輸入米「争奪戦」過熱 SBS入札で7年ぶり完売 業務用で引き合い強く小売にも2024年12月25日
農水省は12月20日、2024年度4回目の輸入米SBS入札(*ことば)を実施し、全量が落札されたと発表した。過去3回分とあわせ、主食用の年間枠10万トンがすべて落札された。国産米高騰を背景に、輸入米争奪戦の激化も止まらない。輸入米の「行先」を追い、評判を聞いた。
国産米の隣に輸入米が並ぶ業務スーパーの米売り場(東京都内)
炒飯・ピラフ・カレーなどによく合うとアピールするオーストラリア米。
税別10キロ5100円で
売り渡し価格、過去最高に
主食用の全量落札は7年ぶりのこと。スーパーや外食業界向けで国産米と競合する米国産中粒種の売り渡し価格(税込み)は1キロ約521円、豪州産短粒種が1キロ約517円、台湾産短粒種が1キロ約524円で、一般米の平均売り渡し価格は1キロ約548円と過去最高だった。国産米をめぐる集荷競争過熱が輸入米の入札にも及んだ格好だが、国産米には生産調整しながら税金を投じて輸入米を買い付ける制度には批判も強い。
業務スーパーでは好調な売れ行き
輸入米はどこに行くのだろうか。
都内の業務スーパーの米売り場には、国産米と並べて豪州産米が積み上げられていた。価格は税別5キロ2550円で10キロは倍。黄色の地に白抜きで「オーストラリア米」の大きな字と稲穂のイラストが入った目立つ袋には「あっさりとした味と食感が特徴」「炒飯・ピラフ・カレーなどの料理にとても合います」と書かれている。
店員は「めちゃくちゃ売れます。安いですから。順調に売れるし、(注文すると)入ってきます」。カリフォルニア産米のカルローズも扱っていて、価格は豪州産米より少し高い程度という。ただ、「10(袋)注文しても2か3しか入らないので、今は品切れです」とのことだった。
既報の通り、スーパー大手の西友では台湾産米「むすびの郷」を11月から発売し、好調に売れている。
牛丼の松屋「コスト面で切り替え」
外食での利用も、輸入米争奪戦の背景にある。牛丼チェーン「松屋」では、5月から一部店舗で国産米と輸入米とのブレンドに切り替えた。「松屋」を運営する松屋ホールディングス(広報)はその理由を「国産米高騰に伴い、当社必要数量が不足したため」とし、農政には「需給バランスの崩れが過度にならないよう米の有効な政策に期待したい」と求めた。
「松屋フーズ」のホームページから「主要原材料の原産地について」→「各店舗の米の原産地について」に入り、利用するお店の都道府県→市区町村→店舗名を順に選ぶと、そのお店で使われている米が「国産」か「国産・外国産」(ブレンド)かが表示される。松屋以外にも、国産米から輸入米に切り替える動きがある。
吉野家「牛丼に合う米、以前からブレンド」
一方、牛丼チェーン「吉野家」は、「うちではずっと前から、米国産を中心に輸入米を国産米にブレンドして使っています。もちろん価格対策もありますが、一部報道にあったように『国産米が高騰したので切り替えた』ということではありません。牛丼に合う米を求めて走り回り、年間契約で安定して調達しています」(吉野家ホールディングス広報)と説明する。
江藤農相は影響否定するが
江藤拓農相は12月24日の記者会見で、輸入米SBSが全量落札となったことについて記者から質問され、「国内の米価が高い時にSBSの枠は人気があるのは通例なので、特別なことではないと思っている。......SBSを選ぶ方は価格に引かれて買う方もいらっしゃって、それはそれだと思うが、これが国産米の需給に大きな影響を与え、国産米の人気を落とすことにはならないと受け止めている」と答えた。
削がれる国産米需要、巨額「差損」も
消費者が安い米に手を伸ばすことも、中・外食業者がコストを考えながら食材調達を図ることも、一つの選択とはいえる。だが個々の消費者や業者のふるまいではなく「国の政策」という点から考えると、現在のミニマムアクセス(MA)米、SBS入札の運用には疑問符が付く。
主食用のSBS米以外、MA米は加工・飼料用に回される。政府が米を高く買って格安で処分するため、毎年、巨額の差損が発生する。農水省によれば、2022年度は674億円にのぼった。SBS米に限ると、特に24年は全量が高値落札し「国がもうけた」形だが、国内消費に占めるSBS米比率は上がり、国産米需要がその分削がれている。
*ことば 米のSBS(売買同時契約) 日本は年77万トンのミニマムアクセス(MA、最低限の輸入機会)を課され、うち主食用枠の年10万トンはSBSで輸入している。輸入商社と卸売業者がペアを組んで入札。政府が商社から買い、「マークアップ」という事実上の関税を上乗せして卸売業者に売り渡す(買って同時に売る)形をとる。
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