「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産に登録決定 業界3団体がコメント発表2024年12月6日
「伝統的酒造り」が12月5日(日本時間)、パラグアイで開かれたユネスコ無形文化遺産保護条約第19回政府間委員会の審議で、ユネスコ無形文化遺産への登録が決まった。これを受けて、「伝統的酒造り」登録に向けて取り組んできた業界3団体がコメントを発表した。
保存会の小西会長(左)と中央会の宇都宮仁理事
日本酒造組合中央会(中央会)は、「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」(保存会)および日本酒造杜氏組合連合会(日杜連)と協力し、「伝統的酒造り」について、これまで国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産代表一覧表への登録に向けて取り組んできた。
政府間委員会における登録決定をうけ、中央会の大倉治彦会長、保存会の小西新右衛門会長、日杜連の石川達也会長が発表したコメントは次の通り。
日本酒造組合中央会の大倉会長
◎日本酒造組合中央会 大倉治彦会長
「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録に当たって
國酒(日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりん)を醸す日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術が、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことを当会会員一同大変喜ばしくまた誇らしく思っております。ここに至るまで登録にご尽力いただきました日本政府及び関係機関ならびに関係者の皆様方に感謝申し上げます。
日本各地の蔵元にはそれぞれ歴史があり、長い年月の中で、各地で磨き発展させた酒造りの技によって國酒が造られてきました。それは、地域の祭礼や年中行事に欠かせないものであり、四季折々生活習慣や食文化に合わせて楽しまれてきました。私どもは國酒を知ることは日本の伝統文化に触れることだと思っています。
「伝統的酒造り」は、古くは各地の杜氏集団によって継承されてきましたが、近年では、国税局、独立行政法人酒類総合研究所や公設試験研究機関の支援を受け、各都道府県酒造組合(連合会)を中心に技術の研鑽に努めています。これからも、次の世代へ確実に継承と発展を図ってまいります。
また、私どもは、このユネスコ無形文化遺産登録を機に、「伝統的酒造り」を支える地域社会の絆、自然環境への配慮、生活文化における役割に改めて思いを致し、関係者と協力して、国民の皆様に國酒の魅力をあらためて認識していただくとともに、海外の皆様に一層知っていただくための各種事業を国内外で実施してまいります。そして、こうじ菌と人の技によって醸される國酒が、内外の皆様に愛され世界の食文化の多様性に大きく貢献することを願っています。
令和6年12月5日
日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会の小西会長
◎日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会 小西新右衛門会長
「伝統的酒造り」の継承と発展
この度「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。登録にあたりましてご尽力いただきました皆様に大変感謝申し上げます。
日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりんを造る「伝統的酒造り」は、日本の恵まれた気候風土によって育まれたこうじ菌を使う独特の技術です。日本人は1000年以上前から蒸した米の上にこうじ菌を育て、こうじ菌の働きを使って酒を造る知識と技を発展させてきました。後年その醸造技術が、蒸留技術と出会うことで本格焼酎・泡盛が生まれ、本格焼酎とこうじが出会うことで本みりんが生まれてまいりました。
「伝統的酒造り」によって各地で醸される酒は、祭礼、結婚式、通過儀礼、その他の社会文化的な機会に欠かせないものです。先に無形文化遺産に登録されている「能楽」や「歌舞伎」の中にも登場し、「和食;日本人の伝統的食文化」とともに親しまれてきました。
また、「伝統的酒造り」には、清浄な環境や水の確保、原料を提供する農家を含む地域との結びつき、酒を造る職人同士の連携が必要であり、地域社会にとって重要な意味合いがあります。さらに、酒造りのための道具や様々な酒器を作っていただいている方、料理とともにお酒を提供していただいている方々をも含め広く人の繋がりと文化を形成してきました。
今回の無形文化遺産への登録をきっかけに、「伝統的酒造り」を守り・つなぐことについて地域が誇りをもち、関係者間の対話が一層盛んになることを期待しています。
日本酒や本格焼酎・泡盛は、世界で知られるようになってきました。しかし、その繊細なうま味や味わいがこうじ菌を使った酒造りにあり、日本の歴史・文化と密接に結びついているものであることはまだまだ知られていません。世界に発信できる絶好の機会として生かしていきたいと考えています。
「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」は、関係する「日本酒造杜氏組合連合会」、「日本酒造組合中央会」、地方自治体や国の関係機関とともに「伝統的酒造り」の保護・継承とその魅力発信に継続的に取り組んでいきます。
さらに、食にかかわる団体や既に無形文化遺産に登録されている海外の醸造文化とも広く連携を行い、かけがいのないわが国の文化を次の世代へと継承していきます。
令和6年12月5日
日本酒造杜氏組合連合会の石川会長
◎日本酒造杜氏組合連合会 石川達也会長
日本の文化と精神を宿した「伝統的酒造り」とその継承
このたびユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」は、日本の気候風土の中で長い歴史を通じて受け継がれてきました。その伝統とは、こうじ菌や酵母に代表される微生物たちが織りなす醗酵を、自然の摂理に則って支える技術です。微生物の存在すら知る由もなかった時代に、現代から見ても完璧な技術を先人が培っていたことには、驚嘆と畏敬の念を抱かざるをえません。また、それは単なる技術に留まらず、自然と共存してきた日本の精神を反映した文化とも言えます。そして、その技術や精神を現代にまで連綿と伝えてきたのが「杜氏」なのです。
ユネスコ無形文化遺産登録への勧告では、酒造りの伝統継承を担ってきた杜氏が「toji」という名称とともに紹介されており、私たち酒の造り手にとってこの上なく光栄なことと、非常に誇らしく嬉しく感じました。ただ、無形文化遺産への登録を大いなる喜びとしつつも、同時に、その酒造りの伝統をきちんと後世へ継承していく責任も、これまで以上に重く受け止めているところです。
酒造りの伝統技術は無形の文化遺産ですから、言語化数値化した記録として保存すればいいというわけにはまいりません。その技術を継承していくのは、あくまで「人」なのです。したがって、酒造りの世界に意欲ある人が入り、伝統技術を体得していくことの可能な環境を整えることが必要になります。
杜氏の里から酒の造り手が輩出され、杜氏集団の中で人が育まれていた以前とは違い、現在は、業界全体で人を育て、活かさなければならない時代に入ってきております。そう考えれば、酒蔵同士、杜氏同士は競合する他者ではなく、伝統継承のために協力し合うべき同志だと言えます。今回の登録を機に酒造業界がより一層一体感を持って、日本の財産である伝統の酒造りを守り、つないでいきたいものです。
令和6年12月5日
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