精米の輸出目標は1万t 農水省の輸出戦略2013年5月27日
政府は農林水産物・食品の輸出を2020年までに1兆円とする目標を打ち出しているが、このうち米と米加工品で600億円を目標に掲げている。重点品目には米菓やパックご飯、さらに日本酒など挙げている。精米の輸出にも力を入れるが農林水産省によると1万t程度にとどまるという。
◆中国ではマージンが米価の6割
米と日本酒などを含めた米加工品を合わせた輸出額は2012年で130億円。ただし、米の輸出は7億円程度。量は5年間で約2倍となったが2000tを超える程度にとどまっている。輸出先は香港とシンガポールで約7割のシェアを占めるが、期待の高い中国向けは過去最大でも100t程度だ。
農水省によると中国市場での日本産米の店頭小売価格は1kgあたり1100円?1300円。5kgで6000円を超えることになる。1300円の店頭価格のうち、輸出価格は約410円、これに関税などで約180円(14%)かかるが、店頭価格との差、約720円が流通マージンだと農水省は分析している。
日本産米に対しては「高いけれどもうまい」との評価はあるものの、中国市場では品質差を上回る“高すぎる価格”で売られているのが実状で、しかも流通マージンが6割を占めており、これは生産コストを下げる努力では埋まらない。
また、香港やシンガポールでは中国市場ほどの高価格ではないものの新潟産コシヒカリが1kg950円程度の販売価格で、さらに精米後、半年を経過しても店頭で販売されているものも見られたという。
一方では中国をはじめアジア地域でも日本の米が生産されていることを考えれば、農水省は「許容できる価格差で販売できる国以外では、米粒の輸出が爆発的に伸びるとは考えにくい」と結論づけた。そのため、精米の輸出は増えたとしても1万tだという。
◆パックご飯や米菓に力
一方、世界のスナック菓子の市場規模は9兆円で、このうち米菓市場は4000億円だという。また、日本酒は海外の店頭価格が現地生産の日本酒よりも5?10倍高いものの、価格差に見合った品質の差があると理解されているという。
こうしたことから、今回の米の輸出戦略では精米そのものの輸出だけではなく、パックご飯、米菓、日本酒など加工品にも力を入れる。
そのため生産対策としては、現在の輸出用米を引き続き生産調整の枠外と位置づけるとともに、販売面では精米機とセットで輸出し現地精米で販売するスキームや、炊飯ロボットを外食産業に合わせて売り込むなど、「真においしい日本産米のプレゼンスを高める」取り組みに力を入れる。 また、パックご飯の輸出では、香港に玄米を輸出し、香港で精米・加工し中国へ輸出することも検討している。経済緊密化協定で30%以上付加価値をつけたものについては関税がゼロとなるからだ。かりに日本から直接、中国にパックご飯を輸出すると関税率は30%となる。こうした制度的メリットも活用しながら、相手国のニーズに合った商品開発を進めることが基本となる。 また、米菓も同様に相手国のニーズが重要になる。手軽なスナック菓子としてのプロモーションを強化すると同時に、台湾、香港、米国などを重点国に、UAE、サウジアラビア、EUなどを新規需要開拓国として位置づけるなど、食文化にとらわれず幅広く輸出対象地域を設定する方針だ。米菓の輸出額は約30億円(平成24年)となっている。
◆農業強化につながるか
日本酒の輸出額は約90億円(平成24年)。輸出先は香港と米国で全体の5割を占める。これに対してフランスのワイン輸出額は7700億円、英国のスコッチは5200億円だ。
世界のワイン消費量は約2400万klで、EU、米国のほか中国の消費量も上昇傾向にあり、農水省は世界の酒市場規模を考えれば日本酒の輸出拡大の余地は大きいとみる。
重点国は米国、香港、ブラジル、インド、EUなど。発信力の高い都市でのイベントやセミナーなどを通じて日本酒の良さをアピールしていく。ただ、国内の生産量が緩やかではあるものの減少傾向にあることから、米生産者と酒造業者の結びつきをより強化して、原料米の数量や価格の安定確保も課題としている。
輸出戦略では青果や牛肉などでもそれぞれ戦略を打ち出している。いずれにしても国内農業の強化につながるかどうかが課題となる。
(関連記事)
・農林水産物の輸出1兆円めざす 農水省(2013.05.20)
・牛肉輸出の倍増をめざす JA全農(2013.05.10)
・「日本には有利な条件がある」 アジアへの輸出(2013.03.21)
・3割弱が農産物輸出に意欲 日本政策金融公庫(2012.12.26)
・2017年に1兆円めざす 農水省が農林水産物・食品の輸出戦略で検討会(2011.10.12)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(139)-改正食料・農業・農村基本法(25)-2025年4月26日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(56)【防除学習帖】第295回2025年4月26日
-
農薬の正しい使い方(29)【今さら聞けない営農情報】第295回2025年4月26日
-
1人当たり精米消費、3月は微減 家庭内消費堅調も「中食」減少 米穀機構2025年4月25日
-
【JA人事】JAサロマ(北海道)櫛部文治組合長を再任(4月18日)2025年4月25日
-
静岡県菊川市でビオトープ「クミカ レフュジア菊川」の落成式開く 里山再生で希少動植物の"待避地"へ クミアイ化学工業2025年4月25日
-
25年産コシヒカリ 概算金で最低保証「2.2万円」 JA福井県2025年4月25日
-
(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
-
【'25新組合長に聞く】JA新ひたち野(茨城) 矢口博之氏(4/19就任) 「小美玉の恵み」ブランドに2025年4月25日
-
水稲栽培で鶏ふん堆肥を有効活用 4年前を迎えた広島大学との共同研究 JA全農ひろしま2025年4月25日
-
長野県産食材にこだわった焼肉店「和牛焼肉信州そだち」新規オープン JA全農2025年4月25日
-
【JA人事】JA中札内村(北海道)島次良己組合長を再任(4月10日)2025年4月25日
-
【JA人事】JA摩周湖(北海道)川口覚組合長を再任(4月24日)2025年4月25日
-
第41回「JA共済マルシェ」を開催 全国各地の旬の農産物・加工品が大集合、「農福連携」応援も JA共済連2025年4月25日
-
【JA人事】JAようてい(北海道)金子辰四郎組合長を新任(4月11日)2025年4月25日
-
宇城市の子どもたちへ地元農産物を贈呈 JA熊本うき園芸部会が学校給食に提供2025年4月25日
-
静岡の茶産業拡大へ 抹茶栽培農地における営農型太陽光発電所を共同開発 JA三井リース2025年4月25日
-
静岡・三島で町ぐるみの「きのこマルシェ」長谷川きのこ園で開催 JAふじ伊豆2025年4月25日
-
システム障害が暫定復旧 農林中金2025年4月25日
-
神奈川県のスタートアップAgnaviへ出資 AgVenture Lab2025年4月25日