【本紙独自調査(1)】JAの米担当者に聞く21年産米の作況見込み 全国「99」2021年9月30日
「JAcom農業協同組合新聞」が毎年実施しているJAの米担当者に聞いた2021年産米の作柄等見込みについての調査集計結果がこのほどまとまった。それによると調査時点での作況見込みは全国で「99」となった。8月の長雨・日照不足が登熟に影響を与えた懸念の声がある地域も多いが、一方で天候の回復で8月中旬時点より予想より作柄を期待する声も聞かれた。ただ、主食用米の過剰で作付け転換が求められるなか、飼料用米を推進しているが「組合員から怒られた。農家にもプライドがある」「これ以上の作付け転換を求められると生産者の生活が安定しない」などの声が寄せられたほか、「主食用の政府買い上げ」を求める声も多い。
平年並みが22県
調査は9月13日から24日にかけて各県で管内の水田面積の多いJAを中心に全国規模で約200JAの米担当者に聞き取りを行った。担当者が現場で見た作況や一等比率見込みなどを聞くとともに、今年の天候の特徴、水田農業の課題などを聞いた。
農水省が発表した8月15日現在の作柄概況では「良」1県、「やや良」5県、「平年並み」20県、「やや不良」20県だった。
本紙の調査では作況指数の見込みは103から93となった。「やや良」となる103は埼玉県、102は北海道、岩手県の3県となった。「平年並み」の101~99は22県、「やや不良」の98~95は10県、93の「不良」の見込みとなったのは高知県と大分県となった。
北海道は全道で天候が良好で「畑作は干ばつで悪かったが水稲は問題なし」などの声が聞かれた。ただ、高温障害での乳白、胴割れの懸念や、8月中旬以降の低温で未熟粒が増えたとの指摘も一部であった。もみの水分量が高く乾燥調製に手間と時間がかかり、燃油価格の上昇からコストもかさむ見込みも。一方では米価の下落が見えていることから「農家にイライラも募っている」との声も聞かれた。
東北も天候が良好に推移、収穫期も前倒しになるとの見方もあったが8月の雨と日照不足で「刈り取りスタート時期は例年並み」となったという。気温が下がったことから高温障害など品質への影響は少なくなったとする地域もあるが、カメムシといもち病が近年になく多発したとの報告もあった。
関東・東山からは天候が良かったものの8月の低温でのいもち病の発生の一方、高温障害への対策として水管理とかけ流しなどを農家に推進した取り組みなどが報告された。
北陸からは春先から天候不順が続いたが6~7月に持ち直した。その後、8月中旬からの雨で青未熟粒の発生なども指摘されている。また、カメムシ防除の実施したが、長雨で薬剤が流されたことから被害が発生しているとの地域も聞かれた。
東海も8月の長雨で登熟不足や、刈り取れずに倒伏した圃場もあるという声も聞かれた。
防除対策にSNS活用
近畿でも長雨の影響を懸念する声が多いが、極早生品種は7月までの天候が良好だったことから、昨年より収量も品質も良かったとする声もある。ただ、中生品種は8月の長雨で「くず米が多くなり収量が減少した」との声も聞かれた。
昨年はウンカの被害も多かったが、JAによっては「LINEで早期に周知し予防しているので被害は少ない」とSNSを活用して対策に乗り出した例もある。
中国・四国も長雨による適期刈り取りが難しくなっており、ライスセンターに出荷が集中し「パンク状態」との実態も報告された。
九州からは昨年多発したトビイロウンカ被害は「昨年ほど出ていない」との声。ウンカ対応の農薬に切り換えを強く推奨したことも要因だという。
気象変動や病害虫などへの対応も重要になっている。
あるJAでは生産者向けのLINEサービスを活用し営農情報をはじめ、各種災害情報を定期的に配信し、注意喚起を促している。さらに災害が想定される場合にはJAの支店を避難所として活用してもらう取り組みも行い「営農と生活を守っている」と話す。
病害虫への対応は適期防除が重要だが、高齢化と担い手不足で「無人ヘリやドローンによる一斉防除の取り組みがいっそう必要になっている」との声も多い。
また、「基本は土づくり」、「健苗の適期移植など基本技術の徹底」(中国)との意見は多く、「根の張りを強めるための土壌改良材の推進」(近畿)などの取り組みが聞かれた。
気候変動に対応し、高温耐性品種の導入も課題だ。「きぬむすめ、にこまるへの転換を進めている」(近畿)、「暑さに弱いコシヒカリは昨年からやめた、高温に強い彩のきずなを奨励した」(関東)などの取り組みがある。
しかし、農家の手取り確保を考えると難しいとの指摘も。「米価が下がっているなかでコシヒカリから品種を変えるわけにもいかない」(東海)、「品種を転換するといっても販売とリンクさせなければならない」(近畿)という意見も聞かれた。
米政策 国の責任問う
令和3年産米は作付け前から主食用米の在庫削減のため、作付け面積で6.7万haの主食以外への作付け転換が必要とされた。ほぼ達成される見込みだが需給が改善するかは不透明で概算金を60kg2000円~3000円引き下げざるを得ない状況にある。
非主食用へのさらなる転換も産地によっては「生産者を困惑させた」と話す北陸のJA担当者は、「6月に入ってから深堀りを求められ、飼料用への仕向けをそれから農家にお願いした。せめて田植え前の2月には方針を示すべき」という。対策を早く示すべきとの声も多い。
その一方で主食用米価格の下落を予想し、「大規模農家に話をしなければと早くから説明。水田交付金のほかに、収入保険やナラシ対策の加入も奨めた。じゃ飼料用米に転換するか、という声も出た」(東海)という。同JAでは飼料用が1.5倍に増えた。
また、加工用米の増産を中心にしようとJAが単価を打ち出し農家との個別相談会で生産量を増やしたというJAもある(関東・東山)。
地域によっては業務用米が不足しているために業務用に転換を図ったJA(近畿)もあるが、コロナ禍で外食需要の減退で業者からの引き合いがなくってしまい「販路が厳しい」というJAもある(四国)。
そのほか米以外への作物として枝豆やスイートコーンの導入など、大豆の増産を図る取り組みも聞かれた。
複数年契約 どう効果
飼料用米の取り組みで期待されるのは農家の複数年契約。米価が大暴落した2014年産では翌年に飼料用米の転換が進んだだが、米価の回復とともに主食用米に再び戻っていった。それが主食用米の過剰を招く要因でもあったが、昨年度の予算から複数年契約に交付金を上乗せする仕組みを導入した。
そのため「少なくともあと2年間は飼料用米の作付けを続ける生産者が増えた。来年産も主食用転換が求められるが、その点では一部は取り組むべきことは決まっているといえる」(東北)という。県の単独事業よる交付金の上乗せ措置もあって「1、2haの農家にも飼料用米の生産が広がってきた」(四国)という声も聞かれた。
ただし、需給調整は国の責任で果たすべきとの声は多い。「飼料用米、加工用米の振り分けは国が決める仕組みができないか。農家はその仕組みに一定の拠出して参加する。参加せずに自分の米を自信を持ってマーケットで売りたいという人に向けてしっかり市場をつくる。先を見据えた議論をする必要がある」とあるJAの担当者は強調する。
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