【農林水産省・柄澤彰政策統括官に聞く】どうなる? 米政策2018年4月17日
・需要を見極めて作付けを水田フル活用で経営安定
・これからの水田政策ポイントと現場の課題
米政策の見直しが30年産からスタートする。需要に応じた米生産と水田フル活用による経営安定、所得確保が課題となり、各地で作付けも始まる。30年産から何から何がどう変わり、国はどのような政策で臨むのか。柄澤彰政策統括官に聞いた。
◆生産調整「廃止」ではない
--改めて30年産からの米政策の見直しのポイントと今後の国の関わり方についてお聞かせください
米政策の見直しで変わる点は2点です
1つは行政による生産数量目標の配分をやめるということであり、もう1つはその裏打ちとなっていた米の直接支払交付金、かつては10a当たり1万5000円で26年産からは7500円となりましたが、これを廃止するということです。このことに尽きるということであり、我々は生産調整の廃止という言い方はしていません。
なぜかといえば米は潜在的に余っているわけですから、需要に合わせた生産をするということは国の配分があろうとなかろうと変わらないことです。需要に関係なく自由に作りたいだけ作れるということはまったくの誤解です。まずそこをご理解いただきたいです。
それでは他のことは変わらないのかということになりますが基本的に変わりません。一番変わらない点は何かといえば国がマクロの需給の見通しは引き続き示すということです。30年産についても需給フレームを昨年11月の食糧部会で示しました。ただし配分はしないということです。
それからもう1つは水田フル活用政策です。引き続き財政も投入してしっかり進めるということで30年度予算でも154億円増やし3304億円を確保して麦、大豆、飼料用米などへの支援をしっかりしていきます。
これに付随して毎月の米に関するマンスリーレポートの発行などいろいろなかたちでの情報提供は続けていきますし、各地の作付動向なども国がとりまとめていきます。
ですから現実の問題として国が米の需給から手を引いたのではないと理解していただければと思います。
この問題については私も自分から現場に伝えたいという気持ちがありましたから、農水省のホームページで米政策NEWSという動画をつくって公開しています。そこでも説明していますからぜひご覧いただければと思います。
--各県の農業再生協議会が示した生産数量の目安や、これまでの作付動向をみると前年並みの生産量という県が多いようですが、どう評価されていますか。
各地とも30年産から急に全く新しいことをやっているわけではないということが示されていると思います。
つまり、27年からの3年間で過剰作付けが全国ベースで解消したということと、過半の県で生産数量目標以上に主食用の生産数量を調整、いわゆる深掘りをしてきたということをみると、やはり国が配分したからその配分さえ守ればいいという取り組みをしていたわけではなく、それぞれが需要を見極めて生産量目安を決めており、そのことを30年産も継続しているのだと思います。だから現場で大きな混乱もないし違和感もないのだろうと理解しています。
◆エンドユーザーに届ける事業を
--そうした取り組みの中でも、中食・外食など業務用米が不足しているというミスマッチが生じていることが指摘されています。この問題についてはどうお考えですか。
ミスマッチが起きていることは大変大きな課題だと認識しています。欲しい人がいるのにそこにきちんと生産が向かっていないということはまさに需要に応じた生産になっていないということですから、必要とされている価格帯、必要とされている品質に生産側がしっかり向き合っていかなければならないのが大前提だと思います。
その際、よくある批判として、国が飼料用米政策を推進するからだという声もありますが、それもまったくの誤解です。主食用米全体としては決して不足しているわけではありません。そうではなくて、ブランド米のような米には過剰感がある一方で、中食・外食向けの米に不足感があるという、まさに主食用米の中のグレードのミスマッチが生じているということです。これはけっしていいことではありませんから、生産側も足りていないレンジの米に向き合っていかなければ、結局、米離れを起こす、全体の米の需要量を縮小させるという自殺行為になりますから、それは絶対にあってはならないことだと生産側に申し上げています。
一方で実需者側に対しては、秋になるまで待っていないで、田植え前の段階に、生産側との間でこういう米が欲しいということを伝え、できれば事前契約することが必要ではないかということを申し上げています。秋になってから欲しい米がないと言っても何の解決にもなりません。そこで国としては、業務用向けのお米のマッチングフェアなども実施して、両サイドのリンケージを強め、お互い安心して作り、安心して買うことができる関係を作ろうと努力をしています。
今回の米政策の見直しの大きな狙いは、一言でいえばマーケット・イン、つまり、欲しい人に欲しいものをぴったり届けていく感覚が重要だということです。その意味では、今までは卸業者に売れば売れたと思っていたかもしれませんが、本当に米を消費するエンドユーザーに届けているか否かを考えなければならないということです。逆にいえばエンドユーザーが求めている米を見極めてから田植えをする、といった米の作り方が求められているのだと思います。
◆飼料用米生産は「閣議決定」
--ただ、米の直接支払交付金の10a当たり7500円が廃止されますから、とくに大規模産地では、その分1俵あたり何とか高く売れなければ収益減になってしまうとの懸念の声もまだあります。
米そのものに交付金を支払うのは、実は長い米政策のなかでもイレギュラーなことであり、歴史の浅い政策でした。その政策以前においても、市場で形成される米価で農家の収入所得が成り立っていたわけで、今回の見直しは再びそこに戻るということでもあります。
その際、主食用米だけを生産するのはリスクが大きい、やはり水田フル活用の視点から政策支援を活用して麦、大豆、飼料用米生産などで10a当たり収益はいくらになるのかという考え方でいく、そして主食用米のなかでも需要のある品種をバランスよく作っていく、そのことが水田農業経営の安定を実現すると思います。
--その飼料用米支援については支援水準など安定して継続されるのかという不安や、あるいは安心して取り組むには法制化が必要だという声もあります。
予算は単年度主義の原則は憲法上変えられません。また、仮に法制化してもそこに支援単価を書き込むことはできません。
そのような中で、平成27年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」に飼料用米生産について書き込み、37年度の飼料用米の生産努力目標を110万tとすると明確に記述しました。「基本計画」は5年先、10年先の農政を見通す最も重い決定であり、総理や財務相も含めた閣議で決定したものです。そこに位置づけたのは最強だということです。
また、現実にも、これまで飼料用米の取り組みに対して予算が不足したから支援水準を低くしたということはなく、必要な予算はしっかり確保しているということを、結果として示しているということです。
◆JAの力発揮できるチャンス
--飼料用米生産については、地域の水田農業をどうするかという視点での取り組みも必要だと感じます。たとえば熊本県のあるJAではWCSに取り組み、それによって刈り取りが早まったために水田を乾燥させる期間を取ることができ、そこに今まで作っていなかった春出荷ニンジンを作付けしているといいます。飼料用米政策は実は新しい産品の生産を生み出し農業生産の拡大、所得増大にもつながっている。こうした視点からの政策論議を期待したいと思います。
その通りだと思います。飼料用米を生産することの意味を明確にしなければなりません。例えばこの2年間、飼料用米多収日本一グランプリや、飼料用米を使った畜産物のブランド化コンテストなどを行ってきました。特にこれまでの米政策では、生産調整によって減らすという方向が続いてきましたが、飼料用米をどんどん多収にすることは価値のあることであり、畜産政策を含む食料政策、さらには土地利用の面からも意義があるということです。
主食用米が過剰だから仕方なく飼料用米に取り組んでいるのではなく、農業政策として意義があることだと引き続き訴えていきたいと考えています。
--米粉用米、輸出用米の現状と今後の課題は何でしょうか。
米粉についてはパン用、麺用、菓子用の用途別基準を作ったほか、ノングルテン表示も整備するなど国が後押ししてきましたが、ここに来て消費が伸びています。このトレンドを逃さずに官民挙げて後押しして、願わくば小麦アレルギーに関心の高い欧米の大市場にノングルテン商品として輸出していくことも考えていきたいと思います。
輸出は農林水産物全体で1兆円の目標を掲げており、米と米加工品は600億円が目標です。一方、量としてしっかり輸出していくことが大事だと考え、昨年秋に10万tを目標に新しいプロジェクトを発足させました。これは手を挙げてもらった輸出事業者と産地を戦略事業者・産地として特定し、さらにターゲットとする輸出国も決めて、これらをつなげていく後押しをしていくということです。
加えて30年度からは産地交付金のなかに米輸出など「コメの新市場開拓」への取り組みに対して10a当たり2万円を措置しました。こうした支援を複合的に作用させ、米の輸出を伸ばしていきたいと強く思っています。その場合、国内と同じように業務用向けの輸出が重要です。店舗数の多い日系の外食チェーン店などで国産米を原料にしてもらえれば、爆発的な消費量になる可能性もあります。
--米政策の見直しにあたってJAグループへの期待をお聞かせください。
JAグループは日本最大の米の作り手であると同時に、最大の米の売り手です。誰がどんな米を買うのかを組織として把握し、生産する。米政策の見直しプロセスの中でこんなに強いことはない。変わること自体をネガティブに捉える向きもありますが、JAの力が発揮できるチャンスが来たと是非とも前向きに捉えていただきたいと思います。
(からさわ・あきら)
昭和35年生まれ。
東大法学部卒。58年農林水産省入省、平成11年経済局国際部国際経済課国際貿易機関室長、経営局経営政策課長、大臣官房予算課長などを経て生産局農産部長、27年政策統括官。
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