米:CE品質事故防止強化月間
米のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間 品質事故を防ぎ生産者と信頼築く JAいしのまき(宮城県)2015年8月6日
米のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間
・現地ルポ・JAいしのまき(桃生CE・宮城県)
・「乾燥能力に応じた計画的な荷受けと適正な人員配置で品質事故防止を」全国農協カントリーエレベーター協議会・御子柴茂樹会長
JAグループ米穀事業の集荷・販売の拠点施設であるカントリーエレベーター(CE)では、出来秋の収穫期を前に、荷受へ向けた準備が着々と進められている。全国の大規模乾燥調製貯蔵施設の管理・運営改善に取り組む全国農協カントリーエレベーター協議会、JA全農、公益財団法人農業倉庫基金の3団体は、毎年8月1日から10月31日までの3か月間を「米のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間」に定め、事故防止の徹底を呼び掛けている。今回は、5年に1回開催される「優良農協カントリーエレベーター表彰」で、最高賞である農林水産大臣賞に輝いた宮城県のJAいしのまき桃生(ものう)CEを訪ね、CEの運営、事故防止の取り組みなどを取材した。
◆稼働率100%超 17年間無事故
JAいしのまきは、宮城県の北東部に位置し、平成13年に石巻地方の1市9町の10JAが合併して誕生。管内の中央部および西部地域を1級河川の新・旧北上川と鳴瀬川が貫流。平坦で水田に適した沖積平野が広がり、その水田面積は1万2000haと県内有数の穀倉地帯となっている。
「ひとめぼれ」や全国一の生産量を誇る「ササニシキ」など良質で高品位なコメの生産だけではなく、冬は雪が少なく年間を通して温暖な気候を活かしたキュウリ、トマト、イチゴ、ネギ、ガーベラなどを周年栽培するなど園芸農業も盛んな土地だ。
JA管内には、桃生、河南、河北、北上、東松島と5か所のCEと12カ所の低温倉庫などが整備されており、コメ集荷量の8割がこうした施設に集められている。
このうち4つのCEには、それぞれ「桃米館(とうまいかん)」(桃生)、「こめっ娘」(河南)、「ライスウェーブ21」(河北)、「東松館」(東松島)という愛称が付けられている。北上CEを含む合計貯蔵能力は1万4535トン。もっとも貯蔵能力が大きいのは桃生CEで3690トンだ。
桃生CEは、平成10年に貯蔵能力3015トンで竣工、その後14年に675トンを増設し、桃生地区の中核的農業施設として、生産者と共に地域農業振興に取り組んでいる。
建設されて3年目の12年度から26年度まで、15年の大凶作時(宮城県東部の作況78)を除いて、毎年稼働率100%を超える安定した状況が継続されている。また、CE建設以来、管内全CEで事故は1件も起こしておらず、安定した運営がなされている。桃生CE管内は、特別栽培米(環境保全米)の「ひとめぼれ」と慣行(JA基準による)栽培の「ひとめぼれ」、環境保全米「ササニシキ」が作付けされており、収穫期が集中するので、荷受最盛期には1日に600トンの生籾を受け入れることもあるが、後でみるようにさまざまな工夫と努力で、17年間無事故だ。
◆低コスト稲作 複合経営実現
JAのCEに対する基本的な考え方は「担い手農家を支援するための施設」だと、酒井秀悦常務理事。
具体的には、(1)担い手農家の規模拡大を支援し、低コスト水田農業の実現、(2)複合部門の充実により米・畜産・園芸のバランスの取れた地域農業の確立、(3)米の銘柄確立と戦略的な販売の展開、を運営の目的としている。
この目的を実現するために、JAの組織として「桃生CE施設管理運営委員会」(JA、関係機関、利用者協議会、受託者協議会、委託者代表などで構成)があり、その下に施設の利用面積調整を協議する「桃生CE利用者協議会」(以下、利用者協議会)を設置して運営している。
「利用者協議会」は、ミニライスセンター(MRC)を有する8集団と17の水稲受託集団(このうち4組織は平成14年、13組織は10年の桃生CE設立時に組織化されている)と個別担い手農家およびJA担当者で構成されている。
◆コンバインで 担い手組織化
利用者協議会の「利用組織」つまり「担い手の組織化によるCE作業の効率化」が、桃生CEの大きな特徴だといえる。利用者協議会の構成員はJAの農作業受託者協議会に加入し、JAが斡旋する作業受託などの受け皿となることで、認定農業者や生産組織への転作を含んだ「担い手への土地利用集積(水田)」は平成8年度の34%から26年度には65.4%へ、また「生産組織の刈り取り作業面積」は8年度の259haから26年度は607ha(水稲作付面積の52%)へと利用集積が進んできている。
この組織化を推進した源は、国や県の助成をも活用したJAの「コンバインリース事業」だった。高性能な能力をもつ1000万円級のコンバインを年80万~90万円でリース。5年間リース料を払えば「半額で高性能コンバインが生産者の手に入る」という仕組みだ。
そして、高性能機械を設置した10ha以上の面積をCEの受入面積基準とすることで、集団組織化が進み、CEの利用率が常に100%を超えるという状況がつくられてきた。平成10年当時、全国のCEでは稼働率が低いことが大きな悩みといわれていたが、ここでは、担い手の組織化によってこの問題をクリアしていたことになる。
◆荷受作業工夫 待ち時間ゼロ
稼働率が高いこともあるが、CEは「低コスト稲作を実現するための施設」であるので、利用料金は収支均衡(共管費は除く)を前提に試算し、宮城県内でも最低水準の玄米重量1キロあたり税別20.7円に設定されており、担い手農家の経営支援に大きく貢献している。
さらに「組織化推進で荷口の大口化」が進んでいるが、利用者の作業ロスの解消につながるCEにおける「荷受待ち時間ゼロ」を実現している。
「待ち時間ゼロ」を実現しているのは、(1)搬入時に直接ホッパー投入を行わず、生籾の一時仮置きとJA担当者による責任張り込み、(2)荷受作業員最大30名体制、(3)フォークリフト9台と貸出コンテナ350個の準備、(4)CE敷地内一方通行の実施と利用者を車から降ろさないドライブスルー方式、(5)荷受作業員全員にトランシーバーを持たせ、情報の共有化を図る(農林水産大臣賞受賞審査時に高い評価を受けた要因の一つ)。(6)荷受ピーク時の品種の限定(ひとめぼれのみ)と荷受ストップの確立、にある。
「荷受待ち時間ゼロ」は、利用者協議会を中心とした積極的な利用調整とも合わせて、稲作作業の省力化を実現し、冒頭でも紹介したトマトやキュウリなどの園芸農業や麦・大豆さらには畜産などとの複合農業がこの地域で確立され、より一層の規模拡大を実現してきた大きな要因となっていることも見逃せない。
こうしたことを実現してきた要因として、例えば14年の増設時に、流量調整タンクをメーカ仕様よりも大きなものに仕様を変更したり、機械の運用の仕方に工夫を加えて、より作業効率をあげるなど、現場での努力がなされてきたこともあげられる。
また、同一敷地内に、大豆の乾燥調製施設や低温農業倉庫があり、荷受ピーク時にはこれらの施設を有効に活用していることも、1日600トンも荷受しながら17年間無事故の要因だといえる。
◆農水大臣賞の源は生産者との信頼関係
そのうえで、今回の取材で感じたことがある。
それは、「CEに行くと気分がいい」と生産者がいうように、JAのCE担当者を生産者が信頼していること。「CEのオペレーター(OP)には優秀な人材をおく」と酒井常務。優秀な人材とは、過酷な現場にあっても、機械操作や運営を含めて「基本に忠実な真面目さと生産者に信頼される米などの知識を持っている」ということだ。
さらにCEの現場で働く須藤幸則桃生CEセンター長代理や大沼竜治主任OP、佐藤辰則OPは、酒井常務や山﨑和明営農販売部長に対して、上司であるだけではなく、現場の状況をきちんと把握し必要に応じて適切なアドバイスをしてくれる先輩として信頼している。
この生産者(利用者)―CEの担当者―JAのトップの間にある「信頼関係」が、さまざまな困難を乗り越えて、農林水産大臣賞に輝く今日の桃生CEを創りだしてきた源ではないかと思う。
(写真)
上から、「担い手農家支援の中核施設 桃生CE「桃米館」。担当者は常にほ場に注意をはらい稲の生育状況を把握し、運営に活かしている。今年は生育が例年より早いという」「生籾600トン/日を荷受することもあるが、「荷受待ち時間ゼロ」を実現」「農水大臣賞の賞状の前で、左から須藤センター長代理、大沼主任OP、佐藤OP」「CEの施設内は常にきちんと清掃され、いつでも荷受けできる状態になっている」
「乾燥能力に応じた計画的な荷受けと適正な人員配置で品質事故防止を」
全国農協カントリーエレベーター協議会
御子柴茂樹 会長(JA上伊那代表理事組合長)
全国農協カントリーエレベーター協議会は、カントリーエレベーター(以下、CE)を設置し、米麦の生産販売一貫体制の確立をはかっているJA等の連絡を密にし、施設の管理運営について協議を行い、その改善・向上をはかることを目的に、昭和49年に設立されました。
平成27年4月現在、会員JA数は265(39道府県)、施設数は757となっています。また、会員の施設の総貯蔵能力は200万トンを超えるなど、JAグループの米麦集出荷の拠点施設として重要な役割を果たしています。
各施設においては、施設の集約・再編、稼働率の向上、オペレーターの育成など様々な課題に直面しています。このため、本協議会は、農家組合員の営農の安定、担い手の育成支援、および地域農業のさらなる活性化に資するべく、会員JAや関係機関と連携しつつ、CEの運営改善対策や品質事故防止対策に取り組んでいるところです。
こうしたなか、公益財団法人農業倉庫基金(以下、農倉基金)によると、CEの品質事故は直近3か年で16件発生しています(米11件、麦5件)。事故発生の主な原因としては、高水分籾の過剰荷受け、長時間のテンパリング、サイロ半乾貯留時または貯留時における穀温管理不足などが指摘されています。
過剰荷受けへの対策としては、乾燥能力以上の荷受けを行わないよう、適切な荷受計画を作成し、農家組合員の理解と協力を得ながら、計画に沿った作業を行っていくことが必要となります。また、事故防止のためには、要員の各施設への適切な配置やオペレーターの計画的な育成も必要です。CEの運転には熟練した技術が求められるため、例えば経験の浅いオペレーター単独で運転を行うことなどがないよう、JAの経営者・管理者が率先してCEの運営体制の強化を図っていただくようお願いします。
いったん品質事故が発生すれば、経済的な損害はもとより、長年にわたって積み上げてきた農家組合員や取引先からの信頼失墜につながりかねません。オペレーターの操作ミスに起因する事故であっても、最終的に経営者・管理者の責任が問われる事態も十分考えられます。
本協議会は、CE稼働の最盛期における米の品質事故と火災・人身事故の防止をはかるため、全農および農倉基金とともに、8月1日から10月31日までを「米のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間」に設定しました。
各施設におかれましては、運営体制の整備、施設・機械等の点検整備を行うとともに、マニュアルや作業手順書等にもとづく適切な運転を行い、役職員が一丸となって品質事故防止と作業安全の確保を徹底していただくようお願いします。
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