移動店舗 37県域で導入へ 農村部のライフライン-農林中金がサポート2021年10月22日
JAバンクはJA店舗の再編にともなって平常時の金融サービス提供機能と災害時のBCP(事業継続)機能を兼ね備えた全国企画の移動店舗を展開している。地域での組合員・利用者との接点を維持する手段の一つと位置づけ、費用を農林中央金庫が助成しJAの導入負担軽減を図っている。
JAつがるにしきたの移動店舗
組合員との接点を維持
全国企画移動店舗は2020年度末で105台が導入されており、農林中央金庫によると2021年度末時点では37県域127台まで増加する見込みとなっている。
2018(平成30)年の西日本豪雨で被害を受けた岡山県などのJA店舗に、県外から移動店舗が駆けつけて金融業務を継続したことは記憶に新しい。その後も毎年、豪雨などの被災地へ移動店舗の派遣を行い、被災JA店舗の組合員・利用者に金融サービスを提供してきた。
一方、JAバンクにとって最適な店舗構成への転換が課題となっている。そのイメージは、フルラインで信用事業サービスを提供する「総合サービス店舗」、貯金の入出金などの機能に絞った「コミュニティ店舗」、他の事業とも連携しながらATMなど最低限の信用事業サービスを提供する「よりそいプラザ」、そして「移動店舗車」の4類型である。こうしたあり方について、組合員との接点をどう維持するかの観点から地域やJAの実情に応じて配置する方針をJAバンクは打ち出している。
移動店舗は店舗の再編にともない取引店舗まで距離のある利用者に対して、地域での暮らしを支える代替サービスとしての位置づけ。貯金の入金・出金、定期積金の支払いや解約、通帳記帳のほか、公共料金の納付や、購買代金・共済掛金の入金などが利用できる。JAの判断で取扱いしない業務もあるが基本は「ATMではなくJAのカウンターや端末が車で移動してきた、というイメージ」(農林中央金庫)だ。
全国企画の移動店舗車には金融室に加えて冷蔵庫付きの購買店舗を併設したタイプや、2人乗りのコンパクトな小型車タイプもある。
導入したJAからは「高齢者はATMの扱いになれていない人も多い。窓口があることで職員との会話も生まれ組合員との接点維持となっている」、「県境では金融店舗まで車で20分もかかる集落もある。過疎地域の生活支援で重要な役割を担っている」との声が聞かれる。信用事業を廃止した店舗や、公共施設やバス停など営業する曜日と場所を決めて地域を広くカバーする工夫をしている。
JAが格差拡大に歯止め
民間の金融機関の店舗削減が急激に進んでいる。農林中金総研の梶間周一郎研究員の調査によると2015年度末の2万9869店が20年度末には2万7128店と9.2%減少した。このうち地銀▲9.0%、信用組合▲8.7%となっており、JAは8050店から6820店と▲15.3%と大きく減った。
しかし、人口が減少している地域ではJAの存在感は高まっている。市区町村のうち協同組織金融機関しかない自治体は18%となっている。また、ゆうちょ銀行を除くとあるのはJAだけという自治体は132町村。2015年当時の118町村とくらべて増えている。さらにJAが唯一の金融機関であるという自治体は109町村となっている。
梶間研究員は人口10万人あたりの民間金融機関店舗数を2015年と2020年で比較、分析したところ、店舗数の自治体格差は拡大したことが示された。この分析でJAを除いてみると、さらに格差が拡大することが示された。「10万人あたりの店舗数の地域格差は拡大しているが、農協が他の金融機関が店舗を持たない地域に立地していることにより、格差の拡大に歯止めをかけていることが分かる」と梶間氏は結論づけている(「農林金融」2021・10)。
その役割を移動店舗は担い、農山村の金融インフラとなっている。同誌で重頭ユカリ調査第一部長は、「『誰一人取り残さない』というSDGsの理念にも合致している」と指摘している。
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