【地球温暖化のなかの米づくり】気候変動に地域社会で取り組む 高温耐性「新大コシヒカリ」2023年10月30日
2023年は梅雨明け以降、北・東日本を中心に記録的な高温が続き、出穂期以降の高温による白未熟粒の発生などが懸念され米の等級の低下が各地で課題となっている。こうしたなか新潟大学で20年近く研究された暑さに強く高温・高CO2耐性を持つコシヒカリが今年、「新大コシヒカリ」の商標で販売を開始した。研究には県内各地の生産者が協力し、県内の消費者も「故郷のコシヒカリをしっかりと応援したい」との声を寄せるなど、同大社会連携推進機構は「地球温暖化のなかの米づくりを社会全体の課題として考えていくきっかけにしたい」と位置づけている。
高温耐性の株を見出す
実証試験に参加する農家のみなさん
「新大コシヒカリ」の品種名は「コシヒカリ新潟大学NU1号」。開発したのは同大農学部の三ツ井敏明教授だ。
新潟県は言うまでもなくコシヒカリを始めとした米の大産地だが、夏の酷暑やフェーン現象が稲の生育に大きな影響が出ており、2023年はまったく雨が降らない干ばつも続き、「災害級の高温・渇水」(伊藤能徳JA新潟中央会会長:10月11日)に見舞われた。10月15日現在、1等比率は全体で17%、2等48%、3等32%となっている。
等級低下の要因が高温による白未熟粒の発生だ。新潟大学・刈羽村先端農業バイオ研究センターの研究グループとともに三ツ井教授が当初取り組んだ研究は高温によって米が白濁化するメカニズムだという。研究の結果、デンプンの合成と分解のバランス異常が米を白濁化させることを明らかにするとともに、気候変動の進行を見据え、高温に強い新品種の開発に取り組んできた。
ただし、新品種の開発といっても交配によるものではない。三ツ井教授は高温や干ばつなど稲にとって厳しい環境を与えて生育し、そのなかで生育したコシヒカリを見出していった。高温耐性という特性を持つものが出現する確率は数パーセントと考えられたが、20年近い歳月をかけて高温に強いという突然変異を起こしたコシヒカリを出現させたのだという。
新潟大学農学部の三ツ井教授
新潟県はもちろん日本全体の米の作付け面積で3割以上を占めるのがコシヒカリ。日本人にとって大事な品種であることから、コシヒカリという品種の変化の可能性も追求した結果が「コシヒカリ新潟大学NU1号」を見出すことにつながった。
2019年からは農家の協力を得て、村上市、阿賀町、新発田市、刈羽村、柏崎市、南魚沼市、上越市などで実証試験を始めた。同県内は平場のほか、中山間地域や、離島もある。それぞれの地域の土壌や気候などでどう生育するか実証を進めたきた。
同機構によると、2019年からの実証試験で一般流通しているコシヒカリに比べて高温被害粒の比率が低いことが示されたという。また、21年、22年は品質評価も高く、暑さに強いだけでなく「おいしい」との評価も得た。
社会とともに取り組む米
実証試験で栽培した米はこれまで一部を新潟市の子ども食堂や、刈羽村の小中学校に寄贈してきた。
そして今年の7月に「新大コシヒカリ」の商標登録が完了し、新名称での販売にこぎつけた。
名称は昨年11月から12月にかけて一般公募した。応募総数は2506件もあり、そのうち「新大コシヒカリ」を応募したのは8人だったという。学外の有識者も含めて選定委員会で決定した。
23年産の生産量は約30t。生産者は14人だという。今年は中干し期間の延長にも取り組むなど、生産者は温室効果ガス削減の取り組みも行っている。
酷暑だった今年の品質については三ツ井教授が現在解析しており12月に発表する予定だ。
同機構の社会インパクトマネージャー・勝見一生さんは「環境問題とともに米農家が置かれている状況などに関心を持ってもらい、みんなで気候変動を乗り越えていこうという社会課題として米づくりを考えるきっかけにしていきたい」と話している。
高温耐性品種 12.4%
23年産米の8月末時点の1等比率は全国で68.9%で前年同期の68.0%と同水準。ただ、検査が本格化する9月以降は例年は1等比率が上昇していくが、今年は高温による白未熟粒の発生により例年より低くなると農水省は見込む。
また、地球温暖化に伴い高温傾向が続くことが見込まれるため、高温耐性品種の拡大を進める必要があるとしている。
高温耐性品種は「きぬむすめ」(島根、岡山、鳥取)、「こしいぶき」(新潟)、「つや姫」(山形、宮城、島根)などがある。
作付け面積は21年産で約16万ha。主食用作付面積における割合は12.4%となっている。17年産では6.8%で2倍近く増えている。
JAグループは政策提案のなかで高温耐性品種への切り替えや水利施設等の整備も含めた万全の支援を講じることを求めている。現在、検討されている23年度補正予算のなかでは「高温障害等急激な気候変動への対応」の項目が盛り込まれ、高温環境に適応した栽培体系への転換に向けて、地域の実情や品目に応じた高温耐性品種や栽培技術の導入などを支援する予算を確保する見込みだ。
「新大コシヒカリ」2kg
2052円(税込み)5kg4914円(同)
販売先は:新潟伊勢丹、日本橋三越本店、伊勢丹新宿本店、西武池袋本店、オンラインショップ:お米場 田心
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(118) -改正食料・農業・農村基本法(4)-2024年11月16日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (35) 【防除学習帖】第274回2024年11月16日
-
農薬の正しい使い方(8)【今さら聞けない営農情報】第274回2024年11月16日
-
【特殊報】オリーブにオリーブ立枯病 県内で初めて確認 滋賀県2024年11月15日
-
農業者数・農地面積・生産資材で目標設定を 主食用生産の持続へ政策見直しを JAグループ政策要請①2024年11月15日
-
(410)米国:食の外部化率【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月15日
-
値上げ、ライス減量の一方、お代わり無料続ける店も 米価値上げへ対応さまざま 外食産業2024年11月15日
-
「お米に代わるものはない」 去年より高い新米 スーパーの売り場では2024年11月15日
-
鳥インフル 米オレゴン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月15日
-
「鳥インフル 農水省、ハンガリー2県からの家きん・家きん肉等の輸入を14日付で一時停止」2024年11月15日
-
「鳥インフル 農水省、ハンガリー2県からの家きん・家きん肉等の輸入を13日付で一時停止」2024年11月15日
-
鳥インフル 米ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月15日
-
南魚沼産コシヒカリと紀州みなべ産南高梅「つぶ傑」限定販売 JAみなみ魚沼×トノハタ2024年11月15日
-
東北6県の魅力発信「食べて知って東北応援企画」実施 JAタウン2024年11月15日
-
筋肉の形のパンを無料で「マッスル・ベーカリー」表参道に限定オープン JA全農2024年11月15日
-
「国産りんごフェア」全農直営飲食店舗で21日から開催 JAタウン2024年11月15日
-
農薬出荷数量は3.0%減、農薬出荷金額は0.1%減 2024年農薬年度9月末出荷実績 クロップライフジャパン2024年11月15日
-
かんたん手間いらず!新製品「お米宅配袋」 日本マタイ2024年11月15日
-
北海道・あべ養鶏場「旬のりんごとたまごのぷりん」新発売2024年11月15日
-
日本各地のキウイフルーツが集まる「キウイ博」香川県善通寺市で開催2024年11月15日