30年産米生産量 全国735万t2017年12月8日
平成30年産から行政による生産数量目標の配分に頼らず、産地の主体的な判断によって需要に応じた生産・販売が行われる「新たな米政策」(農水省)が始まる。国は産地が主体的な取り組みを進められるよう情報提供や支援を講じるとしており、11月30日には食料・農業・農村政策審議会食糧部会が開かれ、30年産主食用米の適正生産量は29年産と同じ全国で735万tと示した。JAグループは関係団体と需要にあった生産・販売に向け全国組織を年内にも立ち上げて需給の安定を図るが国の支援も欠かせない。
◆適正在庫180万t
国として生産数量目標の配分の廃止を決めたのは平成25年。5年を経て具体化することになる。
この3年間は生産者の努力で過剰作付けを解消し、在庫も削減されて27年産から3年間連続で米価が上昇している。
農水省が食糧部会に示した「米の基本指針」は29年7月から30年6月までの主食用米の需要量は744万tと見通した。需要量のトレンドをふまえると752万tとなるが、米の価格上昇が需要減に及ぼす影響をふまえて、8万t低く見通した。
相対取引価格が1万1000円台に下がった26年産は需要実績が需要トレンドを上回ったが、米価が上昇すると実績とトレンドにかい離が生じ、28/29年も実績は8万t少なくなった。
29年産米の主食用生産量は731万tの見込みであることから、供給量の合計は930万t。ここから需要量を差し引いた187万tが30年6月末の民間在庫量見込みとなる。
農水省は今回、米の民間在庫の適正量を180万tと設定した。31年6月に180万tとなるように生産量を設定すると735万tとなる。都道府県別には生産数量目標の配分は行わず、米の基本指針として全国の適正生産量を示したことになる。
30年7月から31年6月までの需要量は需要トレンドから算出して742万tと見通した。
◆需要拡大も課題
食糧部会でJA全中の金井健常務は、需給と価格の安定を最大の目標として取り組むが、生産数量目標の配分と直接支払い交付金が廃止されることに「生産現場は不安」だとして、産地交付金も含めて水田フル活用予算の十分な確保が必要だとした。
また、米価が上昇しているといっても「ごはんは1杯25円」であり、
「100円のおにぎりに占める米価は10円にすぎない」などと指摘して、生産コスト削減も重要だが米の消費拡大対策も一層大切になると強調した。 また、生産者委員からは一部メディアでは減反廃止と伝えていることから自由な作付けと捉えている人もあり、需要に見合った生産が必要であることを小規模農家にも正確に伝えていくための国の役割が重要との指摘もあった。有識者委員からも「農家が不安になり担い手がやめてしまうことがないよう国としての姿勢を示すべき」と意見などもあった。
農水省は価格も含めて複数年契約する取り組みを広げていくことや、県段階で担当者が主導して戦略をつくり需要に応じた生産を実現していくことの必要性も指摘した。
農水省は産地・銘柄ごとの生産・販売状況をきめ細かく情報提供していくとしているが、委員からは「情報があれば経営ができるものではない」として経営シミュレーションができるような仕組みづくりが求められるとの意見もあった。
需要にあった米生産について食糧部会で意見があったのは業務用米の不足。実需者委員からは「大変なミスマッチが起きている。米価が高すぎて業務用が手当てできず商品を製造することができない業者もいる」と実情を話す。
農水省は飼料用米生産は定着、本作化しており主食用米のなかでのマッチングが課題になると強調した。単に業務用銘柄への作付け転換ではなく、価格が比較的高いコシヒカリ、ゆめぴりかなどでもおにぎりに使用されているとして、需要に合わせて価格も含めて生産と契約をどう結ぶかが、産地にとって重要になりそうだ。卸業界の委員からは「一俵の価格ではなく、多収米などで面積あたりの収益を考える経営判断に転換すべきではないか」との指摘もあった。
◆全国組織 年内立ち上げ
基本指針の策定を受けて産地では再生協議会を中心に30年産の作付け計画の積み上げも行われていく。ある県では県段階で生産数量目安を示し、それをもとに市町村段階の再生協議会に目安を提示する。ただ市町村段階では生産者の意向をふまえて生産数量の積み上げも行うが、最終的には県が示した目安と調整をする。また首都圏近郊県では小規模農家の販売先まで含めて作付・販売意向を調査するとともに、併せて県独自の飼料用作付助成なども行って適正な生産に誘導していく方針だ。
一方、全国段階では需給調整のための全国組織を立ち上げる。JAグループや卸、外食・中食事業者など関係団体が構成員となる見込みで現在調整が続いている。全国組織の機能は(1)マーケットインに基づく一般家庭用や外食・中食など実需者と産地のマッチング支援、(2)国から提供された都道府県の作付動向などの需要に応じた生産に向けた情報の共有、関係者の主体的な取り組みの促進の2つ。事務局はJAグループ。
国は安定取引拡大支援事業を活用して、産地と外食・中食事業者とのマッチングを支援するとしているが、全体の取り組みはまだ明確に示されない。
30年産からの取り組みと全国組織について中家徹JA全中会長は「最重要課題は需給と価格の安定。消費者に安全・安心な食を安定的に供給することが大きな使命で需要に見合った供給がどうしても必要だ。全国組織を立ち上げて機能を果たしていくことが、生産者のみならず消費者にも安定価格で供給できることになると確信している」と12月7日の定例会見で強調した。
組織の立ち上げと機能発揮、行政と一体となった取り組みがいよいよ求められることになる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日