米価の中・長期展望【森島 賢・正義派の農政論】2025年3月24日
いま、米価は激動の中にあって、今後の米価を短期的に予測しようとしても、それは、不可能といっていい。投機の世界に入ってしまったからである。あと1~2年は乱高下して、混沌とした状態が続くだろう。
こうなったのは、政治が、怯んでいるばかりで、収拾するための確固とした対策を行わないからである。
この混沌が過ぎた後、中・長期的な視点でみたとき、政治は米価をどうするか。これが、本稿の主題である。
ここで注意すべきことは、「米価はどうなるか」ではなくて「米価をどうするか」である。
「米価はどうなるか」という問題設定には、責任をとるべき人間としての主体がない。これは、官僚的無責任の見本と言っていい。悪い社会主義的無責任と言ってもいい。
これに対して「米価をどうするか」という問題設定には、結果に責任を取るべき主体がある。もちろん主体は人間である。ある社会思想を持っている人間である。
そうした人間を対象にしない科学は、社会科学ではない。これは、神谷慶治先生の教えである。
社会科学に基礎を持たない対策は、砂上の楼閣である。崩れて害を国民に及ぼす。
上の表は、消費者米価を、上げた場合と下げた場合の2つに分け、生産者米価も、上げた場合と下げた場合の2つに分け、それを組み合わせた場合を考えている。そうすると、表で示したように、4つの場合になる。これで、今後に予想される全ての場合を網羅している。これ以外の場合はない。
それぞれの場合に、今後の消費量と供給量がどうなるか、を表の中に示した。そうして、その結果、自給率と食糧安保がどうなるか、を示した。
◇
この表から分かることは、3の場合、つまり消費者米価を下げ、生産者米価を上げた場合しか、自給率を上げて、食糧安保を確保することができない、ということである。
その他の場合、つまり1と2と4の場合は、消費者のコメ離れが起きるか、生産者の脱農が起きて、自給率を下げる。その結果、食糧安保を確保できない。
これは、論理の必然である。疑問の余地はない。
つまり問題は、3の場合の政策を採用して、食糧安保を確保するかどうか、である。
◇
振り返って、戦中・戦後はどうだったか。当時の政府は、3の場合の政策を実施してきた。食糧安保を最重要の政策と考えたからである。
かつての民主党なども、3の場合の政策を提案し、国民の支持を得て、政権を奪取して実施した。
どの時も、消費者米価と生産者米価との間にある価格差は、政府の責任で補填した。
その後、民主党が中心の政権に代わって、自公政権になってからは、この政策を放棄した。そして、今に至っている。
そして今、最大野党の立憲党をはじめ、いくつかの政党は、米価高騰のなかで、再び3の場合の政策を提案している。
◇
いまの自公政府は、3の場合ではなく、4の場合の政策が最善と考えている。消費者米価も下げ、生産者米価も下げるという政策である。この政策は、大企業中心の財界が主張する市場原理主義農政である。そして、財界寄りの、いわゆる識者を動員して、それを主張している。
だが、この政策は上の表で示したように、食糧安保を不安にす陥れるものである。だから、生産者の農業者だけでなく、多くの国民が反対している。
この点は、3か月後の参院選で最重要の論点になるだろう。立憲党などが主張している、直接所得補償制度の復活は、有力な提案の1つである。
充分な議論を期待しよう。そうして、国民の厳正な審判を待とう。
◇
1つ加えておこう。コメを輸出を振興しておいて、非常時になってコメが不足したら、輸出を禁止して国内で消費すればいい、そうして食糧安保を計ればいい、という俗論がある。
この俗論は、過去30年間も失敗を重ねてきた。これが俗論であることは、この失敗の事実が何よりも雄弁に証明している。
俗論というだけではない。30年間もの長いあいだ、国民を欺き続けてきた、幻の愚策である。
そして、いまも国民を欺き続けようとしている。
(2025.03.24)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(138)-改正食料・農業・農村基本法(24)-2025年4月19日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(55)【防除学習帖】第294回2025年4月19日
-
農薬の正しい使い方(28)【今さら聞けない営農情報】第294回2025年4月19日
-
若者たちのスタートアップ農園 "The Circle(ザ・サークル)"【イタリア通信】2025年4月19日
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
3月の米相対取引価格2万5876円 備蓄米放出で前月比609円下がる 小売価格への反映どこまで2025年4月18日
-
地方卸にも備蓄米届くよう 備蓄米販売ルール改定 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
JA共済アプリの新機能「かぞく共有」の提供を開始 もしもにそなえて家族に契約情報を共有できる JA共済連2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日