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(426)「豆腐バー」の教訓【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月14日

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 お昼や仕事の合間に「豆腐バー」を食べる人も多いのではないでしょうか。「豆腐バー」と「サラダチキン」、この2つは近年の日本では驚異的なヒット商品です。

 2つの商品は素材もメーカーも異なるが、誰にでもわかる共通点がある。消費者の視点から見れば、いつでも簡単に入手可能、手頃な価格、慣れ親しんだ原材料であり、必要なタンパク質が効率よく摂取でき、最近の表現で言えば「コスパ」が良い。

 さて「豆腐バー」である。豆腐はいわば伝統食である。伝統食であるが故に、残念ながら他の伝統食同様、近年の消費は停滞傾向にあった。これを何とかしたいと取り組んだ株式会社アサヒコの社長池田未央氏が米国へ視察に行くと、現地には日本では考えられないような「硬い豆腐」が普通に売られていた。

 筆者も米国の豆腐を何度も食べたが、確かにさまざまな硬さのものが売られている。それを見て豆腐の可能性をつぶしていたのは日本人自身であった点に気が付いたのは流石である。全くそういう発想はなかった。木綿豆腐のハード・バージョンくらいの認識であった記憶がある。

硬い豆腐を作る...、それだけだが、この発想の転換が難しい。試作時には長年いわば普通の良い豆腐を作っていた現場からも大反対があったようだ。最初にアイデアを持ち込んだ時の反応は今や余りにも有名である。「そんなモノ作れるか」「豆腐を冒涜している!」である。

 その状況の中で約1年かけて試作品を作り、コンビニ大手のセブンイレブンに持ち込んだところ、さらに難しい課題が2つ提示されたという。それは当時大ヒットしていた「サラダチキン」のように固くし、「タレがこぼれないようにすること」である。

 ここで出された課題は非常に興味深い。硬い豆腐の製造に自社の現場は猛反対したのに対し、コンビニの大手はさらに硬く「サラダチキン」並みの強度を求めたという。本当のニーズは全く逆方向である。衰退産業がなぜ衰退するのか、いろいろ理論はあるが、食品の場合などは顧客のニーズに合う商品を世に出せないからである。

 我々の多くが無意識の中で豆腐はこの硬さ(柔らかさ)とこの形でなければならないという固定観念に縛られていたために陥ったワナであろう。朝昼晩の食事の中でみそ汁やなべ物の具、あるいは冷奴として食べる豆腐はそれで良い。

 一方、オフィスで仕事の合間にタンパク質を摂取しようと思ってもサプリや粉末プロテインなど普通は手にしない。また、試作品に対して付けた2つ目の指摘「タレがこぼれないように」というのも、職場で簡単な昼食を済ます多くの人々にとっては大変有難いポイントである。

 さらに、もうひとつ重要な点は、この商品を持ち込んだ先が大手スーパーではなくコンビニであったという点である。街角の豆腐屋さんを見ることが少なくなった現在、消費者の多くは豆腐をスーパーで購入する。いわば伝統的用途のためだ。

 しかし、ここで販売しようとしている「豆腐バー」は、普段の生活の中でお昼やオヤツ、残業時に簡単に食べられる手軽な商品として位置づけられている。スーツ姿のビジネスパーソンは昼に住宅街のスーパーには入りにくくても、オフィス街のコンビニには普通に入る。したがってそこで手に取ってもらえる商品としてのサイズ、価格、味、見栄え、これらが凝縮されているコンビニを最初の販路として選択した点にも鋭さが見える。こうしたニーズを見事に捉えたからこそ、発売から数年で類型(7,500万本、昨年11月時点)も売れた大ヒット商品になったということであろう。

 それにしても、「豆腐を冒涜している」という反応は、ともすると全ての農産物について言いかねないのではないか。そして、実はそれこそが良い素材の可能性を押しつぶしている原因のひとつなのかもしれないとあらためて感じた次第である。

* *

個人的には「スモーク」系の「豆腐バー」が良いですね。

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