10月限がストップ安になったコメ先物市場【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月18日
農水省が3月14日に政府備蓄米落札概況を公表した。15万0579t提示したうち94.2%に当たる14万1796tが落札された。残量の8783tは全量5年産で次の追加売却に加えられる。落札価格は加重平均で60kg当たり2万1217円(税別)になっており、この落札結果に最も敏感に反応したのが堂島取引所のコメ先物市場で、4月限から12月限まで軒並み下落、10月限は680円のストップ安で2万6420円まで値下がりした。10月限は7年産新米が受け渡しされる限月だが、この限月の価格を7年産事前契約の基準にして産地と契約しようとする卸もいるだけに価格変動に対するリスクヘッジの意識が一層高まった。
3月11日に新潟市の全日空ホテルで新潟県稲作経営者会議の総会が開かれ、筆者が講演したので、コメ先物取引で試験上場中に取引できた「新潟コシヒカリ」を売買したことがある人の挙手を求めたところ70名ほどの出席者のうち3名しか手が上がらなかったので意外に少ない印象を受けた。試験上場中は、新潟コシや秋田あきたこまち、宮城ひとめぼれなど特定産地銘柄別に上場されており、現物の受け渡しも盛んで、中でも新潟コシヒカリが最も活況を呈していた。新潟コシヒカリ先物市場を活用していた集荷業者の中には買いヘッジして6000万円の利益を上げたところや期近を売って期先を買うという逆ザヤの鞘取り行って保管経費を軽減するなど高度な取引を行っていた業者もいた。また、JA北蒲みなみは集荷したコメのうち8割方は卸への直売であったが、売れ残ったときの販売先の一つとして先物市場の新潟コシに売りヘッジすることにした。たまたま取引所が指定した倉庫が自農協の近くにあったことからそのまま現物を渡して確固たる所得を得ることが出来た。
現在、堂島取引所に上場されているコメ先物は「堂島平均」という指数であり、現物の受け渡しを伴わないこともあって、先物市場の活用法がわからないという意見が多い。実際、試験上場中に新潟コシヒカリ先物市場を活用していた生産者も今の指数取引は「わからない」という。中でも自分たちが生産しているコシヒカリがいくらなのかわからないという点に不透明感があり、農協などは「疑わしい世界」とまで言っているという。また、堂島平均が全国118産地銘柄の平均価格であることはわかるが、では自分たちが生産している新潟コシヒカリがいくらで取引されるのがわからないので使えないという意見もある。
これは、穀物の先物取引で最も一般的な「標準品」取引では、代表的な銘柄を決め、それを標準品として現物の受け渡しの際は、取引所が各産地銘柄の格付けを行っていた。いわば格付け取引であり、納会で現物が受け渡しされる際は、取引所が決めた格差で受け渡しされた。
現在の堂島コメ平均は現物の受け渡しを伴わず、最終決済は堂島取が決める最終決済価格で反対売買を行って清算されることになっている。従って新潟コシヒカリを取引所で換金することは出来ず、堂島平均価格に対して新潟コシヒカリがいくらの格差が付くのかわからない。それが可能になるには堂島取引所が指定した現物市場で毎日のように全国各産地の銘柄が売り買いされ、そこで形成される価格により各産地銘柄の格差が明確になれば、新潟コシヒカリの格差もわかり、納会前に現物市場を使って換金できるようになる。しかし、現状は、その現物市場が機能している状況ではないため、先物市場を使って自産地銘柄を換金しようと思っても簡単には出来ない。では、現在のように価格変動のリスクが増大している状況でどのようにしてコメ先物市場を利用すれば良いのか?
それは、最もシンプルな手法として先渡し取引と先物市場を組み合わせた手法により、生産者は将来の所得を確保して、卸は価格変動のリスクをカバーできるようになる。
具体的には、新潟県の生産者Aと首都圏のコメ卸Bが今年10月渡し条件で7年産新潟コシヒカリを1俵2万5000円で1000俵を「先渡し条件」で売買契約する。これにより生産者Aは作付け前から2500万円(1000俵×2万5000円)の所得が確定する。買い手の卸は将来の現物の確保が出来、価格変動に備えて先物市場の10月限に2万5000円で20枚売る(1枚50俵×20=1000俵)。これにより今年の10月になって豊作で新潟コシヒカリの現物価格が2万円に値下がりしても2万5000円で売ったものを2万円で買い戻すことにより、1俵当たり5000円の利益が出るため現物が2万円に下がっても損出をカバーできる。これが最もシンプルなリスクヘッジ方法で、新潟コシヒカリが堂島平均に比べ、いくら高いのかといった格差は先渡し取引を行う際に生産者と卸の間で決めればよい。
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