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【これからの米ビジネス】マーケットは開拓し、創るもの 藤尾益雄・(株)神明社長インタビュー2014年4月1日

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・農業を若い人に魅力ある職業にしたい
・子連れでいける回転寿司を食育の場に
・価格差2倍以内なら海外でも売れる
・戦える米・多収穫米で生産コストを抑制
・作った米は必ず責任をもって売り切る
・新しい米の世界を切り拓いていく

 TPP交渉の行方は依然として不透明だが、少子高齢社会による消費の減退と高齢化による生産者の減少、40年以上にわたって日本農業の根幹である米の世界を支配してきた「減反」政策の見直しなど、日本人の主食である米に明るい話題は少ない。米を中心とする日本農業に未来はないのだろうか。
 そうしたなか、年間50万トンの米を取り扱っている(株)神明は、果敢に新たな米ビジネスの世界を切り拓こうとしている。それは何故なのか。藤尾益雄社長に率直に語ってもらった。

生産者に夢と希望を

◆農業を若い人に魅力ある職業にしたい

藤尾社長 「米の減反政策は見直した方がいい」と藤尾社長(=写真左)は発言しているが、その真意をまず聞いた。
 「農業を魅力のある職業にしたいんです」。米卸業界内や全農との会議で「みんな頭の中にはあるけれど、米の消費拡大について議論しあうことがない」。なぜなら、少子高齢化になり消費は減退してきているから「消費拡大なんてできるわけがない。このままずるずる減っていくのは仕方がない」と諦めてしまっているのではないか。
 だがそれは「神明の視点とは違う」という。「マーケットというのは、競争して切磋琢磨し、自分たちで開拓して『創るもの』だと思っている」からだ。
 米の世界は「減反」や国の政策などで「競争がなかったので、マーケットが縮んできてしまっている」。しかし、新たなマーケットを創り、消費を拡大すれば、農家は「減反」をする必要がない。農業が「家業」ではなく「企業」になれば、今まで以上に生産をして売上げを上げ、収益をださなければ企業として成り立たない。そして、企業としてきちんと給料を払えば農業をやりたいという若い人が入ってくるようになる。
 「だから減反は見直すべきだ」というのが藤尾社長の考えだ。

◆子連れでいける回転寿司を食育の場に

 それではどうやって消費拡大をするのか? と誰しも思う。
 その答えは「自らモデルを創っていくこと」だと考え、「目を付けた」のが日本の伝統的食文化でいまや世界に広がっている寿司、それも回転寿司だ。
 神明は、平成24年5月に元気寿司(株)と、翌25年4月にカッパ・クリエイトホールディングス(株)(カッパCHD)と資本業務提携し、25年11月にはこの両社が業務提携契約を締結。カッパCHDの代表取締役会長兼社長に藤尾氏が就任。
 寿司の国内マーケット規模は1兆5000億円あり、そのうち回転寿司が5000億円を占め、牛丼やハンバーガーよりも市場規模は大きく、しかもこれからも伸びていくとみている。
 なぜか?
 日本人は寿司が大好きだが、いままでは価格も高く高級感があって「敷居が高かった」。だが回転寿司は、口うるさい寿司職人もおらず、回ってくる皿にのった好きな寿司を選べ、価格もリーズナブルで「寿司の大衆化」を実現し、子ども連れでも気軽にいくことができる。そして、その子どもたちが親になった時に、自分の子どもを連れて行く可能性は高いといえる。
 寿司は新鮮な魚介類がメインだが、必ず米を一緒に食べるものだから、回転寿司が伸び、しかも若い世代に受け継がれていけば、今だけではなく将来の米消費拡大につながっていく。これこそが「食育」ではないかともいう。

◆価格差2倍以内なら海外でも売れる

 さらに「SUSHI」はいまや日本を代表する世界的な料理でもある。例えば、神明の関連会社である元気寿司は海外に120店舗出店しているが、最近は年間20店舗程度出店しているという。メインは香港で63店舗あるが、1店舗当たりの月平均売上げは2200万円、全店で月約14億円売上げている。
 そこで使われている米は、いまは内外価格差があるので、中国東北地域で生産されているジャポニカ品種だ。米国の元気寿司はカルフォルニアの短粒種か中粒種を使っている。
 こうした海外の寿司店でも日本産米を使わせるためには、「減反をやめて生産量を増やして、内外価格差を縮めて海外に輸出」することで消費拡大ができる。世界の米のマーケットは4億トンあるので、生産者と神明のような企業が連携をし努力して、安い価格で海外に持っていけば売れる。
 価格差も、家庭用なら現地の価格の2倍以内、業務用なら1.5倍以内なら売れるとみており「すごいビジネスチャンスが来ている」と考えている。だから神明自身も中国や米国に拠点を設置しているのだとも。
 そして日本国内でもいろいろいわれているが、「安ければいい」という層もあるので、輸入米は消費量の1割程度から100万トンくらいはいくかもしれないが、それ以上は「売れません」と言い切る。それは、これまでのさまざまな経験に裏打ちされた確信だといえる。

◆戦える米・多収穫米で生産コストを抑制

 それでは、内外価格差を縮小するためにはどうするのか?
 それに対する答えは「多収穫米」の生産だ。神明は平成19年に(株)神明ファームを設立し、岡山県で地元の生産者と多収穫米・ミツヒカリの生産を始めている。その後も各地の契約農家へ拡大し、いまは全国で4000トン超の作付け規模になっているという。
 ミツヒカリは10a当たり12?13俵収穫できる。だから生産者には「1俵いくらではなく、面積当たりでみて欲しい。面積当たりの手取りは必ず増えますから…」と説明している。
 多収穫米の生産、農家経営の大型化とか組織化ができれば、生産コストが下がり、価格面でも「戦える」米になり、「利益がちゃんと出る」米として提案できる。そうなれば、多収穫米は輸出対策であると同時に、国内での外食産業を中心とした業務用米での輸入米対策にもなると強調する。
 これまでは産地・銘柄にこだわった米づくりがされてきたが、寿司や炒飯あるいはカレーとか丼物など、米を使う用途にあった米づくりをすることが大事だということも多収穫米を自ら先頭に立って生産することにした大きな要因ともなっている。そこには「多収穫米が良食味になってきている」こともある。

◆作った米は必ず責任をもち売り切る

 米卸としての長年の経験から、それぞれの実需者がどういう米を求めているかを熟知している。それを生産の現場に入って、直接生産者に伝えて「作ってください。責任をもって売ります」というと同時に、米の生産現場にどういう問題があるのか、生産者が何を考えているのかは「現場に入らないと分からない」から「ファームをつくった」のだという。
 そして販売するために必要だと考え、香港、中国や米国に販売拠点も設け、生産者にも香港の販売の現場をみてもらい、理解してもらう努力もし、「生産と販売が一体になりましょう」と提案。そのことで生産者に「夢と希望」をもってもらいたいという。
 こうしてみてくると神明の事業は、従来の米卸の枠を超えているといえる。
 いま共稼ぎ世帯を中心にスーパーの店頭で炊き立ての「白飯」がよく売れている。自分で焚かなくっても電子レンジを使って手軽に食べられるからだ。手軽に食べられるからと朝食にパンを食べる人が多いが、パック米飯や白飯で手軽に朝食をと提案することも消費拡大になると考えている。
 こうした簡便化と同時に「個食化」も進んできている。そうしたニーズに応えるのがパック米飯や白飯だ。パック米飯は便利だけれど、「やはり炊き立てが…」という人にも応えていかなければと、炊飯事業への進出も検討している。

◆新しい米の世界を切り拓いていく

 もう「いままでのように精米してスーパーに卸せばいいという時代ではない」。「米をもっと加工してお客さんの口まで届けなければあかん」と社内でいっているという。それを突き詰めれば「卸ではあかん、メーカーにならなければ…」ということになる。
 そう考えてくると、「コンビニをけん引しているお握りや回転寿司も丼屋も本当は米屋がやるべきではなかったのか…」「食管制度に守られ、競争もない世界に甘んじていた」からできなかったのだという。
 「何をそんなに急ぐ」と見られているが、本当にやりたいことは、日本の農業・米に誇りをもっているので、「日本の農業を守ること」だ。これは神明の経営理念でもあるという。
 そして農業を守るためには「お金だけ渡しても弱体化するだけ」だから、「もっと米を食べてもらい、消費拡大をし、生産者に夢と希望をもち、自信をもってもらわなければ、絶対に無理」だから、さまざまな米ビジネスを手掛けている。
 米の世界は、生産から消費者の手元や口に届くまでの過程が「切れていて」協調してビジネスする機会が少ない。神明がいま挑戦していることは、「切れているところを繋ぐことで、風穴を開け、新しいビジネスモデルをつくり、米の世界をもっと活発」しようということだ。
 そこに期待して、新たなチャレンジをしようとする農協や若い生産者が相談に来るという。そこから、さらに新しい米の世界が開けてくるような気がした。

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