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減益も自己資本率高く健全性保つ  農林中金23年度上期決算  12月に創立100年「原点に戻る」2023年11月20日

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農林中央金庫は2023年度上半期(4~9月)の決算を11月16日発表した。外貨調達コストが増し減益決算となったが、他行に比べ高い自己資本比率を引き続き維持しており「経営健全性は問題ない」とした。また12月20日に創立100年の節目を迎える中で、「ある意味原点に戻る」(奥和登理事長)として、協同組合金融として役割強化を強調した。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)

決算概要の説明をする奥理事長(写真左)決算概要の説明をする奥理事長(写真左)

創立100年「大きな節目」

上期決算会見の冒頭、奥理事長は決算概要の説明とともに、創立100年に言及した。

食料安全保障構築が国民的議論となる中で、食料・農業・農村基本法の見直しや関連法案の整備、さらには来秋10月には第30回となるJA全国大会を迎えるなど「大きな節目の時期を迎えている」ととらえ、12月20日の農中創立100年へこれまでを振り返るとともに次の100年へ向かう新たな一歩との認識を示した。

100年を機に「ある意味原点に戻る」として、改めて協同組合金融機関の役割、組織基盤強化の決意も述べた。既にキーコンセプトとして、持続可能な農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、地球環境にも貢献していく「持てるすべてを『いのち』に向けて」がある。これを踏まえた事業展開を着実に進めていく方針だ。

1923年、100年前の当時は9月に発生した関東大震災の混乱もある中で、農中の前身にあたる「産業組合中央金庫」として産声を上げた。農村の資金需要の高まりの中で産業組合の金融中央機関としての強い期待を背負った誕生だった。

創立100年の当日は理事長による役職員訓示を予定するが、奥理事長は「内容はこれから考えるが、持続的な農林水産業、地域のために安定的に国民に食料を供給していくための金融の役割発揮という視点が欠かせない」とした。

農中では100年も踏まえ22年度から「Мyパーパスプロジェクト」をスタート。組織の存在意義、パーパスを念頭に「何のための農中か」を考え、人手不足が深刻化する中で実際に役職員が農業現場で農作業を手伝うなどパーパスの実践も始めている。

5カ年中期計画「一定の手応え」

会見で奥理事長は23年度が中期計画(2019~2023年度)の最終年度を踏まえ、現時点での振り返りで「一定の手ごたえ」を述べた。

中期計画は通常は3年だが、現在は創立100年を最終年度の2023年度に据えた5か年とした。その意味では「新たな100年」を見据えた24年度からの次期中期計画も注目される。

会見で5カ年中期計画の目標達成度合いは「採点すれば何点か」と問われ、「まだ年度途中なので来年5月の23年度決算会見時に総括したい」としたが、具体的事例でそれぞれのポイントを挙げ「一定手応えを感じる」と話した。

中期計画は、長期目標である「目指す姿」の農林水産業と食と地域のくらしを支えるリーディングバンクを念頭に、変化を追い風に新たな価値創造へ挑戦を掲げている。

経常利益ほぼ前年並み

23年度上期決算は経常利益(連結)が前年同期比0.5%減の1855億円、純利益は同15%減の1443億円と、減益決算になった。円安などで資金運用収益が伸びた半面、ドルなど外貨調達コストが大幅に増え費用が膨らんだ。

経常利益の推移、純利益の推移経常利益の推移、純利益の推移

上期損益状況は、経常収益が前年同期比20%増の1兆5474億円。うち資金運用収益は64%増の1兆202億円。利上げなど利息の増加が要因。一方で経常費用は23%増え1兆3618億円となった。資金調達費用が前年の2.6倍の1兆2209億円に膨らんだことが主因だ。農中の損益は米国の金利情勢に大きく左右される傾向が強い。

米国ではコロナ後の好景気の半面、国民生活安定へインフレ抑制を狙い米連邦準備理事会(FRB)が金利を段階的に上げてきた経過があり、ドルを中心とした外貨調達コストが大幅に増えたことが響いた。

自己資本比率18%台維持

バランスシートの状況を見ると、市場運用資産はあくまで経営健全性に重点を置いた運営で買い入れ、円安により前年度末に比べ増えた。

9月末の総資産は3月末比8%増の102兆円。22年度は利上げのリスク削減に向けて、外債など有価証券を売却した。

減益決算となったものの、会見で奥理事長は「経営の健全性は満たしており、問題はない」と強調した。健全性を示す自己資本比率は高い水準を維持しているためだ。

金融機関は経営の安全性や健全性を維持するため一定水準以上の自己資本比率の規制がかけられている。農中上期の総自己資本比率は18.13%。3月末の22.03%に比べ3.90%下がったものの高い水準を保っている。農中はこれまで総自己資本比率を20年度は23.19%、21年度は21.23%と高い水準を維持し続けてきた。

有価証券評価損2・5兆円に膨らむ

一方で保有する有価証券の評価損は2兆5356億円となり、長期金利上昇の影響で3月末に比べ2.7倍に拡大した。FRBの金融引き締めによる米金利上昇で外債を中心に債券の評価損が3兆円弱に膨らんだこと大きい。

会見では、大きな含み損の中で2008年の世界的な金融危機との比較も問われたが、財務担当の北林太郎常務は「当時とは評価損の内容と状況が全く異なる」として、具体的数字を挙げながら経営健全性には問題がないと強調した。

今後は不透明感増す

健全性に問題はないにしても、ウクライナ紛争長期化に加え中東問題など混乱の火種が膨らむ。今後の国際的な政治・経済情勢は、地政学リスクが高まり先行きは不透明感が増しているのは確かだ。

特に、中東情勢の行方は世界的なエネルギー価格変動に結び付きかねず、西側先進国が本格的な冬場を迎える中で各国の物価水準にも影を落とす。来年は11月の米大統領選を頂点に、世界は「政治の季節」に入り、各国首脳の政治的な思惑も交錯している。

こうした中で、今後の経営スタンスを奥理事長は「国際金融マーケットに注視しながら機動的に対応したい」と、引き続き高い自己資本比率維持など経営健全性を最優先に慎重な対応を示した。

CLOは7・7兆円に拡大

メディアから注目の高いローン担保証券CLOは、9月末保有残高で7兆7000億円と3月に比べ1兆3000億円増えた。円安で投資残高が膨らんだ。

農中は詳細な事業分析や適切なリスク管理のもと、リスク・リターンを勘案しながら慎重な投資を引き続き実施するとした。市場運用資産に占めるCLOは13%に達したが、格付けの高い健全度を示すトリプルAで、全て満期保有目的としている。

CLOは金利上昇局面では変動資産ということで有利な面もある。ただ今後について奥理事長は「この残高が極端に増えるということはない」と説明した。

農業関連融資は過去最高4315億円

農業関連融資の状況は、JAバンクの農業融資新規実行額が22年度で4315億円と過去最高を記録した。21年度に比べ493億円増えた。農業法人取引社数は累計で1万4091社と1万の大台を大きく超えた。

農業融資新規実行額の推移農業融資新規実行額の推移

JAバンク中期戦略の重点施策である「出向く活動」、地域農業担い手の中心となる大規模経営体へのアプローチ実践と、生産資材価格高騰の影響を受けた農業者への資金繰り支援で新規融資が大きく伸びた。特にコロナ禍での実行増加といった側面も強い。今後は、引き続き担い手としっかり向き合い「出向く」活動を通じ積極的な農業金融対応が問われている。

食農関連へ積極的に成長資金

アグリビジネス投資育成(株)を通じた23年9月の農林漁業・食農関連企業への出資は、累計で705件、154億円と順調に伸びている。

投資円滑化法改正に伴い食農関連企業向けが拡大して、累計出資額は21年度122億円、22年度148億円となり、直近9月期は154億円まで増えた。担い手や企業の成長ステージに応じた資金ニーズに対応してきた。

農業者所得増へコンサルや投資拡大

協同組合金融の大きな使命、一丁目一番地は「農林水産業者の所得増加」だ。それに向けて、担い手の経営相談・コンサルティング活動や食農ファンドへの投資に取り組んでいる。

会見では、JAバンクの担い手コンサルティング、経営相談活動として千葉県の地域の中核的担い手「農事組合法人・百目木営農組合」への農中が主体となり管内JAとの連携のもとでの事例を紹介した。所得向上の具体例として飼料用米とホール・クロップ・サイレージ(WCS)用稲への一部転作を提案、翌年度の税引き後当期利益で約900万円の増加が実現した。その後も定期的に訪問を続け、資金繰りや一層のコスト低減への課題にも応じている。

地球的課題、社会貢献として気候変動、自然資本、生物多様性への取り組みも実施。脱炭素社会・持続可能な地域へサステナブル・ファイナンス新規実行額は23年上期で約1兆8000億円(速報値)、累計で6兆2000億円と拡大した。2030年目標の同ファイナンス10兆円に着実に近づいている。

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