米国・ユーロ圏は景気後退へ 不透明な世界経済 農中トップセミナー2022年9月7日
農林中央金庫は9月6日、東京都内で「第35回農林中金 金融経済トップセミナー」を開いた。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など、世界情勢をふまえた金融経済の現状と今後の見通しなどをエコノミスト3人が基調講演した。
金融経済トップセミナー
このセミナーは系統団体と関連会社の役員などを対象に金融経済情勢への理解を深めることを目的に1987年から開催している。コロナ禍を受けて対面での開催は見送られ、今回は3年ぶりにオンラインと併用で開き、合わせて約100人が参加した。
野村證券金融経済研究所チーフエコノミスト・森田京平氏
野村證券金融経済研究所チーフエコノミストの森田京平氏は、米国の経済見通しを中心に話した。
米国とユーロ圏は年内に景気後退に陥ると予測。「浅いが長い」景気後退が続くとした。
米国では物価上昇が続いているが、それをけん引したのは半導体不足を背景とした中古車価格と、再開された旅行の宿泊代だったが、最近は家賃がけん引役となっているという。
米国はインフレ抑制に積極で金利を引き上げたが森田氏は9月以降、利下げに移ると予測する。
一方、日本は輸出で下押し圧力を受けるが、コロナ下での経済再開、旅行支援、インバウンド需要の増加見通しを背景にサービス消費と輸出が下支え、減速で踏みとどまる見込み。
大和證券金融市場調査部 チーフマーケットエコノミスト・岩下真理氏
大和證券金融市場調査部のチーフマーケットエコノミストの岩下真理氏は日本の景気動向について、コロナ禍からの回復によるリベンジ消費に期待するが、現状では50代、60代の消費が弱いことや、インバウンドの受け入れ規制があることなどを指摘し、ウィズコロナ政策への移行が求められるとした。また、消費者物価の上昇率が2.4%に対して賃金上昇率は1.6%にとどまっており、物価上昇に負けないさらなる賃上げが必要だとした。
当面の注視すべきこととして円安動向、政権の支持率、日銀の国債保有率を見極めることが重要と話し、日銀総裁のポスト黒田の人選は年末年始に佳境となるだろうと話した。
BNPパリバ証券 チーフエコノミスト・河野龍太郎氏
BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、米国はコロナ禍でGDP比20%もの大規模な財政出動をしたことで世界的なコロナバブルを生んだと指摘。
景気が過熱する米国で金利上昇が行われ、それがグローバル経済の回復を切り崩すとする。たとえば、耐久財消費も抑えられてきたが、それは生産国であるメキシコ、中国などの生産国により大きなダメージを与える。
ただ、野村證券の森田氏とは異なり、河野氏はFRBのパウエル議長は物価が安定するまで金利の引き上げは止めない考えと指摘し、米国の利下げは相当先になるとの見方を示した。
国内の経済については「停滞の原因は企業の内部留保の貯め込み」とし賃上げなど人的資本へ投資せず、非正規雇用を増やしたことなど批判した。
モデレーターをみずほ証券のチーフ為替ストラテジストの山本雅文氏が務めたパネルディスカッションでは、森田氏がロシアのウクライナ侵攻で世界ば分断され、調停役のいない世界政治を「無医村化」と指摘、自国での安全経済安全保障に自前で取り組もうとする動きは効率性を落とし世界の成長を低下させると警告した。
岩下氏は日本はロシアや中国とも距離をとったサプライチェーンづくりにも留意しながら、来年議長国となるG7サミットで日本が世界にどう発信するかも問われると提起した。
河野氏は、とくに米国で経済の分断が進み、次期大統領選の2024年が近づくと、再び内乱のような分断状態になり、「ドルシステムそのものが大丈夫かとの議論も起きかねない」などの懸念も示した。
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