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【27年産米 米流通最前線】主食用の値上がりに中小米卸は戦々恐々2015年10月23日

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所得安定に向け生産者、農協も先物取引活用を
米穀新聞社・熊野孝文記者

 27年産米の流通が本格化している。生産量は生産数量目標の面積換算値141万9000haを1万3000ha下回り、生産数量目標の配分開始以来、初めて過剰作付けが解消された。生産者にとっては価格回復への期待があるが一方、流通業界では今後の米価と需給見通しに“異変”も出ており、経営リスク回避のため新たな取引も生まれているという。最新の動向と産地、JAにとっての意味を米穀新聞社の熊野記者が解説する。

◆9月中旬に異変現物、先物とも急伸

 まず、別表の大阪堂島商品取引所東京コメ10月限の一代足のチャートを見ていただきたい。10月限は27年産米を最初に受渡し出来る限月で、新米動向を知るうえで注視されていた。
 チャートはコメ先物市場で売買される10月限がどういう値動きをしたかを示したものだが、これで9月15日を境に異変が起きたことが読み取れる。先物市場については、その仕組みがやや複雑なため誤解を生む要素がないわけではないが、この取引市場はコメの流通業者、需要者にとっても、生産者、集荷業者にとっても大きなメリットがある市場で、なによりもコメを産業化するインフラとして必要不可欠な市場である。
 生産者にとってのメリットとは何かというと単純に半年先のコメの価格が分かることで、かつそこに売れば半年先の所得が確定できる。しかも100%代金が保証される。コメ先物市場の使い方については後述するが、9月15日を境に2000円近くも急騰した異変とは何だったのか?

【表 東京コメ2015年10月限(日足)】

米卸価格 グラフ

◆新米収穫最中の水害 集荷業者も被害に

 直接的原因は、関東や宮城県を襲った9月10日の水害。特に常総市は鬼怒川が決壊、大きな被害となった。時折しも新米収穫時期の真最中で倉庫に入るはずの新米が刈り取れなくなった。被害は生産者だけでなく農協のカントリーや集荷業者の自社家屋にまで及んだ。常総市の水田作付面積は茨城県全体の5%を占めるに過ぎないが、この地区には首都圏に玄米を直売する集荷業者が数多く存在し、少なくとも4社が被害にあった。
 水害の影響は9月18日に開催された米穀業者間の席上取引会に直接現われた。この取引会には、首都圏のみならず東北、新潟、関西からも参加、まず主催者から被害にあった常総市の集荷業者に見舞金が手渡され、その後に新米取引会が行われた。この取引会でこれまで新米の出回り時期には見られなかった2つの大きな異変があった。
 ひとつは本来新米を売りに出すべき千葉・茨城の集荷業者が買い声を上げたこと。千葉・茨城の集荷業者は例年その年に収穫される早期米を8月時点で9月、10月渡し条件といった先渡し条件で売り契約をするのが常だが、その必要玉が確保出来ない状況に陥った。買いを入れた集荷業者はいずれも新米の集荷量不足を口にする。その量は昨年同期に比べ2割から3割減といったもので生産者からは「コメが採れていない」と言われているという。昨年のこの地区の作況は104の豊作で、今年が平年作でも収量減という印象を受けるのはやむを得ないが、それにしても2割、3割減というのは大き過ぎる。
 その点については飼料用米の生産増の影響が大きいと指摘する。飼料用米の生産に大きくシフトした栃木県で集荷している業者はなんとこれまで業務用米として集荷出来たあさひの夢等Bランク米は8割が飼料用米に回り、主食用で集荷できる量は2割に留まるという。 飼料用米増産による業務用米市場の影響については、商社系卸も懸念する。この商社系卸は主食用米だけでなく原材料用米、飼料用米も取り扱っているほか、グループ会社が2000軒の稲作農家と直接買い取り契約しているだけあって産地情報を実に良く調べている。その商社系卸の担当役員は「27年産米に業務用米として使用されるべきBランク米は関東地区だけで5万tが飼料用に転用された」と見ている。このため今後業務用米市場のタイト感が強まると予想している。
 飼料用米増産の影響はこれだけに留まらない。産地の生産者や農協、集荷業者から聞こえて来るのは飼料用米増産によるカメムシ被害の拡大。販売価格が極めて安い飼料用米に農薬等の経費をかけると経費倒れになるため農薬の散布をしないことがカメムシを発生させ、これが主食用米にも被害を拡大させているという。このことは27年産米の2等落ちの理由でも明らかである。農水省が10月20日に公表した9月末現在の検査状況によると2等以下に格付けされた理由は、着色粒(カメムシ類)因るものが26年産は15・9%だったが27年産は27・9%に急増している。着色粒は農水省の統計上は収量にカウントされるが、流通現場では色彩選別機で弾かれるため結果的に主食用米の供給量減少の要因になる。

◆先物市場で現物買受け 新たなコメ取引手法実践

 業者間席上取引会で起ったもう1つの異変は、関西の業者が「27年産国産米1等置場9700円」で売り唱えたこと。席上取引会では、通常白米やくず米は別にして検査米は産地銘柄を明示して売り唱えるのが慣例になっている。関西の業者は産地銘柄を明らかにせず単に"27年産国産米1等"という条件だけを示した。これはこの業者が大阪堂島商品取引所の東京コメで現受け(納会で現物を受け切ること)を前提にした買い玉を建てており、そのコメをこの席上取引会で11月渡し条件で売り唱えた。清算取引が主目的であるコメ先物市場では「売り方勝手渡し」が原則で、事前にどのような産地銘柄が渡って来るのか知ることは出来ない。 この業者は東京コメの先物価格が9000円台で取引されていた時点で割安と受け止め買いを入れた。取引会ではこの業者の売りに対して3社が買い声を上げ1100俵が成約した。つまりこの業者は業者間取引で先物市場で買ったコメを換金したわけで「買いヘッジ」を実践したことになる。
 買いヘッジを実践している業者はこの業者だけでなく、10月16日に日本橋で開催されたコメ先物セミナーで福岡の卸が自社が行っている買いヘッジの事例を紹介した。それによるとこの卸は東京コメで11月、1月、3月と隔月ごとに買いヘッジ。それを現受けして福岡まで運ぶ。運賃は1俵800円かかるが、それでも地元産のコメより安ければメリットがある。かりに地元産のコメが安くなれば、東京コメの買い玉を売り戻して清算すれば良いだけでまさには買いヘッジ。
 買いヘッジしているのは流通業者だけではない。関東で70ha耕作している生産者は東京コメの全限月に買い玉を建てている。普通生産者が先物市場を利用するのは自らが生産するコメ販売額を確定させるため売り玉を建て「売りヘッジ」するのが一般的だが、なぜこの生産者は買いヘッジしているのか? 理由は単純で「自社で生産するコメより先物市場で買った方が安いから」。この生産者は自ら大規模に稲作生産を行うだけでなく、自社で精米工場を建設、周辺農家からもコメを集荷、中食・外食企業等へ販売している。事前にこうした需要者と契約した販売価格よりも東京コメの先物価格が安ければ買いヘッジが成り立つ。
 コメの価格変動が著しくなればなるほど生産者にとってもこうした経営判断が必要になる。

◆価格変動も読める先物 生産者・農協にとっても必要

 現在、コメ業界では27年産米の市中相場がさらに値上がりするのではないかという見方が広がり、白米卸等は戦々恐々の状態にある。すでに東北の全農県本部の中には27年産は事前契約で100%契約済みになったというところもあり、契約が遅れた卸は頭を抱えている。値上がりを予想する要因は27年産主食用米の生産量不足が第一の原因で、農水省が近く発表する10月15日現在の作況や収穫量を注視している。それ以上に不安を掻き立てているのが、これまでコメ業界とは縁のなかった資本が入り込みコメを買い漁っていること。大手資本によるパワーゲームが再燃する気配で資本力のない中小卸は厳しい戦いを強いられることになる。 そうした戦いを乗り切るためにも先物市場の機能を学び、自らの経営リスクをいかに回避するかの手立てを考えなくてはいけない。半年先の価格が分かるというこの一点だけをとっても大変重要な市場で、その重要性は生産者・農協にとっても同じである。

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