【農協研究会】早期警戒制度踏まえ農業者などの新たなニーズ発掘を 農林中央金庫理事兼常務執行役員 秋吉亮氏2022年12月6日
「金融環境に揺れる自己改革実践サイクルと早期警戒制度への対応」をテーマに12月3日に開催された農業協同組合研究会では、農林中央金庫の秋吉亮理事兼常務執行役員がJAバンクの対応について報告した。秋吉氏はJAの総合事業のなかで発揮していく「JAバンクならでは」の金融サービスをめざすことが課題などと語った。
JAを取り巻く環境をみると、人口減少はそのペースが地方圏ほど早く地域間格差は拡大し、とくにJAの事業基盤である農村部を中心に過疎化が進行している。農業者、正組合員も減少し、農業、地域社会の持続可能性が問われる状況にある。
こうしたなか金融機関の動向としては、合理化・効率化が当然になっている。おもな業態でATМは減少するなか、コンビニのATМは増えており、そこに集約化している。その背景にはキャッシュレスや非対面サービスの広がりがある。JAも「持続可能なJA経営基盤の確立・強化」のなかで、店舗・ATМ再編計画の策定・実践を重点取り組みとしている。
金融庁は金融機関の経営環境の厳しさをふまえ、自らの創意工夫による持続可能なビジネスモデルを構築し、将来にわたる健全性を確保していく必要性があるとの考え方を示した。その取り組みを促すために、これまでの形式的な監督・検査手法を見直し、「形式から実質」、「過去から未来」、「部分から全体」へと視野を拡大する考え方へシフトした。
早期警戒制度も見直され「収益性改善措置」の基準について「足下の収益性=過去実績」から「持続可能な収益性」、「将来にわたる健全性」に変更された。
早期警戒制度の見直しの狙いは、JAの経営課題が深刻化する前から行政と改善、解消に向けて対話を行いJA自身の取り組みを行政も後押しするものと捉えており、JAバンクとしても各JAが将来を見据え、前もって持続可能なビジネスモデルを構築していくことは重要と考えている。
その取り組みが2022年~24年のJAバンク中期戦略の実践であり、それが早期警戒制度への対応ということになる。
今回の中期戦略では、今までのように貯金獲得などで一律に目標を掲げるのではなく、各地域のJAごとの実情に応じて、総合事業を活かした広義の金融仲介機能を発揮することをJAのめざすところとしている。
金融仲介機能とは、農業・くらし・地域のそれぞれの領域で、貸し出しを中心とした資金供給や融通はコアではあるものの、組合員・利用者への相談と助言、ソリューション提供など課題解決型コンサル機能を発揮しようということである。
農業者への支援も資金供給だけでなく経営課題の解決に向けて伴走機能を発揮する。くらしの支援では組合員・利用者個人の資産形成を投信も含めて提案し寄り添った対応をする。
地域に対しては行政や地域関係者との関係強化を通じてJAが地域のインフラ機能を発揮するよう取り組む。JAの総合事業のなかの金融事業として機能を発揮することをめざす。
こうした中期戦略の運営に向けては、JAバンク経営戦略シートを活用する。JAが描くビジョンを起点とする経営戦略シートを全国と県域がJAと対話して一緒に作成する。
そのなかでJAごとにめざす姿や収支状況に応じて、農林中金はJAに実践支援プログラムを提供していく。たとえば、収支見通しが厳しく収支対策が必要なJAには「JA営農経済・成長効率化プログラム」で営農経済事業の収支改善を支援したり、「貸出強化支援プログラム」で農業融資など専任担当者の配置、増員など体制づくりを支援するなどだ。
また、さらなる機能発揮をめざすJAには投信を活用したライフプランサポートの実践を支援する「資産形成サポートプログラム」がある。
地方銀行は地域商社の設立、農産物の加工などにも取り組んでおり、JAとの競合が強まることが想定される。しかし、JAは農業者、地域住民に対して「総合事業」を展開し「地域組織との関係」を築いてきた。「総合事業性」と「地域組織との関係」は他業態にない強みだ。JAの実情に応じた金融仲介機能を発揮することで、農業者・地域住民の新たなニーズの発掘、サービスの提供に取り組むことが求められている。
(関連記事)
・今こそ「総合農協の強み」発揮を 金融環境の荒波にJAはどう立ち向かうか 農協研究会
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