米の需要、中食・外食で40万トン減 流通業界、深刻なダメージ(米穀新聞記者・熊野孝文氏)2013年9月20日
・新米出回り、早さ予想外
・新米と古米、逆転相場
・消費減「ただごとでない」
・在庫大幅増の見込み
・脅威のネット販売
米の需要が大幅に減退し過剰感が出ている。JA米担当者への調査結果(2013年9月20日付「特集・全国344JAに聞く 今年の作柄は「平年並み」」)でも平年作であっても価格が下落するとの懸念が強い。流通現場では何が起きているのか。米穀専門紙記者に解説をしてもらった。
流通の中抜き現象も
誤算続きのコメ相場展望
◆新米出回り、早さ予想外
8月18日、千葉県で米穀業者が参集して新米取引会が開催された。この取引会には、千葉、茨城の集荷業者や首都圏、中部、関西のコメ卸や大手小売店など50社が参加したが売り買いが始まって直ぐ、「即積み条件」の売り物が出た。
千葉の新米取引会は例年、お盆前後に開催され、その年の新米価格を占う取引会として全国の米穀業者から注目される取引会だが、南九州の早期米が出回り始めて間もない時期に千葉でも刈取りが始まり「即積み条件」の売り物が出る状況が生まれた。新米の予想以上の早い出回りが24年産を手持ち在庫として抱える流通業者の「誤算」の第一歩になった。
◆新米と古米、逆転相場
新米商戦が始まる直前の米穀業者の関心事は「手持ちの24年産米をいかに捌くか」という点にあったが、その場合、新米の出回り時期が大きなポイントになる。前年産在庫を捌いて、スムーズに新米に移行できれば理想的な展開になるのだが、そうしたケースになるのは希である。今年の場合、卸業者の率直な気持ちはできるだけ新米の出回り時期が遅れて欲しいというものであったが、まったく逆の展開になった。最も早く出回る南九州も例年、降雨等で刈遅れというパターンが常であったが、今年はスムーズに刈取りが始まり7月20日には首都圏に新米が到着した。四国も同様で、これら早場米産地の検査数量は7月末までに昨年同期の5倍に相当する2万3438tにも達した。
そうした流れのなかで、千葉で始まった新米取引会であったが、千葉県や茨城県も南九州と同様、収穫時期が早まり、例年に比べ「4日から5日早く」(千葉県)収穫を迎えることになった。その取引会では、8月中渡し「千葉ふさこがね1等置場1万1800円」(税別以下同)、同9月10日まで渡し1万1500円、「あきたこまち」同1万1500円という信じられないような安値で取引が成約して行った。
8月29日には、日本コメ市場が東京、大阪、福岡の3会場で今年度3回目の取引会が開催されたが、25年産米の売り物の加重平均価格は関東コシヒカリ1万2953円、関東ひとめぼれ1万2250円、関東ふさおとめ1万2421円といった安値で、この段階で新米が古米より安いという親不孝相場(=新古逆ザヤ)になってしまった。
◆消費減「ただごとでない」
25年産米の豊作基調に加え、予想以上の早い出回りが流通業者の「誤算」の第一歩であったが、もっと大きな誤算は別のところにある。
今年3月に発足した「国産米使用推進団体協議会」。この任意団体のメンバーは、日本炊飯協会、弁当振興協会、弁当サービス協会、惣菜協会といった中食業界団体だが、これらの業界団体のコメ総使用量は年間90万tにもなり、農水省に再三にわたりコメ政策について価格面を重点に要請活動を行っている。 この協議会がもっとも大きな問題だと訴えているのが、23、24年産米の値上がりによりコメの需要が大きく減退したこと。協議会が独自に調査したところ会員社の多くがコメの価格上昇によるコストアップを回避するために1食当たりのご飯の量を減らした結果、年間10万tの消費減になったという。「ご飯の個食盛り付け量の減少による消費減はただ事ではない」(同協議会福田耕作会長)という。 外食業界も同じ調査を行っているが、その減少量は30万tで、中食、外食を合計すると40万tの消費減になったと推計している。
8月29日に林農相に面談した際に手渡した要望書には「5年後の精米必要量は400万tに半減する。日本の稲作農業は崩壊する」と記している。実際、食品スーパーなどに1個58円といったおにぎりが並んでいるが、団子かおにぎりか見分けがつかないぐらい小さくなっている。駅弁に至っては、ご飯は惣菜の一部といった盛り付けであり、推進協議会の危機感は大げさなものではない。
このことは総理府の家計調査にもはっきり出ており、中食、外食でのコメ消費量は今年度に入って4月8.2%減、5月13.1%減、6月9.6%減、7月8.2%減と毎月のように減少している。家庭内での消費量も同様に減少している(下グラフ参照)。
◆在庫大幅増の見込み
その結果どうなったのか? 9月6日に農水省が公表したマンスリーリポートに数字が出ている(下表)。
今年7月末の在庫量が出荷段階で前年同期より34万t多い90万t、販売段階で同じく8万t多い30万tになっている。全米販の見通しでは米穀年度ベースで今年10月末の在庫は前年度末に比べ40万t多い60万t。来年度末にはそれよりもさらに21万tも多い81万tに在庫が膨らむと予想している。
全米販のコメ需給見通しは、農水省の7?6月年度ベースではなく、米穀業界になじみ深い11月?10月ベースで、26米穀年度(25年11月?26年10月)は25年産米の生産量を804万tと推計。それに前年度からの持越し在庫60万tを加えた864万tから需要量見込み784万tを差し引くと、26年10月末の在庫が81万tに膨らむと見通している。
◆脅威のネット販売
まさに「余りものに値無し」の状況さえ懸念されるコメの需給の緩み具合だが、もう一つ流通業界が懸念しなければならない現象が生まれている。
それは「流通の中抜き現象」。米穀機構が毎月調査している精米購入の入手経路を見るとインターネットでの購入割合は23年度に6.8%だったものが24年度には7.4%に、そして今年5月にはついに10.3%と1割を超えてしまった。同じ月に米穀専門小売店から購入した割合が4.9%だから2倍に相当する人がネットでコメを買っていることになる。
ネット販売の最大手アマゾンは2000年に日本で事業を立ち上げたばかりだが、売上額は7800億円になり、2008年から食品の販売を始め「特にコメには力を入れており」(同社)、全国各産地の銘柄米が取り揃えられている。しかも全国の70%のエリアで即日配送が可能になったというのだから恐るべき物流機能だ。ネット上で同社のショップを見ると送料無料であるにもかかわらず、量販店の店頭価格と変わらない価格が表示されている。おそらくコメ卸の中には24年産の在庫処分の一環として条件面でアマゾンにすり寄っているところもあるのだろう(2013年8月29日付記事参照)。
流通の中抜きはこれだけではない。先に触れた国産米使用推進協議会も同協会が斡旋する形で会員社と大規模稲作生産者との直接契約を進めている。安定購入のために生産者と直接購入契約という手法で、岡山では36名の生産者グループと6000tのコメを契約する交渉が進められている。米穀機構がまとめた会員卸の平成24年度の経営概況によると4割の卸が赤字に転落している。赤字になった大きな理由は仕入れ価格の上昇分を販売価格に転嫁できなかったことにあるが売上数量も5.8%減少している。
◆ ◆
まさに四面楚歌というコメの流通業界で、在庫圧迫と流通変化によって一気に淘汰が進む環境に置かれてしまった。
流通業界の淘汰は、時代にそぐわなかったということに収斂すべきではない。コメの生産にも直接かかわってくる問題で、今のままの生産構造がいつまでも続く保証はどこにもなく、そのことを流通業界から学ぶべきである。
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