米の小売価格、5キロ4000円超は適正か 相対取引価格とコスト構造から試算 「超過利潤」は誰の手に2025年3月27日
米流通の目詰まりを解消するための政府備蓄米放出で、2回目の入札が始まった。流通が円滑化し価格が落ち着くことが期待されるが、そもそも米の小売価格はなぜここまで高騰しているのか。2024年産米の相対取引価格に卸売・小売段階のコスト・平均利益を乗せて「適正小売価格」を試算すると、精米5キロあたり2918円となった。5キロ4000円超の小売価格は、高くなった相対取引価格と比べても合理的とは考え難い。流通段階のどこかで「超過利潤」が発生している可能性が高い。
米(全国平均)のコスト調査結果
出所:農水省新事業・食品産業部「合理的な費用を考慮した価格形成について(米WG)」
(2025年2月4日 第2回米WG資料)
2024年産米の相対取引価格(JA全農などの出荷団体と卸売業者の間で米を取引する際の価格)は、出来秋から25年2月までの平均で玄米60キロ2万4383円だった。マスコミでは「概算金や相対取引価格が上がったから小売価格も上がった」と説明されることがあるが、この説明はいささかミスリードだ。米の高騰分がすべて産地の利益になっているわけではないからである。米の小売価格上昇には、「概算金や相対取引価格に連動して上がった部分」と「それを超えた上がった部分」とが混在していると思われる。
米の適正価格は?
3月25日、衆議院農水委員会で、長友慎治議員(国民民主)が「米の適正価格はいくらだと農水省は考えているか」と質問した。農水省の松尾浩則農産局長は「米の価格は民間の取引の中で決まってくるもので、国が一律に示すことは難しい」と断った上で、「生産者、消費者、双方が納得いくことが大事だ。現在、生産から消費に至る食料システム全体で費用を考慮した価格形成を進めていく観点から法案(食品等流通法・卸売市場法改正案)を(国会に)提出している。成立した暁にはコスト指標も作られる。米についても、適正な価格形成に関する協議会・米ワーキンググループ(米WG)の中で価格の議論がなされている」と答弁した。
相対取引価格で仕入れた米、スーパーでは
そこで、米WGでの議論を参考に、60キロ2万4383円の相対取引価格で米卸が玄米を仕入れ、卸からスーパーが仕入れて店頭で売る場合の「適正価格」を試算してみたい。
60キロ2万4383円だと1キロあたり406.4円だが、玄米1キロを精米すると約0.9キロになるので、精米1キロあたりでは451.5円となる。
農水省が示した「米取引のコスト構造」(2022年)
農水省は2月、「適正な価格形成に関する協議会」米WGで「コスト構造の実態調査(抜粋)」を示した。全国7産地で令和4(2022)年産として生産・集荷され、米卸を経て、都内のスーパーで小売販売されるケースを事例的に調査した結果をまとめた。
そのうち「米(全国平均)のコスト調査結果」によると、玄米1キロあたりのコストは2022年、361.2円だった。内訳は生産232.5円、集荷(地域段階)28.0円、集荷(都道府県段階)18.8円、卸売31.6円、小売50.2円である。相対取引の段階では「生産」と「集荷」はすでに終わっているので、相対取引後にかかるコストは「卸売」と「小売」とになる。
物価上昇を加味し平均的利益を乗せる
精米1キロあたりに直すと、卸売のコストは35.1円、小売のコストは55.8円だ。これは2022年の数字だが、その後物価が上がっている。日銀が2月に公表した企業向けサービス価格指数では、2022年平均から25年1月(速報値)まで、企業向けサービス価格は6.16%上がった。米取引のうち卸売と小売にかかるコストも6.16%上がったとすれば、卸売コストは37.3円、小売コストは59.2円、合計96.5円となる。このコストを相対取引価格に足すと548円だ。
2023年の法人企業(金融業、保険業を除く)の売上高経常利益率は6.5%なので、卸・小売業者が平均的な利益を取るとすれば、精米1キロの適正小売価格は583.6円、5キロ換算で2918円となる。つまり「相対取引価格+卸・小売のコスト+平均利潤」で説明できる小売価格は5キロ約3000円までであり、それを超える高騰は説明がつかない。
5キロあたり約1200円が「超過利潤」
POSデータにもとづく農水省の調査では、全国のスーパーでの米5キロの小売価格は4172円だった(3月10日の週)。今回の試算からすれば、精米5キロあたり約1200円が「相対取引価格と流通コスト+平均的利益からは説明がつかない超過利潤」と推測できる。
物流2024年問題に関連した輸送費の上昇やパート・アルバイトの時給アップもあり、米の卸・小売のコストは企業向けサービス価格の平均値以上に増加している可能性もある。また、米の争奪戦加熱を背景に、相対取引価格より高い価格で米を仕入れた場合、適正利益を乗せて店頭に出せば4000円を超えてしまうこともありうる。それでも、米卸が相対取引価格で仕入れた米も含め、スーパー等での小売価格が5キロ4000円を超えているのは異常だ。
米卸は販売調整、スーパーは品切れに恐れ
その背景として指摘されるのが、米卸、小売それぞれの事情だ。大手米卸は、端境期に在庫がなくなるのを防ぐため月々の販売数量を調整しているとされる。それを受け、「希望通りに仕入れられないスーパーも、価格を高めに設定することで品切れを避けている」(取引関係者)ともいわれる。
前述の農水省・米WGの議論では「価格決定は、基本的に他社との競争」(米卸)、「米の価格決定で影響が大きいのは競争環境。当然安いところに消費者は寄っていく」(小売/実需)といった意見が出された。需給が引き締まり不足感が強いからこそ米の争奪競争が過熱し、一部の取引業者が超過利潤を得る余地が生まれる。
2022年産まで米価は不当に低く、「米農家の多くは赤字」「時給10円」などと指摘されてきた。その意味では、概算金や相対取引価格が回復したことは、米作りを続けるために大きな意義がある。だが、産地に還元されず消費者を苦しめる米価高騰は、米離れや輸入米の市場浸透を招くだけで、米作りの持続にもマイナスでしかない。不足感の解消と流通の安定が急がれる。
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