今こそ「総合農協の強み」発揮を 金融環境の荒波にJAはどう立ち向かうか 農協研究会2022年12月5日
金融緩和政策などで不安定な金融環境が続く中、「金融環境に揺れる自己改革実践サイクルと早期警戒制度への対応」をテーマに、農業協同組合研究会の2022年度第2回研究会(農協協会協賛)が12月3日、東京・千代田区でオンラインも併用して開かれた。全国のJAが総合農協の強みを生かしながらいかに金融環境の荒波に立ち向かうのか、各現場から課題や取り組みが報告された。
早期警戒制度へのJAグループの対応をテーマに開かれた農業協同組合研究会の研究会(3日、東京・千代田区)
金融環境の大波 問われる農協の存在意義
金融緩和政策が続く中、地方銀行・JAともに資金運用利回りが低下基調にあるなど、収支状況は厳しさを増している。こうした中、政府はJA版の早期警戒制度を改正し、令和4年度から監督官庁がモニタリングして、必要があれば指導する制度が始まった。各単協では具体的な効率化戦略が求められている。
研究会では、はじめに農協研究会会長を務める谷口信和東京大学名誉教授が、「この10年の厳しい金融環境で総合農協に新しい形で負荷がかかっており、従来のやり方では今後の方向は展望できない局面に入っている。組合員をいかに増やし地域社会の重要な社会的インフラとしての農協を新しい形で世界に発信していくか、JAが重大な歴史的課題を担っている」と述べた。
続いて司会を務めた日本協同組合連携機構の藤井晶啓常務理事は「金融環境の大波の中、JAの経営体力を奪われたら組織改革をやりたくてもやれない状況になりかねず、農協の存在意義が問われている。JAの事業や組織運営をPDCAで回すことが求められているが、世界的な肥料・飼料の高騰などの中、Pの厳格化やDの現場力が確保できるかといった課題がある」などと問題提起した。
「農業・くらし・地域」で金融仲介機能を果たす役割重要
これを踏まえて第一報告をした農林中央金庫の秋吉亮理事兼常務執行役員(JA・JF事業担当)は、金融庁の方針について、「貸出で利ザヤを稼げる時代は変わり、新たなビジネスモデルをつくって地域に貢献すべきという方向は正しいと思うが、問題を改善できない場合は業務改善命令を出すという、入口は前向きだが手法は相当厳しいと受け止めている」と述べた。また、各地域の事情が大きく異なる中、JAバンクの戦略を全国一律で示す状況ではなくなったと説明した。
そのうえでJAバンクの果たすべき役割として「農業・くらし・地域の分野でしっかり金融仲介機能を果たすことが重要」と強調、「ただ融資をするだけでなく、利用者に相談・助言をしてソルーションを提供する、そして農業者が所得向上ができるよう伴走することが今後求められる」と説明した。そのうえで「各JAが地域に応じたあるべき姿を考え、それを起点に全国が支えることで厳しい環境下に立ち向かえると考えている」と述べた。
"農"を重視した買い取りと直売所収益強化図る
第2報告では、「JA横浜自己改革への取り組み」と題して、JA横浜の波多野優専務理事が取り組みを述べた。波多野氏は、管内の農業産出額が121億円に上る中、畜産物を除くと同JAが扱う産出額は25億円ほどで、この中で農業者の所得増大に苦心しながら取り組んでいる状況を報告した。
具体的には、農家からの買取販売強化による売り上げ増加や、同JAの売り上げの多くを占める直売所の収益強化などを挙げた。直売所イベントは地元FMと連携して当日の売り上げが3倍になる効果も生み出しているといい、さらにサッカーチームの横浜FCと連携して地元産米を販売する事業なども紹介した。また、厳しい収益状況が予想される中で2019年度に策定した「JA横浜10年ビジョン」では、JAの根幹である営農経済事業への取り組みを全職員の共通認識と据えていることも強調、さまざまな店舗戦略や人事戦略を練りながら自己改革を進めていると報告した。
前向きにとらえ 今こそ協同組合の強み発揮すべき
2つの報告を受けて、JA鹿児島きもつきの下小野田寛組合長がコメントした。下小野田氏は「早期警戒制度や業務改善命令と聞くと何か大変なことが起きるかと頭に浮かんだが、過剰に恐れる必要はなく、むしろ前向きに向かうべきと思った。地銀などがJAと競合することも当然であり、地域をよくしたいという理念がある金融機関や会社とはむしろコラボすべきではないかと考える」と述べた。
そのうえで「さまざまな格差が拡大して民主主義が脅かされる中、今こそ協同組合の出番であり、その強みを発揮する時代ではないか。農協経営の強みを発揮するという意味では、総合事業のさらなる総合事業化を進める必要がある時代に入ってきたと思う」などと締めくくった。
(各報告の詳しい内容は6日と7日に掲載します)
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