【クローズアップ:農林中金「目指す姿」実践】環境重視へ積極資金対応 持続可能性前面に情報発信 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年8月24日
気候変動への関心が高まる中で、農林中央金庫は環境重視の資金対応や情報発信を本格化かせている。2年後に創設100年を迎える農林中金は、「次の100年」を見据えた「目指す姿」を整理。それを踏まえ、食と農の牽引する主力金融機関として実践を加速する。
SDGs包含する〈パーパス〉
農林中金の「目指す姿」は、パーパス=組織の存在意義を改めて再定義したものだ。
先の2020年度決算会見で奥和登理事長は、改めて整理した農林中金の「目指す姿」を説明すると共に、持続可能、地域の農林水産業者の所得向上、地球環境の三つを強調した。国連の持続可能な開発目標「SDGs」を包含した指針だ。
全体を包含する言葉は〈パーパス〉だ。パーパスを志と読み替えれば、JAグループを核に第1次産業全体をカバーする農林中金の立脚点、協同組合の理念とも合致する。
GHG5割減のインパクト
中長期目標
農水省の「みどりの食料システム戦略」とも絡むが、気候変動に対応した環境重視は、農業分野でも喫緊の課題だ。
「目指す姿」で中長期目標は五つの具体的数値を示した。特筆すべきは投融資先のGHG(温室効果ガス=グリーンハウスガス)排出量削減を2030年までに5割削減(2013年対比)と大胆な数値目標を明示したことだ。さらに、持続可能性を担保した金融であるサステナブル・ファイナンスを2030年までに新規実行額10兆円も示した。
特質はスピード感とGHG5割削減との規模感だ。最終目標は2050年までだが、気候変動対策の大きな節目は8年半後の2030年に置く。農林中金はそこに照準を合わせた。JAグルーでは初めてだ。農業界へのインパクトも大きい。
農林中金が融資先にGHG半減を求めることは、対象となる企業、団体が対応を迫られる。こうした中で、農畜産物の集荷、販売を担うJA全農も今後、GHG削減の事業展開を本格化する方針だ。
環境配慮Gローン初融資
「目指す姿」で長期目標として環境重視を前面に出した。その資金対応の第一弾が、物流関連の融資だ。レンタルパレット大手、日本パレットレンタル(JPR)への環境重視のESG融資を行った。ESGは環境、社会、統治の英語の頭文字を表わし、今後の地峡環境重視社会へのキーワードとなる。今回は、ESG融資の中でも資金の使途を環境に配慮した事業に限る「グリーンローン」の一例目となる。
同社は農畜産物を運搬する際に欠かせないパレットを貸与し共同利用、共同回収するのが特徴だ。顧客3200法人、6万3000箇所で利用されている。各社が自社パレットを利用するよりもCO2(二酸化炭素)8割近く削減との試算もある。農林中金では物流時の大きなGHG削減効果があると判断した。
農林中金は「今回の融資を通じ、社会の脱炭素化に貢献したい」と強調している。
協同組合との親和性
コロナ禍、気候変動などに直面する。地球的課題が山積する中で「次の100年」も展望した新たな戦略が急務だ。
事業環境が大きく変わり、集めたJA貯金をはじめ資金運用し収益を得る形のこれまでの手法は変化せざるを得ない。農林中金の2021年度第1四半期(4~6月)決算は経常利益86%増と好調だ。ただ、米国の低金利を背景にドル建ての海外の調達費用抑制が大きい。逆に言えば海外に金利動向で経営が大きく左右される。
農林中金の基盤である農林水の第1次産業と食ビジネスを結びつけ付加価値を拡大し地域振興を図る。それを支える協同組合の可能性をさらに広げる。その前提となる環境を重視した持続可能な社会づくりへの資金対応の拡充こそが、今後の事業拡大のカギを握る。
持続可能な社会と地域JAが担う協同組合は親和性を持つ。政府はSDGs目標達成に向け、民間が公共的な活動を行う「新しい公共」の担い手として、協同組合を位置づけた。農林中金の環境重視戦略は、協同組合の役割発揮にも貢献するはずだ。
食農企業後押しへ投資会社
農林中金は10日、非上場企業への投資を強化するため投資専門子会社「農林中金キャピタル」を設立した。これも「目指す姿」実践の一例だ。
収益性の向上に加え、食農関連企業など投資先の成長やJAグループのデジタル化貢献も目指す。10月には390億円のファンド立ち上げも予定している。新たなビジネスモデルの具体化でもある。
農林中金の八木正展常務は「食農ビジネスは1丁目1番地。農林水産業のピンチをチャンスに変える。農林中金の存在意義にも直結するだけに重要さが増す」と強調する。
サステナビリティ報告書を全面刷新
「目指す姿」とも連動し、持続可能な社会づくりの意気込みを示したのが7月末に発行した「サステナビリティ報告書2021」だ。農林中金はこれまでも毎年報告書を出してきたが、今回は内容を全面刷新したことが大きな特徴だ。
持続可能な環境重視の考え方をトップが語り、これまでの農林中金の取り組み事例も具体的に紹介するなど、サステナブル経営の「集大成」的な報告書に仕上げた。
トップ自ら指針語る
農林中金は、トップ自ら内外で今後の経営指針を語ることに傾注している。
実践例がESG専門誌での奥農中理事長のインタビュー記事だ。
「日経ESG」9月号の未来戦略インタビューで、先の「サステナビリティ報告書2021」の内容を紹介すると共に、農林中金の存在意義=パーパス実現への事業展開を説いた。「環境は事業基盤そのもの」とした上で、人、生物(食べ物)、地球という〈いのちの連鎖〉を守るために全力を挙げていくと話した。
また、今後のキーワードであるESGのS(社会)に関連し、「農業所得向上を通じ新たに農業を始める人を増やし地域活力につなげたい」とも強調した。トップが自らの言葉で農林中金の〈パーパス〉を訴え、理解を得る一環だ。
「志本主義」時代に対応
農林中金の「目指す姿」は、ベースに共通価値観、その上にミッションと具体化としての事業活動、頂上部に存在意義としての理念を据えた三角形のピラミッド構造を持つ。
存在意義としての合い言葉、コーポレートブランドは〈持てるすべてを「いのち」に向けて。〉。ミッションである組織使命は、金融を通じた農林水産業、地域への貢献、組合員・会員への経営基盤強化などを通じた持続可能な社会づくり。実現のため経営計画で進めていく。志を胸に事業展開を行う〈志本主義〉の時代を迎えていると言ってもいい。
農林中金は食と農を通じコロナ禍、地球温暖化の中で、持続可能なレジリエンス=強靱性を備えながら、環境重視の事業展開を加速する方針だ。
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