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米:持続可能な水田農業へ 米政策の見直しに向けて

過剰作付ワースト1の挑戦・千葉県2017年4月3日

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農業者別に「生産目安」提示
農家への個別訪問で経営安定へ結集促進

 30年産からの米政策の見直しに対応し各地で需要に応じた生産に向けた取り組み方針が行政と生産者団体、関係業界一体となって検討されている。千葉県では3月14日、千葉県農業再生協議会が総会を開き、「千葉県における平成30年産以降の『需要に応じた生産』取組方針」(以下、取組方針)を決定した。4月から県内の市町村説明会を開くなど今後現場に周知していく。「取組方針」の基本的考え方は、▽これまでの生産数量目標に代わる「生産目安」の設定・提示、▽水田の活用方法・推進方法などを内容とする「水田活用ビジョン」の策定の2つを柱にした需要に応じた生産の実現をはかるというものである。方針のポイントと、30年産対策を視野に入れてすでに動き出している29年産の取り組みについて紹介する。

◆生産・販売の実態把握

パンフレット 千葉県では、昨年10月から県農業再生協議会(構成員=県、JA千葉中央会、JA全農千葉県本部、県米集連、県耕作放棄地対策協、県担い手総合支援協)が30年産以降の取組方針について検討を開始し、市町村やJA、担い手農家などへのアンケート調査や、県内集荷業者への説明会などを経てこの3月に「取組方針」を決定した。
 まずその概要を紹介する。
 基本的な考え方で示されているのは、国が公表する需給見通しや産地別の需要実績、在庫情報に加えて、▽大規模生産者や集荷業者など生産者段階からの需要情報、作付け動向をもとに、これまでの生産数量目標に代わる「生産目安」を設定・提示し、それとともに▽水田の活用方法、推進方法等を内容とする「水田活用ビジョン」を策定するというものである。
 生産目安を設定することについては、現場へのアンケート結果で「生産の目安を農業者まで示す必要がある」との声が7割近くを占めたことをふまえた。
 市町村段階の地域農業再生協議会が、構成員であるJA、集荷業者、生産者などから翌年産の主食用米の生産動向を把握し、それを県再生協議会が集約することにしている。
 県再生協議会は、国が示す需給見通しなどに加えて、地域再生協が把握した動向をもとに県全体の主食用米と飼料用米などの転作作物の生産目安(案)を策定することにしている。このうち主食用米については、地域別の生産目安(案)を算定して、地域再生協に提示する。
 地域再生協は県再生協が示した地域別の生産目安の調整を求める場合は県再生協と協議し、最終的には農業者別の生産目安を設定し提示することにしている。
 同時に地域再生協議会では、地域の水田農業の方向を明確にし、主食用米のほか、飼料用米や加工用米など転作作物ごとに生産目安や、その推進方法なども盛り込んだ水田活用ビジョンをJAや集荷業者、大規模農家などが参画して策定し、水田農業全体として「需要に応じた生産」の実践をめざすことにしている。

30年産からの米政策見直し後の生産イメージ

◆小規模農家対応が大切

【28年産における規模別の取組状況】28年産における規模別の取組状況

 千葉県の「生産目安」の考え方について、県農林水産部生産振興課の冨塚浩一課長は「消費地が近いことや直売所が多いこともあって、米の販売先は長年決まっているという生産者が多いのが実態。それを調査して数字を積み上げていこうということです。国の需要見通しなど数字を示しただけでは、現場はなかなか納得しない。実態に即してていねいに推進していこうと考えています」と話す。
 千葉県は過剰作付け全国ワースト1だ。28年産主食用作付面積の全国計は生産数量目標の換算面積比2.2万ha減となったが、千葉県は8318haの過剰作付けだった。これは需給調整の必要性を生産者に呼びかけるパンフレットでも強調している。
 もちろん飼料用米への転換推進など、過剰作付解消に向けて努力が行われてこなかったわけではない。28年産も飼料用米の作付面積は787ha増え主食用米の過剰作付面積は前年産より▲782haとなっている。
 需要に応じた生産に向けて一定の取り組みは進んでおり、さらに推進するため県は28年産の取り組み状況を規模別に分析した。
 それによると経営規模5ha以上層では生産調整の達成者は77%であり、大規模経営では需要に応じた生産の必要性への理解が浸透してきていることが分かった。
 一方、5ha未満の中小経営では半数以上が未達成となっていることが示された。未達成者数の合計は県下で4万5000戸、このうち2ha未満が4万2000戸を占める。2ha未満層での未達成者は49.8%だった。さらに2ha以上3ha未満層では67.2%、3ha以上5ha未満層では52.6%という結果だった。
 面積でみると未達成者の水田面積3万7528haに占める2ha未満層は2万7080haと72%を占める。こうしたことから30年産以降、需要に応じた生産を着実に進めるには、むしろ小規模農家への周知徹底と飼料用米への作付け転換を図る必要があるとの考え方を軸に、現在、29年産対策を進めている。

◆飼料用米 倍増目標

【収入額の試算】収入額の試算

 29年産は飼料用米の目標面積を1万haとした。28年産実績は4700haだったことからすると、50%以上の増加を目標に掲げたことになる。
 推進方針としては「べこあおば」、「夢あおば」、「モミロマン」などの多収性品種は3ha以上の農家へ、主食用品種は中小規模の農家を中心に働きかけることにしている。主食用品種は収量の多い「ふさこがね」を推奨。主食用米と一括管理方式で栽培し、そのうち契約数量を飼料用米として出荷する仕組みもあることなどを説明して推進する。また、2ha未満の農家も飼料用米の推進対象とし、集落や土地改良区の集まりを活用して働きかけることにしている。
 こうした個別農家に働きかけるため、県はこれまで5ha以上の未達成者をリスト化して飼料用米等への作付転換を推進してきたが、29年産対策からはこれを2ha以上としてリスト化した。その農家数は約3000戸。これらの農家に対して地域再生協やその構成員(JA等)が個別に訪問、前述のように3ha以上であれば多収性品種の推進を図るといった取り組みを進める。
 同時に、この個別訪問では、可能な限り主食用米の生産者直売の実態もヒアリングし、県下の米生産者の作付け、販売動向を把握し、30年産からの「生産目安」の算定ために活用していくことも目的としている。
 個別訪問では飼料用米生産に取り組んだ場合の収入額が計算しやすい「収入額試算シート」も作成して配布する(上の試算表)。交付金等の単価と試算例が印刷されており、それをもとに自分の経営をあてはめて数値を記入すれば収入額が分かる。シートは県再生協議会のホームページに公開している。
 このシートには県単独の助成額も記入されている。千葉県では平成22年から飼料用米生産を支援する県単独事業を始めた。全国でも数少ない取り組みだ。国からの交付金に上乗せして助成する。当初の助成額は10aあたり1500円だったが、28年産から主食用品種を飼料用米として栽培する場合は倍額の同3000円とした(飼料用米の多収品種、米粉用米、WCS用稲は同1500円)。そのほか、飼料用米出荷の農家負担を軽減するためフレコンバッグ出荷に対応できる施設整備を支援する補助事業もある。
 29年産からはさらに土地改良事業実施地区や園芸などの補助事業実施者にも飼料用米による需給調整の推進を働きかける。園芸作物が主で米生産はわずかという農家についても、米の需給調整の必要性とメリット、さらに園芸関係の県の補助事業採択へのポイントとなることなどを伝え、現場できめ細かく需要に応じた生産の実践をはかっていく考えだ。

◆作りたいだけ作る状況ではない

千葉県農林水産部生産振興課冨塚課長 30年産以降に向けて千葉県の取り組みで重要なのが生産者直売の販売先の把握だ。実際に販売先の把握に取り組むのは市町村、JAなどが構成員である地域農業再生協議会である。
 県生産振興課は「小規模農家の販売先をどれだけヒアリングできるかが課題だが、目的は売り先があるかどうかを確認すること。確実な売り先がないまま、作りたいだけ主食用米を作るという状況ではないことを関係者とともに現場に浸透させていきたい」と話す。
 同時にJAグループに対しても、直販の拡大など実需者との着実な結びつきの拡大による集荷量の拡大で需給安定を図ることも期待する。また、県は集荷業者へ政策転換についての説明会も開いている。
 こうした取り組みと現場の実態・意向把握と飼料用米の推進、主食用米需給情報の提供などを通じて、8月から9月の種子の注文時期をひとつの目安として、30年産の見通しを取りまとめたいとしている。

(写真上から)生産者に飼料用米生産を呼びかけるパンフレット、千葉県農林水産部生産振興課冨塚課長

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