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ジャガイモ・馬鈴薯・ニドイモ・ナツイモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第337回2025年4月28日

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ジャガイモ、これは「ジャガタライモ」が詰まったもので、ジャガタラとはインドネシアの首都ジャカルタの古称であり、安土桃山時代にこのジャカルタを出発したオランダ船が持ってきたのでこうした名前がついたものだ、という話を子ども時代に何かの本で読んだことがある。
 しかし、馬鈴薯(バレイショ)、この命名の理由については聞いたことがない。文字通り馬の首につける鈴のような薯がたくさんなるからつけたのだろうと思うのだが。

 このジャガイモとバレイショという二つの名前、どちらも小さい頃から使ってきたが、どちらが公式用語なのか、あまり考えないできた。ただ、バレイショは漢字を使い、いかめしいので、そういうことの好きな官僚行政、きっとこれを公式用語としているのだろうなどと思いながら、私もそれを使ってきた。
60歳を過ぎて7年間(2000~06年)、このバレイショの大産地北海道の網走市にある東京農大オホーツクキャンパスで研究教育をする(注)ようになり、畑作にかかわる論文を書こうとしたとき、はて本当はどちらが公式用語なのか、改めて疑問になり、同僚となった作物学の先生に聞いてみた。
 そしたらジャガイモだとのことだった。それで論文ではその言葉を使うことにした。
 そのときはそれで終わったのだが、何となく釈然としない。私はそれまでずっと間違って使ってきたことになるし、公式文書でバレイショという言葉を見たこともあるからだ。
 それで改めて作物の研究室に行って確かめた。すると、次のような返事が返ってきた。
 生物学的にはジャガイモなので、作物学会や教科書等ではすべてジャガイモである、しかし農水省は伝統的に「馬鈴薯」を使っており、それで産業的にはバレイショと表記していると。
 要するに、どちらを使っても間違いではないが、正式にはジャガイモということになるらしい。
 その話を聞いてから私はジャガイモという言葉を使うことにしている。

ご存じのように、ジャガイモの表皮にはいくつかの芽がついている。そのイモを土に埋めると、その芽から茎(地上茎)葉が伸び、それが成長すると土の中の根(正確には地下茎)の先端のいくつかが肥大化してイモができる。このジャガイモの性格を利用してそのイモ自体を種としてそれを畑に植え、それからできたたくさんのジャガイモを収穫する。
 このジャガイモの「種イモ切り」、私の小さい頃(昭和初期)は、それが春先の農家の子どもの仕事の一つだった。古くなってもう使えなくなり、物置のすみにおいてあったまな板の上にジャガイモをおき、芽の出てくるくぼみが必ずあるようにして適宜の大きさに包丁で切り分け、2~3個にする。これを種イモとして畑に植える。イモ1個をそのまま種イモとするよりはイモを節約でき、食用(販売用)にまわすことができるので、この方がずっと合理的だからである。しかし手間はかかる。それで大規模に生産している北海道では、小さいものはそのまま、大きいものは二つに切って種イモとして植えているとのことだった。

いうまでもなく、北海道は全国一のジャガイモ生産量を誇っている。このことはほとんどの人が知っている。ジャガイモの生産がもっとも多い県はどこかと聞くと学生諸君はみんな即座に北海道と答える。
 そこで続けて聞く、それでは生産量第二位の県はどこかと。答えられる者はほとんどいない。そこで私は得意そうに言う、「長崎県だよ」と。するとみんな驚く。そしてさすがは専門家、よく知っていると感心される。
しかし、実は私もあまり威張れたものではない。そのことを私が知ったのは1987(昭62)年、50歳を過ぎてから、長崎県の島原半島にある愛野町(現・雲仙市)に調査に行ったときのことだったからだ。
畑作地帯における情報需要の調査で行ったのだが、到着するとすぐに畑を見に行った。雲仙岳から北西に下ってくる裾野の緩やかな斜面に広大な赤土の段々畑が広がっている。一月だったので畑には何も植えられておらず、したがって畑の土がまともに見えるのだが、何でこんなに土が赤いのか、ちょっと驚いた。
 もう一つ驚いたのは、段々畑の石積み畦畔だ。段々畑といっても、傾斜が緩いために畑一枚の区画はかなり広い。土壌の流亡を防ぎ、同時に畑の区画を区切るための畦畔は20㌢から50㌢程度の高さに積まれた石でつくられているのだが、その石が薄い板状をしており、その大小さまざまの平らな石を適宜上手に組み合わせて積んでいる(うまく説明できないが)。だから一般に言われる石垣畦畔とは若干その様相を異にしており、ちょっと乱雑な感じがする。しかし非常に頑丈だ。この石積み技術は農家が代々受け継いできたものなのだが、最近の若い人はほとんど積めなくなっているとのことだった。そして機械化には石積みがじゃまだ、大区画整理をしたいという意見が強まっていたが、今はどうなっているだろうか。私としてはあの石積み畦畔の技術とそれで区切られた段々畑の景観はぜひとも残してもらいたいのだが。
それはそれとして、この畑にはすべてジャガイモが栽培されるとのことだった。火山性堆積物からなる土壌は水はけがよく、ジャガイモに適しているからである。さらに近くからミネラルに富んだ赤い土を客土して味をよくしているという。それで畑の土が赤かったのである。

農家の調査に入ってまた驚いた。春と秋の年2回ジャガイモを栽培している。正月に植えて春に収穫、秋に植えて年末収穫という二期作をやっているのである。
そもそも面積も少なく、平野も少ない長崎県がなぜ生産量2位なのか、みんなこれを不思議がるのだが、実は温暖な気候を活かしたこの二期作からくるものだった。しかも、収穫時期が大産地の北海道とずれるので競合しない。かくして北と南に主産地が形成されたのである(といっても生産量は比較にならないほどの差があるが)。
ジャガイモは二度穫れるものだ、二期作ができるのだということ、これも実はこの時初めて知った。

 そのときふと思い出した。私の子どものころ、祖父がジャガイモのことを「ニドイモ」と呼んでいたことである。昔の言葉でもう年寄りしか使わなくなったのだろうと思って当時は何も考えずにそれを聞いていたのだが、これは「二度イモ」と書き、年に二度穫れることから来ていたのではなかろうかと。
また、山形ではジャガイモのことをナヅイモ(夏イモ)とも言っていた。
 山形ではまさに夏しか穫れないのでこのナヅイモでおかしくはないのだが、ニドイモとも呼ぶのはおかしい、二度は穫れないからだ。にもかかわらず、ニドイモとも呼ぶのは、ジャガイモが伝来した九州などで使われている二度イモという名前がそのまま山形に伝わり(そう呼んでいる山形以外にもあるらしい)、それをお年寄りたちが伝えてきたからなのだろうか。
そう思って今度は父に聞いてみた。そしたら山形でもジャガイモは二度植えていた、だからニドイモなのだと父は言う。
 驚いてよくよく聞いてみたら、二度植えの目的、内容が長崎とは違っていた。最初は種イモ取り、二度目は本来の食用のイモの収穫を目的として植えたのだ、今はそんなことはしていないがと言うのである。
 それはこういうことだと付け加えた、春早く種イモを植える。何日かしてそれを掘り返すとビー玉程度の小イモが鈴なりになっている。それを掘り取る。つまり収穫する。そしてその小イモをまた畑に種イモとして植える。こうすると、一つのイモからたくさんの種イモをつくって植えることができる。そして秋にはたくさんの収穫ができる。さらに、そうすると種イモにするイモの数が少なくてすみ、食糧にまわすことができる。このように、その目的は違っても、二回収穫するのだから、やはりニドイモなのである。

私の子どもの頃はもうそんなやり方はしていなかった。先に述べたように、小イモは使わず、成熟した大きなイモを切り分けて種イモにしていた。どうしてそう変わったのかよくわからない。小イモを使うと遅植えになるので作季が短くなってイモがあまり大きくならず、収穫量が落ちる危険性があることからきているのではなかろうか。
 今は山形流のニドイモ生産はしていないのだが、こんなこともあったのだ、そしてそれは農民の知恵だったのだということを、ここに記録しておきたい(すでに誰かが書いてくれており、私がそれを知らなかっただけなのかもしれないのだが)。

 長崎の調査をしてからすでに40年近くになっているが、長崎県は今も2位を堅持している。あの頃の栽培技術、経営、そして畑地の景観は今どうなっているのだろうか、もう一度見てみたい、無理であることはわかっているのだが、ついつい言ってしまう、年寄りの未練、困ったものである。

(注)
 東北大学農学部を63歳で定年となった後の7年間、北海道網走市にある東京農業大学生物産業学部の教授として勤務させていただいた。

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