「やっとこれからだ」 上がった米価、農家からみると【米農家の声】2024年11月6日
「令和の米騒動」は、端境期の「米がない」から、24年産の新米が出回ると「米が高い」にフェーズが変わった。家計を悩ませる「高い米」は生産者にとってどう映るのか。25年産米の需給見通しや適正生産量の議論も進むなか、米農家の声を聴いた。
高くない、ようやく戻った
読者、視聴者に都市部の消費者が多いマスコミでは、「米が上がった」「米が高い」という報道があふれているが、米農家の実感はかなり違う。
千葉県の農家、平野裕一さん(43)は、13haの田んぼで米作りをしている。
「価格ははっきりいって、やっと生産継続可能な価格に戻ったと思います。今までが安過ぎたのです。米農家も高齢化が進み、『この価格だったら続けられない』とリタイヤする人が年々多くなっていました。今年の概算金で、やっと次の年も作っていけると一安心しました」と平野さんは言う。
徳島県の農家、枝川博嗣さん(42)は、1haの田んぼで米を作り、イチゴも作っている。
「これまでずっと赤字でした。米作りを続けてきたのは、プライドみたいなものです。これでやっと再生産価格に追いつき、やっとこれからだと思います。農家目線ではもう少し上がってもいい」
京都府の農家、吉田宗弘さん(49)は、5haの田んぼでコシヒカリを作る。酒米はJAに出荷するが、主食用米は消費者、飲食店に直接販売する。価格は30キロ1万円を基本に、父から引き継いで四半世紀の間、全然上げていない。大量に買ってくれる飲食店には多少割り引く。
「大きな機械が入らず条件が不利な中山間地なので、この価格であれば何とかマイナスになっていない程度です」
消費者理解と農政への注文
米60キロ当たりの生産費は、2023年、全農の推定で1万6118円だった。生産資材も労働費も上がっている。相対価格はそのまま農家の所得となるのではなく、60キロ当たり約2000円の流通経費が引かれるので、相対取引価格が1万8118円を超えてはじめて利益が出ることになる。22年産米の相対取引価格は1万5306円だったため、生産費を下回っていた。
新米が出回り始めた24年9月の相対取引価格は全銘柄平均2万2700円だったので、平野さん、枝川さんの言うように、農家は米作りでようやく利益を得られる水準まで戻ったといえる。もっとも、吉田さんのような中山間地の農家は生産費がかさむため、現在の米価でもようやくトントンだ。
それでも、消費の冷え込みを心配する声は農家にもある。吉田さんは「米価が急に上がりすぎたような気もします。米農家も、海外にも販路を求めていかないといけないし、主食である米を確保できるよう国にも考えてほしい」と話す。
平野さんは「家計がたいへんなのも理解できます。ただ、今の米価でも茶碗一杯のご飯は他の食品より安いし、価格が乱高下しても農家にはほとんど入らない。私たちも子どもたちへの食育教育に取り組んでいますが、国も消費者理解の醸成に努めてほしい」。
枝川さんも、「値段が上がったことで需要が多少落ちるのは仕方ないが、日本の農産物は安過ぎた。消費者にご理解いただくしかありません」と語る。
「作況102」、現場実感と隔たりも
2025年の端境期には、今年のような米不足は起きないのか。農水省は10月11日、9月25日の24年産米全国作況を「102」のやや良と発表した。また、9月30日時点の1等米比率も全国平均77.3%と前年同期を17.7ポイント上回った。農水省は24年産米の収量を683万tと予測し、逆に需要は減少すると見込んで、25年の端境期には在庫が今年より積み増され(24年6月の在庫153万t→25年6月162t)不足は起きないとする。
これに対し石川県で31haの田んぼで米を作るぶった農産会長の佛田利弘さん(64)は、「各地の大規模農家から聞こえてくる話は、ほとんどが『少なかった』『取れなかった』というものです。カメムシや雑草も多かった。『例年10俵のところ5俵だった』という話もあります」と話す。
農水省が公表した作況について佛田さんは、「調査地点はいつも決まっていて、地域の篤農家でしょう。田んぼに手をかけていて、収量が安定しているのだと思います」と推測する。
作況指数99とされた埼玉県北部のJA担当者は「そんな実感はありません。作柄は悪く自分としては90そこそこではと思う」と話していた(「【24年産米】収量、品質に懸念 東日本主産地の声」JAcom10月18日)。10月30日に開かれた食農審食糧部会でも、日本生協連の二村睦子常務が、683万tの収穫見込み量について「産地に聞くと、実感と乖離、そんなにいいのかという声がある」と指摘していた(【25年産米】適正生産量683万tに懸念の声も(1) JAcom11月1日)。
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