家計の預貯金は増加も世帯間格差は拡がる 農林中金総研報告2021年1月25日
コロナ禍で家計の金融資産は増加しているものの、世帯間格差が広がる可能性がある。流動性預金を中心に増加率が上昇する一方で家計借入の増加率は2020年6月以降上昇傾向にあることを、農林中金総研調査第一部・重頭ユカリ部長は明らかにした。1月20日、記者懇談会で報告した。(「農林金融」1月号に掲載)
コロナ禍は家計に影響
新型コロナウイルス感染症の拡大によるテレワークの拡大や不安定な雇用、外出や外食の自粛などが長期化し、家計にも大きな影響を与えている。農林中金総研の「個人リテール金融市場の注目点―家計部門へのコロナ禍の影響を中心に-」の報告によると、全世帯の家計部門の金融資産は2020年9月に1904兆4000億円で、前年度月比2.7%の増加となっている。特別定額給付金や消費の停滞で流動性預金(請求があり次第支払う預貯金)の増加率が20年6月は前年同月比10.2%、9月11.6%増だった。これは消費の停滞と特別定額給付金が振り込まれた影響とみる。
また、3月には株価下落で前年比大幅減となっていた上場株式や投資信託受益証券の減少率も縮小した。一方、家計が保有する現金の残高は増加が続いており、家計の金融資産残高の3割以上を現金と流動性預金が占めている。「家計全体では貯蓄から投資へといえるほどの大きな動きにはなっていない」と重頭部長は指摘する。
反面、家計の借り入れの増加率は上昇。それまでの2%台から、20年6月には3%を超えた。また消費の減退で消費者信用の増加率が大きく低下した一方で、民間金融機関の個人向け事業資金などや公的金融機関の住宅以外の貸し出しが大きく増えた。
このように、コロナ禍で流動性資本を中心に家計の金融資産が増える一方で、借り入れが増えていることが分かる。しかし「世帯間の格差が進展した可能性がある」と重頭部長は指摘する。総務省の家計調査報告によると、2人以上世帯の1世帯あたり貯金残高の平均値は、2019年で1755万円だが、うち69.7%の世帯は平均値を下回る。つまり平均値以上の貯金残高を持つ世帯は3割にすぎない。
また、貯金残高から負債残高を差し引いた純貯蓄額は2016年の1313万円をピークに、19年は1185万円にまで減少している。重頭部長は「貯金残高は世帯のよって差があるうえに、借り入れの増加による純貯蓄額が減り、不測の事態に対応する家計の余力は縮小してきたと考えられる」と分析する。
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