【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「盗人に追い銭」外交の生贄はコメと乳製品2025年4月3日
日本の食と農の独立の好機?
トランプ大統領の基本姿勢は、「反グローバリズム」「自己完結型経済」と思われるので、グローバル化に晒され、過度に輸入依存に陥っている日本の食と農からすると、あるべき方向性を示していると言える。米国は日本を、米国の余剰農産物の処分場として、日本を食料で自立させないようにして「属国化」し、米国発のグローバル穀物商社などの儲けにもつなげてきた。
関税を引き上げてでも輸入によって米国内産業が打撃を受けないように守り、各国にも、より独立した形で自国を守ることを容認するなら、日本も関税を引き上げてでも輸入依存度を減らして食料自給率を高め、食と農が独立できる可能性が高まることになる。
米国から「独立」できることはありがたいが、それは、ある意味、突き放されることにもなるので、日本が本当に自力で日本国民の命を守れるだけの農業生産力を強化できるかという課題も突き付けられる。
一方で、米国にとって農業は輸出産業であり、「米国ファースト」で自国利益を高めるには、日本にもっと買わせることが不可欠との判断から、理不尽な要求が強まる可能性も懸念される。自動車などの追加関税で脅されて日本が農産物で不利な条件を飲まされ続ける懸念がある。実際、前回のトランプ政権では、こうした事態に陥った。
濡れ衣を着せられた蛾の幼虫物語の顛末
振り返ってみよう。2019年8月25日に日米首脳会談で、トランプ大統領がうれしそうに、「安倍さん、中国が買うと言って買わなくなって余ったトウモロコシを日本が買うと約束したあの話、君からしてくれ」と、みんなに聞こえるように当時の安倍総理に促した。総理は「害虫駆除のために買います」と言った。
害虫駆除 (?) とは何か。日本のトウモロコシを蛾の幼虫が食べているので、不足するから、これを買わなくてはいけないのだと説明された。農水省の担当者が記者の質問を受け、「害虫は出ていますが、被害は出ていません」と答えた。これはえらく怒られたのだろうか、あとで言い換えた。「害虫の被害については確認していません」と(結局一緒だが)。
しかも、この害虫が出たトウモロコシは青刈りトウモロコシといって、牧草などと一緒に混ぜて繊維質を与える粗飼料というもの。粗飼料が足りなくなっても、アメリカから買う栄養価の高い粒の濃厚飼料のトウモロコシを牛に代わりに食べさせたら牛は病気になってしまう。代わりにならないものを無理やり理由付けに使ってしてしまったわけだ。
だから、これは最初にそういう理由があったのではなく、「尻拭い」で買う(言葉は悪いが、親分が粗相したので、お尻を拭くのは日本)ということになってしまったけど、そんなことは恥ずかしくて国民に言えない、何か理由を探せということで、濡れ衣を着せられたのが、蛾の幼虫だった。この背景には日本が自動車の追加関税に怯えていたことがある。
自動車の追加関税の見直し求めて食と農を犠牲にしないか
トランプ氏自身は日本に買うと言わせた2019年8月25日のパフォーマンスで満足して、あとのことには関心がなかったかもしれないが、当時懸念されたのは、ヌカ喜びさせられたと気付いた米国の穀物業界が話が違うと言い出したら、どうなるか。トランプ氏もまた動く。恐ろしいのは、味をしめたトランプ氏は、引き続き自動車への25%の追加をちらつかせることで、日本に際限なく様々な「尻拭い」を要求してくる可能性だった。
威嚇されるたびに、トウモロコシも毎年300万トン近く買わされたら、あっという間に1,000万トンになってしまう。実は、実際、2019年8月25日の会見時、第1報では、日本政府高官の発言として日本が約束した輸入量は1,000万トンとの情報が記者の間で駆け巡っていた。そういう可能性は最初から出ていたということだ。
日米貿易協定の交渉でも、米国へ輸出する牛肉は、TPPより勝ち取ったと日本側は虚偽の説明をしたが、実態は逆だった。TPP(環太平洋連携協定)では低関税枠の拡大(200トン→6250トン)のうえ、枠外関税(26.4%)も15年目に撤廃され、完全自由化のはずだったが、2国間協定では、実質的にはわずかな枠の拡大(200トンを少し超えても枠内扱いが可能になる程度)にとどまり、関税は撤廃されない。TPPで合意していた米国の牛肉関税撤廃は反故にされたのだ。
さらに、日本は米国にTPP11(米国が抜けたTPP)協定よりスピードアップして牛肉関税を38.5%から9%まで削減する上、牛肉の低関税が適用される限度(セーフガード)数量は、米国向けに新たに24.2万トン(→29.3万トン、2033年)を設定した。TPP11で設定した61.4万トン(→73.8万トン、2033年)は、TPPで米国も含めて設定した数量がそのままなので、日本にとっては、米国分が「二重」に加わることになり、「TPP超え」の低関税枠となった。しかも、発動されたら、それに合わせて枠を増やして発動されないようにしていく約束もしていることが判明した。これではセーフガードではない。
記者会見で日本の交渉責任者は米国との今後の自動車関税撤廃の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問に答えて「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない」、つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めていたのだ。
まさに「属国が宗主国の言うことをすべて聞く交渉」がエンドレスに続く「底なし沼」だが、今回もこのような自動車の追加関税に怯えて食と農を際限なく差し出す「盗人に追い銭」構造にはまることが懸念される。
日本の食と農の独立のために毅然と闘おう
我々は「盗人に追い銭」構造の「底なし沼」にはまった前回の経験に学ばねばならない。トランプ氏の思想を日本の食と農に適用して、毅然と対応することだ。
しかし、すでに自動車の25%関税は表明されてしまった今、何とかその見直しを懇願するために、農産物の「生贄リスト」に何が残っているか。前回は、牛肉と豚肉を差し出した。牛肉関税は最終的に9%まで、豚肉関税は実質ゼロになった。
残るは、日本にとっての最後の砦、コメと乳製品だ。これが前回の積み残し分で、本丸中の本丸だ。折しも、国内米価の高騰で、輸入米を増やす必要性が議論されている。米国側は、コメの関税が700%だと牽制し、77万トンのミニマムアクセスについても、マークアップ(輸入差益)を問題視し始めた。
ここで踏ん張れなかったら、日本のコメ生産の崩壊は加速し、コメさえも輸入に頼ってしまったら、いざというときに日本人が飢餓に陥る確率が格段に上昇してしまう。
長きにわたる米国の属国としての日本の食と農だが、外国依存主義を否定するトランプ大統領の思想は、我々が本来実現したかった食と農のあり方と一致する。そのことを噛みしめて、恐れて墓穴を掘る愚を反省し、今度こそ日本の国益を毅然と主張して、日本の独立への一歩を踏み出したい。
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