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「国づくりの基本軸」を問う【小松泰信・地方の眼力】2025年1月29日

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タレントの引退報道に朝刊1面を奪われた、情けない第217通常国会が、1月24日招集された。

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食料自給力も著しく低下

 石破茂首相は衆参本会議で施政方針演説を行った。
 まず、「1 国づくりの基本軸」において、人を財産として尊重する「人財尊重社会」を築いていく必要性を訴えた。
 そして、「食料自給力、エネルギー自給率が低い現状では、外的な事象に国民生活が大きく影響を受けてしまう懸念があります」として、「持続可能で自立すること」を新しい国づくりにおいて重視すべきこととした。
 エネルギーに関しては自給率を用いているのに、食料に関しては自給力を用いている。よほど食料自給率に触れたくないようだ。
 農林水産省によれば、食料自給力とは、農業資源(農地・農業用水等)、農業技術、農業就業者から構成される「食料の潜在生産能力」である。
 2023年度食料・農業・農村白書から、食料自給力の著しい低下が確認される。
 2023年の農地面積は430万ヘクタール。1965年が600ヘクタール。この58年間で3割の減少。
 戦後から高度経済成長期にかけて整備された基幹的農業水利施設も、老朽化が進行している。標準耐用年数を超過している基幹的施設が4,445か所(全体の57.5%)、基幹的水路が2万3,832キロメートル(45.9%)。2022年度における経年劣化やその他の原因による農業水利施設の漏水等の突発事故が、1,623件と高い水準で発生している。
 基幹的農業従事者数は2000年の240万人から2023年には116万4000人にまで減少している。わずか23年間で51.5%の減少となっている。このうち49歳以下の基幹的農業従事者数は13万3000人で全体の約11.4%。他方65歳以上は82万3000千人で全体の70.7%。その平均年齢は68.7歳。
 教科書的にいえば、生産の三要素である「土地・資本・労働力」の減少が顕著である。当然食料自給力の低下は明らか。このレベルの生産要素で、食料自給率を向上させようとは虫が良い。食料に関して、この国が「持続可能で自立すること」は不可能。
 「率」から「力」に目先を変えても「力及ばず」。分かるかな?

平和的国防の人財を尊重せよ

 もちろん分かっていないことは、「2 地方創生2.0『令和の日本列島改造』の具体化」において、「世界有数の潜在力を持つ日本の農林水産業・食品産業を、徹底的な高付加価値化により、基幹産業として確立します。これらが儲(もう)かる産業となるよう、スマート化・大区画化など生産基盤を強化します。米を世界へ輸出するプロジェクトの推進、安定的な輸出入と備蓄の確保などを通じて、食料安全保障を確保します」と宣明するところで露呈する。
 すでに産業として成立し得ないほど危機的な生産要素の減少や劣化に直面している農業の再生が、こんな上っ滑りな政策で可能な訳がない。潜在力を顕在化させたいなら、まずは基幹的農業従事者を増やすことに全精力をつぎ込むべきである。
 有り難いことに、参考にすべき方法が、「5 外交・安全保障」において、「自衛官が十分に充足されていないことは極めて深刻な課題であります。30を超える手当等の新設・金額の引上げなど過去に例のない取組を2025年度から実現します。自衛官の処遇の魅力向上、若くして定年退職を迎える自衛官が退職後も活躍できる環境の創出等を内容とする法案を提出いたします」と記された、「自衛隊の人的基盤の強化策」に示されている。
 これを、「基幹的農業従事者が十分に充足されていないことは極めて深刻な課題であります。自衛官に負けない多数の手当等の新設・金額の引上げなど過去に例のない取組を2025年度から実現します。農業従事者の処遇の魅力向上、若くして就農しようと考えている方々が満足できる就農環境の創出等を内容とする法案を提出いたします」と変えるだけでいい。
 軍事的国防の人的基盤の強化ができて、平和的国防の人的基盤の強化ができないわけがない。
 「楽しい日本」を目指すなら、軍事的国防の人財以上に、平和的国防の人財を尊重しなければならない。

能登はまだまだ

 「能登半島地震から1年、復興中の奥能登を襲った豪雨から4か月が経過しました」で始まる「4 防災・治安」は、「復旧・復興への着実な取組により、地震に係る応急仮設住宅は全て完成し、農林水産業や輪島塗の再開も進みつつあります。能登の賑わいと笑顔を一日も早く取り戻すため、災害廃棄物処理の加速、公営住宅の建設等により被災者の生活・生業の再建を強力に支援します」と続いている。
 本当か? 分かってる?
 つい先日、石川県の知人から届いた手紙には、「丸一年がたちましたが、現地の方々が異口同音に言われているのは、『とにかくすべてが遅い』という話しです。私事ですが、長男の嫁は輪島出身で、嫁のご両親は仮設に住んでいますが、お会いすると『対応がすべて、なんか遅い』とお話しをされておられました」と記されている。
 同じ頃、同県珠洲市の農業法人から届いた水害から逃れた貴重な米を、落涙をこらえていただいた。お礼の電話をしたら、社長夫妻が明るい声で、「なんとかまた作ります」と言ってくれてホッとした。決してめでたしめでたしではない。折れたり、ヒビの入った心に包帯をきつく巻いて、なんとか気丈に振る舞っていることが伝わってくる。

地に足の着いた心穏やかな日々を

 金沢市に本社を置く北國新聞(1月25日付)の社説は、「東京一極集中が進む一方、地方は人口減少が加速し、北陸の過疎地域でも産業や医療、交通、教育など、あらゆる分野で課題が顕在化している」とした上で、「能登半島地震では多くの地方が直面する過疎、高齢化社会の脆弱さが浮き彫りになった。災害に見舞われても人々がそこで暮らし続けるには、生活の糧となるなりわいが必要である。能登の基盤である農林水産業については、徹底的な高付加価値化を追求し、もうかる産業を目指すとしたが、能登では、ほどほどの収入でも、農業、漁業、林業で暮らしが成り立つような支援策もいる。そんな生き方が可能になれば、豊かな自然を求めて移住、定着する若者も増えるはずである」と訴える。
 「生活の糧となるなりわい」「ほどほどの収入」「暮らしが成り立つ」、こんな言葉が心に響く。
 人々が、心穏やかに、地に足の着いた日々を、当たり前として過ごすことができる、それが「国づくりの基本軸」。分かる?

 「地方の眼力」なめんなよ

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