすれば持続可能なものにできるかという長期ビジョンと具体策だ。(中略)気候変動や軍事紛争など様々なリスクも念頭に置いて、さらなる混乱を防ぐことのできる農政の構築が急務になっている」と迫る。
改めて言うまでもないが、トランプ政権は「法外な米国産農畜産物の輸入」を要求してくるはず。受け入れれば、わが国の農業の息の根は止まる。拒めば兵糧攻めで国民の息の根は止まる。いずれも地獄。農業も国民も生き残るためには、今すぐ農業再生への支援策を強化し、食料自給への道筋を付けることに着手しなければならない。
そして、植民地根性を捨て、主権国家の名にかけて『食料主権』をトランプ政権に突きつけることを忘れてはならない。
「地方の眼力」なめんなよ
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