金融共済:JA共済の今日的意義
【第2回】准組合員は組合員である2015年10月21日
第189通常国会で可決成立した改正農協法についてはかねてから様々な問題が指摘されているが、焦点の一つとなった准組合員問題について考えてみたい。規制改革会議の農業ワーキンググループが平成26年5月14日に提起した「農業協同組合の見直し」の中で組合員の在り方として「准組合員の事業利用は、正組合員の2分の1を超えてはならない」と提言したことが出発点であった。
これを受けた6月24日の閣議決定「規制改革実施計画」では「准組合員の事業利用について、正組合員の事業利用との関係で一定のルールを導入する方向で検討する」とされた。
◆「事業利用を規制するものではない」参院附帯決議
農協関係者からすれば、「准組合員の農協運営へのかかわり方」は主体的な組織の在り方として組織内で検討すべき課題ではあったが、事業利用規制として外部から提起されるのは農協事業・経営に直結する問題でもあり、看過できない。
その後の関係者の努力によっても「削除」に至らず、農協法附則第51条の2で「准組合員の組合の事業利用に関する規制の在り方について、法施行5年を経過するまでの間、正組合員および准組合員の組合の利用状況並びに改革の実施状況についての調査を行い、検討をくわえて、結論をうる」ということになった。
参議院農林水産委員会の附帯決議で「准組合員の在り方の検討にあたっては(中略)正組合員数と准組合員数との比較等をもって規制の理由としない(以下略)」、また「改正後の第7条(注:組合の目的規定である『組合員のための奉仕』、『農業所得増大の配慮』等)について、准組合員の事業利用を規制するものでない」ことが明らかにされている。山田農林水産委員長はじめ農林関係議員や委員会で参考人陳述された先生方のご尽力の跡がうかがわれる。
しかし、5年後見直しの議論として再燃される懸念に変わりないと思われる。
◆共済を金融庁の監督に―強い米国の要求
在日米国商工会議所(ACCJ)保険委員会が毎年公表している意見書(2015年9月まで有効としている)の主張の中心は従来と同じ「日本政府は共済と金融庁監督下にある外資系保険を含む保険会社との間に規制面で平等な競争環境を確立すべきである。そのために共済は金融庁の監督に服し、保険業法を適用するとともに、税負担も同一にすべき」である。
しかしながら、今回の意見書の特記すべきことは次の点である。「ACCJは2014年6月24日の閣議決定においてJAグループにおける准組合員の事業利用について『正組合員の事業利用との関係で一定のルールを導入する方向で』検討すると約束したことを歓迎する」
と言及しているのである。
◆固有の歴史と地域社会で確立された制度
准組合員制度について協同組合経営研究所編の「農協制度史」や鈴木博編著の「農協の准組合員問題」によれば、我が国固有の歴史と地域社会の成り立ちをもとに確立された制度であることが浮かびあがってくる。すなわち、戦前の産業組合が持っていた村ぐるみ、集落ぐるみの農村共同体的要素を「農業会」という戦時体制を挟んだものの、戦後の農協が引き継いだに他ならない。
もとより産業組合の組合員に職業制限はなく、農業者以外の地区居住者である勤労者・小商工業者・水産業者・林業者等が3割以上占めていた。また、戦時統制団体の「農業会」が創設される際、産業組合から市街地信用組合法によって信用組合・信用金庫が分離され、消費(購買)組合は分離されて産業組合法下にとどまった。農業会はそれまでの産業組合構成員のうち、農民は「当然会員」、それ以外の関連業者、地域住民は「任意会員」として事実上産業組合の組合員を包括承継した。任意会員にも議決権、役員選任権など当然会員と同じ権能が与えられた。
戦後の農協法の立案は農地改革と合わせGHQの「農民解放指令」に基づいて行われた。したがって、それまで有力な構成員となっていた地主による組合支配の恐れをとり除くこと、組合員は農地解放後の勤労農民、個人単位の民主的・近代的協同組合の組織形態であることとし、日本側(農水省)が再三要望した集落組織や農家小組合の考えは受け入れられなかった。
しかし、組合員を勤労農民に限定してしまえば、寄生(不在)地主の排除とともに、農民以外のこれまでの組合員をも排除することになり、組合の存立基盤にかかわることになる。そこでこれを准組合員とし、加入を認める一方准組合員には総会の議決権、役員の選任権を無くし、理事も4分の1以内においてのみなりうるとすることで、旧寄生地主層が支配権を握ることが無いようにしたのである。
◆農協は歴史的に地域協同組合として展開
鈴木博氏は同書の中で「准組合員問題が法律文から出発し、あたかも農協が本来、職能組合であったかのように前提を置いてこれに対処しようとするのは妥当でない。なぜ、准組合員制度が設けられたかという点を歴史的に振り返れば、農協が地域協同組合として受け継がれ、展開してきた事実にぶつからざるを得ない」と指摘している。
そして、地主支配排除を目的とした准組合員の権限を排除する理由はとうの昔になくなっている。
准組合員を事業利用の対象としかとらえていないのは問題である。グローバルな経済が進む中、地域社会の循環型経済や高齢者や住民の支え合いが必要な今こそ、准組合員を「応援団」とか「サポーター」という位置づけを超え、組合員として参画してもらい地域活性化の主役として活動してもらうことも必要である。
正組合員と准組合員をより対等な存在として位置づけ直す時期である。准組合員も組合員である。
【参考】2015米国通商代表部の「共済に関する要望」
2015年4月1日に米通商代表部(USTR)が公表した「日本の貿易障壁」のサービス障壁の保険の分野の一つには「かんぽ生命」に加え「共済」を挙げている。文面は以下の通り「米国政府は、金融庁規制に服さない保険事業を有する共済に対して金融庁に監督権限を与えるという方向の進展を逆転させる動きについても引き続き懸念を有する。2005年の保険業法改正は、規制されていない共済(注:いわゆる無認可共済)を金融庁の監督に服することを求めることで、これを達成したであろう。しかし、日本政府は、実施を遅延し、または場合によっては実施に例外を設けてきた」この文面は抽象的かつ包括的に書かれているが、在日米国会議所意見書と会併せ読むことで何を言わんとしているか読み取ることができる。
在日米国商工会議所意見書(ACCJ保険委員会提示)では、「2006年4月保険業法改正により、少額短期保険業者が創設され、この改正により、改正前まで無認可であった共済を規制の対象としたことについて、制度創設当時ACCJはしかるべき方向に向けての第一歩として歓迎すると同時に、すべての共済が金融庁の監督下に置かれるよう、日本政府がさらなる措置をとることを要請してきた。しかしながら、2010年、日本政府は共済事業の規制について法改正を行い『公益法人が運営する共済』及び少額短期保険制度施行時に無認可であった共済を、新しく『認可特定保険事業者』というカテゴリーに分類の上、各主務官庁の下に置くともに、短期ではない商品も扱うことができる措置を講じた」
任意の相互扶助としての自主共済を含めて「無認可共済」として、「少額短期保険」と定義づけた2005年改正保険業法は「少額短期保険は保険期間が2年以内、保険金額上限が1000万円」であり、「保険業法の適用を受けるため、団体は設立時の資本金や一定の保証金、契約者保護機構への保険料の支出が必要」ということになった。PTA団体、知的障害者の入院互助会や山岳団体の遭難対策基金などは特定の者が相互扶助として営利保険ではコスト高になったり、危険選択上引き受けられないリスクをボランティア的な支援者によりコスト安で行っているものが含まれていた。したがってこれらを補完するため平成25年の制度見直しで「認可特定保険業者」として当分の間、事業継続が旧来の主務官庁監督下で認められたものである。USTRと在日米国商工会議所は以上の経緯に対し懸念を表明しているのである。米国がこうした相互扶助組織の行っている自主共済についてまで、執拗に金融庁の管轄を要望していることは極めて異常なことである。(ちなみに米国においても相互扶助的な生命保険を行っている「フラターナル組合」が130もあるとのことである)
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