【浅野純次・読書の楽しみ】第106回2025年2月18日
◎福場将大『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版、1540円)
20代半ばで視野が狭まる症状を発症した著者は35歳のとき完全に失明します。当初は医師の道をあきらめたのですが、精神科医なら目は見えなくとも心は見えると気づいて卒業後、その道を歩み始めていました。
もちろん不自由なことはたくさんありますが、目が見えないからこそ気づくことはたくさんあったようです。むしろ患者さんの足音、話し方などに神経を集中していると、見える人以上に気がつくことが多いのだとか。
「目が見えている医師にできない仕事をすればいい」と気づいたというのはまさに逆転の発想で、視力に限らぬ話でしょう。失ったものだけに意識を向けると辛くなる、代わりに得たものは何かと思えば立派な前進だ、と著者は言います。何事も前向きな姿勢には大いに励まされます。
目が見えないために人に助けられる場面も多いけれど、精神科という「正解のない」医療の世界で人を助ける仕事ができる。著者は大きな生き甲斐をもって進んでいきます。
目が見えなくなって「人の内面が圧倒的に気になります」という一節にはハッとさせられました。私たちはつい外見で人を判断しがちだけれど、問題は中身だと。読みやすくて、心温まる、教えられることの多い本です。
◎牧野篤『「ちいさな社会」を愉しく生きる』(さくら舎、1760円)
コミュニティーが大事なことはわかっていても、どこで誰がどう運営すればよいのかはなかなかの難問です。
最初に登場するのは東京世田谷の住宅地にある「岡さんの家」。空き家だったのを持ち主の岡さんが提供して、みんなが自由に集まったり、放課後にたむろする子どもを、おばさん、おじいさんたちが面倒をみたり、さまざまに関わり合う場となっています。
次の舞台は千葉県柏市です。市の空き車庫を貸してもらい、手作り改装して居心地の良いコミュニティー・カフェが完成。住民のグループ活動に予約は半年先まで埋まり、子どもたちも集まるようになってじじばばが大活躍するという好循環が生まれています。
最後は那覇の公園にパラソルと机、黒板を置くだけの「パーラー公民館」。3例に共通するのは参加する人たちが面白がっていること。特に退職した高齢者たちが生き生きしているのが印象的です。あなたの地元もいかがですか。愉しい「小さな社会」を作り出すヒントがたくさんです。
◎桑原晃弥『やなせたかしの言葉』(リベラル社、1100円)
近所の幼稚園の塀には、空飛ぶアンパンマンのレリーフがあります。作者やなせたかしが亡くなって10年以上経ちますが、アンパンマンは子供たちには依然として絶大な人気のヒーローです。
本書はやなせたかしの生涯を振り返りながら、折々に書きつづり語り残したフレーズを80篇に整理し、解説したものです。幼くして父親を失い母も去って、叔父のもとで親の愛情に飢えながら過ごしたうえ、漫画家としてもなかなか芽が出ず苦労しただけあって、どれも含蓄があります。
「僕なんか漫画家として百二十番目くらいだけれど努力できるというのも一つの才能です」「僕は物事を前向きに考えるようにしているの。倒れるなら前のめりに倒れようと」「僕の辞書には『もう歳だから』はありません」。
アンパンマンが大ヒットしたのはやなせたかし69歳のときでした。そうと知れば「もうだめだ」「あきらめよう」などと簡単には言えなくはなりませんか。
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