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米:JA全農がめざすもの

【JA全農がめざすもの】第4回米穀事業 業務用需要と安定契約 農家の経営発展めざす2014年10月7日

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・需要に合わせ新品種を育成
・生産体系の強化に貢献
・販売先に安心と励み
・経営の安定をめざして

 主食用米需要では、外食・中食業界が使用する業務用需要のウエートが高まっている。JA全農の推計では320万t(25年度)と全体の4割程度を占めており、平成32年頃には家庭用需要と逆転するとも予測されている。こうしたなかJA全農は業務用ニーズに合った品質・価格の米を安定的に生産してもらうよう、産地に対して多収穫品種や低コスト栽培を提案、一方、実需者とは事前契約を行い安定した生産者手取りの確保に力を入れている。この取り組みを進めている産地の一つ、JA茨城みなみの新たな米産地づくりを紹介する。

米産地の新たな挑戦
支える販売戦略

 

多収穫米「ふくまる」生産本格化
現地レポート・JA茨城みなみ(茨城県)

◆需要に合わせ新品種を育成

茨城県のオリジナル品種・多収穫米「ふくまる」 JA茨城みなみは、取手市、守谷市、つくばみらい市の3市が管内。東京から40kmと茨城県の最南端に位置し住宅地や商業地と農地が混住する地域だが、鬼怒川や小貝川の水源を利用した県内有数の米産地だ。米はJAの販売事業取り扱い高の8割を占める。
 水稲作付け面積は4200ha。主力品種はコシヒカリで今も作付け面積の80%ほどになる。
 コシヒカリ一辺倒のなか、米需要の変化に対応し栽培体系の再構築につなげようと県は関係機関と連携してオリジナル品種の育成に着手した。そのひとつが業務用向けに開発された多収性品種「ひたち34号」で、23年産から試験栽培が行われた。その結果、収量も多く食味も良く、生産者にとっても栽培しやすいことから生産・販売拡大をめざし、公募で選ばれた「ふくまる」を新品種名として25年産から売り出すことにした。
 「ふくまる」の特徴は大粒で炊き増えがよく、冷めても粘りがあって食味が低下しにくいこと。千粒重はコシヒカリの21gに対して「ふくまる」は23?24gだという。大粒のため作柄が同等なら収量は増えることなる。
 25年産はJA管内で64haを作付けし321tを生産した。収量は生産者によって違うが、おおむね10aあたり9?10俵で平均収量は580kgだった。一方、コシヒカリは例年10aあたり520kg。「ふくまる」のほうが1俵ほど多いという結果だった。
 JAの米概算金は25年産ではコシヒカリと「ふくまる」で60kg1000円の差があるものの、収量が多ければ10aあたりの収入は「ふくまる」の方が多くなり、生産者にとってメリットとなる。

(写真)
茨城県のオリジナル品種・多収穫米「ふくまる」


◆生産体系の強化に貢献

JA茨城みなみ所在地 また、「ふくまる」はコシヒカリにくらべて成熟期が7日から10日程度早く8月中に収穫を終える。コシヒカリは9月から刈り取り、さらに県オリジナル品種の「ゆめひたち」はその後の収穫と、作期がばらついているため、生産者にとっては作業体系を組みやすい新品種が登場したといえる。
 稈長はコシヒカリにくらべて短く倒伏しにくいという特性もあるほか、白未熟粒の発生も少なく高温に強いことも確認されている。
 「ふくまる」は収量が多いだけでなく試験栽培の結果、食味も良いことが分かった。そのため業務用はもちろん家庭用としての販売拡大も視野に入れ全生産者を対象に品質分析を行っている。生産者は玄米サンプルを提出しJAを通じて県の農業改良普及センターでタンパク値を検査している。基準値をタンパク質含量6.5%としてそれ以下の米について「プレミアふくまる」として仕分けしている。
 こうした特性を持つ「ふくまる」を26年産は69人が作付けし面積は93haに拡大、同JAとして500tの集荷を見込んでいる。
 この新品種「ふくまる」については業務用米として高い評価を得ることが狙いだったが、本格生産の25年産から実需者との契約が実現した。それが回転寿司チェーン店「スシロー」(本社:大阪府吹田市、代表取締役社長:豊崎賢一)だ。売上げ高日本一を達成し、同JAの「ふくまる」をはじめ今、関西、関東のJAと提携し新たに米の仕入れを進めている。

 

◆販売先に安心と励み

井土正義さん(左から2人目)。右端は息子の博之さん、孫の稔貴さんと裕貴さん。訪れた日は家族で乾燥作業をしていた。 「あの有名チェーン店で自分たちの米が使われるという話を聞いたとき、作りがいや誇らしさを感じました」。
 こう話すのは地域の米生産のリーダーとして長く地域をまとめてきた井土正義さん(78)である。米の作付け面積は近年はほぼ11ha。ほかに転作小麦を3ha作付けている。
 「ふくまる」には試験栽培のときから取り組み、4年目となる26年産では4.5haを作付けた。そのほかコシヒカリより刈り取りが遅い「ゆめひたち」も3ha作付けており8月から9月にかけて作業を分散させられるようになった。「ふくまる」の収量は今年、10俵だったという。施肥量を増やす工夫をした。「茎が太いので倒伏の心配はなく大丈夫だと考えました。収量が多いのが魅力です」という。
 家族で試食したが、粒が大きく、コシヒカリのような粘りはないがさらっとした味でおいしさを実感したという。
 業務用の米を生産することについて井土さんは「販売先が決まっているので安心。以前から実需者が安定して使用できる米が不足し困っていると聞いていましたから、その需要に合う米を作るのなら業務用米をつくることに抵抗はありません」と話す。
 同JAでは管内で生産された米について販売先との結びつきに力をいれてきた。コシヒカリは産地指定米としてJA全農を通じ県内生協と量販店向けにほとんど販売されているという。これをきっかけに生まれた生協組合員の農業体験などの交流は20年以上にもなる。同じように、今回の新品種導入も販売先があらかじめ決まっている点で農家組合員の期待に応えるものでもある。

(写真)
井土正義さん(左から2人目)。右端は息子の博之さん、孫の稔貴さんと裕貴さん。訪れた日は家族で乾燥作業をしていた。

 

◆経営の安定をめざして

 栽培したほ場には、スシローの米を栽培しています、と生産者たちはのぼりを立てて地域にもアピールした。
 ただ、こうした新たな米産地の挑戦に不安を抱かせるのが今年の米価水準の低下である。26年産の概算金は前年を大きく下回る水準での設定となっている。
 井土さんは「ここまで概算金が下がったことはない」と先行きに不安を隠せない様子だが、一方で「ふくまる」の取り組みは「売り先が決まっているから、まだ望みがある」と話す。販売努力で納得のいく最終精算価格になることを期待している。
 自身で18代め。400年前から続く農家である。息子や孫も米づくりを引き継いでいこうと考えはじめたという。持続させるには周辺の農地利用を引き受け、コストダウンのために完全直播など技術が必要だ。
 その一方で地域の生産者が培ってきた良質な米づくりを評価する実需者等とのつながりも必要で井土さんも「組合員が頼りにするJAにしていかなければ」と話す。
 同JAの齊藤繁代表理事組合長も「農家所得増大のため、自信を持って米を売りきれる販売力をJAも強化する必要がある」と話す。
 JA全農では多収性品種などの提案と、全農パールライスグループの機能を発揮して実需者との結びつきを強めて、需要に応じた生産と販売で産地強化を支援していく。パールライスグループの機能を発揮して実需者との結びつきを強めて、需要に応じた生産と販売で産地強化を支援していく。

 

産地の努力 政策で下支えを
インタビュー 齊藤繁・代表理事組合長

齊藤繁・代表理事組合長 組合員のためのJAづくりをどうするかが改めて課題となっています。そのために職員の意識改革が必要で今年度は「気配り」と「行動力」を掲げて職員にこれを徹底し、組合員のみなさんに「組合がなくてはならない」という気持ちを持ってもらえるよう取り組んでいます。組織のためではなく組合員のための組合づくりを徹底的に浸透させていこうということです。 だから米事業についてもJAとしての企業努力を常に考え、組合員のみなさんに1円でも多い所得を得てもらうために、どう誘導していけばいいのかが大事で、今回の「ふくまる」の栽培推進もその方針で取り組みました。つまり、自信を持って作ってもらった米をわれわれが販売しますよ、ということを組合員に提示したということです
 しかし、26年産米の米価は非常に厳しい。下落の要因には需要の減退も大きいと思いますから、今は私の立場として日夜行政にも一体となった消費拡大の取り組みをお願いしているところです。たとえば学校給食だけでなく、外食産業や弁当業者にも米利用の拡大を呼びかけてもらうなどの要請です。それにしても非常に危機感を持つ状況です。生産者からは概算金1俵9000円ではやっていけないという悲鳴が上がっています。農機具を買い換える時には離農するしかない、あるいはこの収入ではすでに子どもの教育もできないという声も聞きます。

 

◆JAも販売力の強化へ

 地域の生産者は努力してうまい米づくりを達成してきていると思いますし、そのなかで時代に合わせた新たな取り組みが「ふくまる」だと考えています。これを持続させるにはやはり基本的な政策も必要だと思います。 
 昨年までは戸別所得補償政策の10a1万5000円の交付金がありました。これでなんとか米農家も経営を維持していけると考えていたわけです。それが今年から7500円に半減し、これが3年間で終わる。総理をはじめ政府は強い農業をつくると言っていますが、私は逆に弱い農業になってしまうのではないかという思いがします。
 やはり米の直接支払交付金は、これでやっと一息ついたという感じで現場では受け止めていて、そのうえで、さあこれから産地としてどのような方向で行くか、と考える基本になったのではないか。産地は努力はしています。これを下支えする対策をもう一度考える必要があると思います。

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