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地域をキーワードに食のバリューチェーンを支援 アグリビジネス投資育成(株)堀部恭二社長に聞く2024年4月11日

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日本政策金融公庫と農林中央金庫をはじめとするJAグループ全国連が株主となり農業法人や食農関連企業に出資して農業経営と事業展開を支援しているアグリビジネス投資育成(株)の取締役代表執行役社長に4月1日、堀部恭二氏が就任した。抱負などを聞いた。

アグリビジネス投資育成(株)堀部恭二社長アグリビジネス投資育成(株)堀部恭二社長

――社長就任にあたっての抱負をお聞かせください。

昨年の4月から「食のバリューチェーン(価値連鎖)企業」への投資責任者として担当しており、今回の社長就任で弊社の一丁目一番ともいえる農業法人向けの出資も合わせて担当することになりました。

基本的には前任の松本(恭幸)が3年間積み上げてきた路線にしっかり地に足をつけて取り組んでいくことが求められる役割だと考えています。

食のバリューチェーン企業への投資ですが、2023年度は9件、7億円の投資を行いました。投資を決めるにあたっていちばん大事にしたことは、投資先が提供しているサービスや商品がいかに生産者の方の収益力向上につながるかなど、農業法人として成長していく支えになるサービスを提供しているかどうかでした。その考え方は変わらずにやっていきたいと思っています。

――日本の農業の現状、課題などをどう見ていますか。

食のバリューチェーン企業など農業に関連する企業は、農業は成長の可能性がある産業だと見ています。ですから農業でビジネスができないかと会社を興し、創意工夫をしながら新しいサービスを提供しており、その多くは農業以外の分野から入ってきた方です。

我々はずっと農業に近いところにいて農業は厳しいと思いがちですが、実は農業から一歩離れた業界から見ると、成長産業として評価されているということを食のバリューチェン産業の方々をお会いして改めて強く感じたところです。

しかし、一方、円安や資材価格の高騰などで生産現場の方々にとっては厳しい環境がより顕著になっていると思います。物価が少し上がりつつあるなか、生産物の価格上昇というかたちで少しずつ浸透はしていると感じますが、コストの上昇に見合った価格になっているかといえばまだまだ不十分だと思っており、生産の現場は厳しくなっているとの認識を持っています。

――コストの上昇分を価格に十分に転嫁できないなか、一方では周囲から頼まれて農地を引き受け規模拡大している法人も増えています。どのように役割を発揮していくお考えでしょうか。

必要な資金について出資を望まれるのであれば、それを提供するのが弊社の役割ですから、そこはきちんと対応していきたいと思っています。

ただ、単純に規模を拡大すればいいという話でもありませんし、また、必要な資金を全て借り入れで賄うという話でもないと思っています。

重要なことは資本と負債のバランスであり、また無理のない規模の経営だと思っています。実際に資金ニーズでご相談をいただいた生産者の方とはひざ詰めで話をさせていただき、場合によっては事業計画を少し修正することも含めて対応し、そのなかで地域から農地を引き受けてほしいというニーズにも応えられる規模の経営を双方で確認をしながら、必要な出資を行っていく。そのような方向感でやっていきたいと思っています。

――相談機能やコンサル的な機能も発揮しながら、望ましい経営をともに追求していくということですね。一方で食のバリューチェーンへの投資事例として、秋田県内の和菓子メーカーが県内の農産物を使って和モダン高級菓子を製造し首都圏などで販売している事例がありますね。地域資源をつなげる投資によって新たな価値を生むということも注目されます。

その事例は地域資源の可能性に着目し、地元の生産者から果実などを仕入れて、秋田の地で上手に加工して付加価値をつけて東京や大阪で販売しているわけですが、結果として生産者の方々にもこれまで以上に収益が還元され、地域でお金が循環するという、まさに地域のバリューチェーンを作っています。

弊社はこのような投資をずっとやっていきたいという思いを強く持っています。ただ、弊社には地方に支店がないものですから、地域のバリューチェーンを作ろうとしている方を知ることが難しいという課題があります。地域に根ざして活動している方々とネットワークをお持ちの公庫・農林中金の支店や信連、JAなどに、そうした企業があれば規模の大小を問わずぜひ紹介してくださいとお願いしているところです。

――さて3月に日銀がマイナス金利を解除し、金利がある世界に戻るわけですが、農業者にとってはどんな影響が考えられますか。

農業者全体の傾向として、これまでは日本政策金融公庫から低利の融資で資金調達されてきました。市場の金利がじわじわと上がっていくなか、どこかのタイミングで借入の金利も上がると考えています。

そうなると支払い利息の負担が目に見えて増えてきます。その状況では、市場金利と連動するものではない資本を入れることにより財務内容の改善効果もあります。これから金利がある世界になってくると弊社のような政策的に農業法人に出資する存在は、その役割が高まってくると思っています。

資金を出資で調達するか、借入で調達するかという二者択一のような話になったときに、これまでは金利ゼロパーセントの資金など借入を選択することになったと思います。また、出資というのは議決権の有り無しに関わらず、自分たちの会社に外の資本が入ってくることであり、抵抗感があると聞きます。

ところが、金利がある世界に入ってくるとメリットとデメリットを考えてなくてはならないと思います。借り入れを増やし続けると、当然、その利払いの負担が増えてくるということと、財務内容としても資本が小さく借り入れが非常に大きいというあまり状態のよくないバランスシートになってきますから、そうなると追加でほかの金融機関から借りることができなくなってきます。そうなる前に資本と負債をより望ましい構成に変えていく必要が出てくるのではないかと思っています。

――今後の事業でめざすことをお聞かせください。

弊社では、2023年度にパーパス(企業の社会的意義や志)経営を導入しましたが、このパーパスは社員全員で議論をして時間をかけて作り込んできました。24年度は本当の意味でのパーパス経営元年だと思っています。

弊社のパーパス、存在意義とは「『食のバリューチェーン』の持続的発展と豊かな地域社会のために」です。20年前に設立したときは農業のために、でしたが、法律改正で食のバリューチェーン企業にも投資ができるようになりましたから、改めて存在意義を再確認すると、農業が中心になることは間違いありませんが、食のバリューチェーンを構成する中核的な要素が農業ですから、その意味では食のバリューチェーンを持続的に発展させていくということです。

そしてそれは豊かな地域社会を作っていくことに貢献したいという思いです。

そのうえで2030年のありたい姿として「中期ビジョン」を策定しました。

弊社が提供できる機能の一つは出資ですが、その前にお客さまとひざ詰めで話をし、みなさんが実現したい姿をわれわれなりの知見でサポートし、最終的には金融面では出資というかたちになるということです。

それから先ほども触れた地域の農業者と企業をつなげるマッチングのような機能発揮も含まれますが、そのためには何かあったときにいちばん最初に相談してもらえる存在になりたいと考えております。その意味から「地域を支える農林水産業、食のバリューチェーン企業の事業パートナー」を目指す姿、ビジョンとして掲げています。

このパーパスとビジョンを、年度当初から全員で確認しながら取り組んでいきたいと思っています。

(ほりべ・きょうじ)1974年12月生まれ。東京都出身。97年早大法卒、農林中央金庫入庫。農林水産環境事業部、総合企画部部長代理、営業企画部副部長などを経て2023年4月アグリビジネス投資育成株式会社執行役兼投資育成部長、24年4月取締役代表執行役社長。出身は東京都あきる野市。祖父母の代まで農業が専業で農協はメインバンクだった。「JAは近しい存在でしたから農林中金は自然と就職先の候補に入っていました」と語る。健康のために毎朝1時間自宅周辺を歩く。

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