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米価高騰の主因は食糧安保政策の不在【森島 賢・正義派の農政論】2025年3月10日

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 米価の高騰が続いている。それを抑えるための、政府備蓄米の放出が、ようやく今日から始まる。
 とはいっても、入札が始まるだけである。実際に米屋さんの店頭にそのコメが並ぶのは、今月下旬以後だという。
.                 ◇
 あまりにも遅い、という批判がある。
 異常な高騰が続いているのに、政府はこれまで無策だった。
 その上、備蓄米は、やがて尽きるのだが、これから増産しようとしても、もう遅い。今年産の増産には、もう間に合わないだろう。
 「苗半作」と言われている。苗の良し悪しで、作柄が半分決まるという意味である。増産しようとして、これから急いで作ろうとしても、もう遅い。あわてて作ったのでは、良い苗は作れない。それでは、豊作はのぞめない。
 その前に種子が必要である。今年用の種子は、もう売り切れているだろう。今すぐに増産を決めても、今年は、もう間に合わない。来年まで待つしかない。来年、増産したコメが実際に市場に出回るのは、早くても早期米が出始める来年7月からだろう。
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 備蓄米の放出量が、あまりにも少ない、という批判がある。
 その量は15万トンで、全国民の消費量の僅か8日分にすぎない。9日目以後は、元の木阿弥に戻るだろう。それ以後は、相場師が暗躍する相場戦に戻るだろう。
 そこは、ジャングルの掟が支配する世界である。報道によれば、ジャングルの中には、他国籍の辣腕の相場師もいるらしい。
 「戦力の逐次投入」という、キナ臭い戦争用語がある。ジャングルの中でも罷り通っている用語だろう。これは最悪の愚策で、戦力を投入するなら、15万トンなどと少しづつ投入するのではなく、一気に全力投入して、一気に敵を殲滅するのがいいという、忌まわしい戦争用語である。
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 政府は、いったい本気で米価を抑える気があるのか。世間は疑っている。国民は怒っている。
 政府は怠けているのか。そうではない。何のために米価の高騰を抑えるのか、それが定まっていないのである。
 以下では、米価が高騰した主な原因は、大資本が主導する市場原理主義農政と、確固とした食糧安保政策の不在だ、という私見を、やや詳しく述べよう。

 米価を、生産者米価と消費者米価とに分けて考えよう。ここでは、生産者米価は、販売単価に各種の助成金単価を加えたものとする。つまり、生産者の実質的な手取り米価である。
 農業者だけでなく、国民は、消費者米価は下げろ、と言っているが、生産者米価は下げるな、と言っている。
 しかし、大資本が中心の財界は、消費者米価も下げろと言っているし、生産者米価も下げろと言っている。
 つまり、国民と財界は、ともに消費者米価を下げろ、と言っている。この点では意見が同じである。
 しかし、生産者米価については、意見が違う。国民は下げるな、と言っているが、財界は下げろ、と言っている。両者は、真向から対立している。

 国民は、なぜ生産者米価は下げるな、と言っているのか。
 理由は、市場原理に従って生産者米価が下がれば、生産者は生産を縮小する。小規模の生産者は、廃業に追い込まれるだろう。その結果、食糧自給率が下がり、食糧安保が危うくなる。だから反対している。
 このように、国民は食糧安保が重要だ、と考えている。

 これに対して、財界は、なぜ生産者米価も下げろ、と言っているのか。
 理由は、市場原理主義に基づいて、生産者米価と消費者米価は、市場では一致するのが市場原理だ。だから、それに従わねばならない、と考えている。生産者が赤字になれば、生産を縮小するが、それでいいのだ、と考えている。それが市場原理だ、と言う。市場原理は、決して犯してはならない至上の原理だ、と言う。
 このように、財界には食糧安保の考えが、全くない。食糧自給率は下がってもいい。という考えである。このように考える財界の背後には、アメリカの影が見え隠れしているのだが、ここでは、それを指摘するだけにしておこう。

 では、政党はどうか。
 政党は、農業者などの国民からは、選挙のときの票が欲しい。「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙で落ちると只の人」という戯れ言がある。
 しかし、国民は食糧安保を重視している。

 政党は、財界からは、選挙で落ちないための政治献金がほしい。「カネの切れ目が縁の切れ目」という戯れ言がある。政治家は、国民との縁が切れたら選挙で落ちる。
 しかし、財界は食糧安保を無視している。

 このように、両者は食糧安保についての意見が、真向から対立しているので、政党は、両者の間で、板挟みになっている。
 このような状況のもとで、政府は進退が窮って、備蓄米の放出に逡巡して、右往左往しているのである。

 ここで、あらためて言っておこう。日本は民主主義の国家である。政治を決める主権者は国民である。財界は、主権を持っていない。
 政府は、主権者である国民から負託を受けているのだから、主権者である国民の、生産者米価は下げるな、という意見に忠実に従はねばならない。
 主権者でない財界の意見は、主権者である国民の意見に反対なのだから、その意見に従ってはならない。つまり、生産者米価を下げてはならない。
 そうしなければ、日本は民主主義国ではなくなってしまう。

 主権者である国民の意見に従って、消費者米価を下げて、生産者米価を下げなければ、そこに差額が出る。政治は、この差額をどうするか。
 それは、主権者である国民の意見なのだから、政治を負託された政府が、責任を持って差額を補填しなければならない。
 主権者にとって、食糧安保は、いかなる事態になっても、主権者の生命を守る政策である。だから、食糧安保は、政府にとって、主権者に負託された、主権者の生命を守るための、それ程までに重要な政策なのである。

 この補填制度の構築は、政府の急務である。愚図愚図してはいられない。
 3か月後には、参院選が待っている。最大野党の立憲党をはじめ、いくつかの野党は、補填制度の素案を持っている。
 国会での、与野党の熟議を期待しよう。

(2025.03.10)

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