米:JA全農米穀事業
【JA全農米穀事業部】事業の軸足は実需者・生産者 生産提案型事業 より拡大2019年3月22日
JA全農はこのほど「31年産米生産・集荷・販売基本方針」を策定した。30年産米では、実需者との直接商談を積極的に展開して実需者ニーズをつかみ、それに基づく米づくりを産地に提案し、集荷・販売へと展開していく「生産提案型事業」を大きく展開した。31年産米の取組みはこの生産提案型事業をさらに拡大し、生産者の農業経営の安定と実需者への安定供給に貢献するとともに、米の需給と価格の安定をはかるため、引き続き需要に応じた生産と、集荷力の強化に取り組む。
【30年産米の取り組み】直接・買取販売 目標達成
30年産米は飼料用米、備蓄米等の作付面積が減少する一方で、主食用作付見込面積は138.6万tと前年にくらべて1.6万ha増加した。ただし、全国の作況指数は最終的には「98」となったことから、主食用米の収穫量は732.7万tと前年より2.1万tの微増にとどまった。
こうしたなか、連合会集荷量は前年を下回った。JA全農はその大きな要因として、「天候の影響でふるい下米の発生が多かったとの声が多く、生産量は作況指数以上に少なかった」ことを挙げる。
一方、JA全農は自己改革2年目の取り組みとして実需者直接販売、買取販売のさらなる拡大、事前契約の拡大などに数値目標を設定して取組みを進めてきた。
実需者直接販売を125万t、買取販売を50万tと設定し、いずれも目標達成する見通し。事前契約は138万tとなった。
山本貞郎米穀部長は31年産に向けては「集荷が最大の課題。実需者と生産者に軸足を置き、実需者ニーズを生産者に伝えて作付提案や契約栽培に結びつけていくよう積極的に足を運んでいく。それによって生産者とJAの信頼と理解を得て集荷の拡大につなげていきたい」と話す。
【31年産米の取組み方針】事業環境の変化に対応
このような認識のもと31年産米の取組みでは、30年産米に引き続き、事業の軸足を実需者・生産者に置き、多様な実需者ニーズに基づき作付提案・契約栽培を行う生産提案型事業を拡大し、生産者の農業経営の安定、実需者への安定供給に貢献したい考えだ。
米穀事業をめぐる環境変化と課題については、米の消費は人口減少と少子高齢化でさらに減少することが予想される。1991年(平成3年)には年間1人あたり米消費量は69.9kgだったが、2016年(平成28年)には54.4kgまで減少している。また、共働き世帯は1980年(昭和55年)の約2倍の1129万世帯(2016年)となり、5300世帯中6割が単身、または2人世帯(2015年)となっており、このような社会の変化によって外食・中食需要はさらに拡大することが予想される。実際、近年では主食用米のおよそ4割が外食・中食向けとなっている。
また、家庭用の精米もネット通販の拡大といった流通ルートの変化や、外国人観光客増加により外食での主食用米のインバウンド需要増など新たな動きも想定される。
一方、産地では農地集積が進みつつあるが、耕作放棄地は増加傾向にあり、米の供給力の低下が懸念されている。また、JAのなかには農業倉庫やCEの老朽化などの課題を抱えるJAもある。
これをふまえて31年産米では、実需者直接販売の拡大、買取販売の拡大など生産から販売まで全部で15の重点取組事項に取り組む。
以下、おもな重点取組事項を紹介する。なお、31年の数値目標(連合会目標値)として実需者への直接販売は「取扱数量の60%」、買取販売は「取扱数量の30%」、事前契約数量は「140万t+α」を掲げている。
【実需者(販売推進)対策】「産地」「商品」の開発重視
実需者対策では、営業開発部を中心とした実需者直接商談の展開に力を入れる。具体的には取引先専用商品の提案など、実需者ニーズに合った商品開発を共同ですすめる。一方で、実需者ニーズに応じた業務用向け多収米など産地開発も拡大する。
また、実需者直接販売の拡大に向けて、実需者との取引実績や全農独自の需要動向調査などをもとに、各県域で実需者別(結び付き卸別)の販売計画を策定する。策定した計画をもとに、パール卸やパートナー卸とも連携して実需者と直接商談を実施し、実需者を明確にした契約(特定契約)の拡大をはかる。
そのほか、「持続可能な稲作経営」や「生産者手取り最大化」などの理念を共有できる実需者や米卸に対しては、実需者直接販売拡大に向けた安定的な需要を確保する観点から、引き続き資本・業務提携も推進していく。
同時に米流通面での改革を自ら進めるため、パールライス事業の再編も加速させる。これによって流通コストの削減と精米取扱数量の拡大を通じて競争力強化を図る。このため、全農パールライスを中核会社とした統合再編の方向について、各県域のパールライス卸との協議を開始する。精米工場については、2019年10月には北部九州地区(福岡・大分)のパールライス事業を全農パールライスと統合する方向で検討を進めており、統合翌年には広域対応する新工場を取得する計画となっているほか、首都圏における精米工場の再編検討を開始する。
そのほか、米消費が縮小傾向にあるなか、より加工度の高い分野で米販売を展開するため、炊飯事業の強化や、米加工品についての商品開発も進め、事業領域の拡大にも取組む。
【生産(作付)対策】多収品種の取扱拡大へ
主食用米の作付けは国と全国農業再生推進機構(全国組織)と連携して計画生産を推進。具体的には複数年契約など既契約分の確保を優先するとともに、備蓄米への積極的な応札を推進する。水田活用米穀は需要調査等に基づき品目別ガイドライン数量を設定して推進。需要超過分は飼料用米で対応する。
また、業務用等実需者ニーズをベースに、JAと連携して生産者に対して「生産提案型事業」をさらに拡大させていく。大規模生産者を中心に、営農・肥料部門と連携して生産提案し実需者と生産者を結びつけ複数年契約などによる長期安定的な取引の構築をめざす。このような推進を全国各地で広げるため、全国域・県域の推進体制の構築についても検討する。
多収品種等による契約栽培は30年産米では1万tだったが、31年産米では3万tを目標に種子確保と供給体制を構築する。また、農研機構との共同研究で全農の独占使用権のある多収品種開発も行う。さらに、生産性向上と生産コスト低減に向けて、営農管理システムや、ドローンなどによる鉄コーティング散播といった新技術を普及推進するとともに、農薬担い手直送規格の拡大、担い手への大型コンバインのシェアリース推進等、生産費低減の取組みを進める。
【集荷対策】産地インフラの整備促進
集荷対策では、委託方式から買取方式に転換していくことを基本に各県域でJAに対し買取販売の実施、拡大を提案する。契約栽培や実需者とJAが事前に固定価格などで結び付きがあるものは出来秋買取を実施するが、一旦委託米として集荷・概算金支払いし、需給と契約が見通せた段階で連合会が共同計算から買い取る方式等、県域の実情に応じたさまざまな手法の導入で拡大をめざす。買取販売は33年産で取扱数量の50%、36年産で70%をめざす。
また、前述したように倉庫事情に課題があるJAからの要望に応じて、流通コスト削減や品質確保・安定供給の観点から連合倉庫の取得を積極的に検討する。広域集出荷施設の取得に際しては、県域ごとに将来像を明確化したマスタープランを策定のうえ、収支や建設費、集出荷の効率的なあり方、JAとの役割分担などについても十分検討し、戦略的な取得をとりすすめる。
また、生産者の利便性向上や作業の省力化などをめざし、生産者の庭先から広域集出荷施設へフレコンで直送する取り組みの強化を図り、集荷の拡大につなげる。
【販売(原料供給)対策】原料米の供給スキーム構築
原料供給対策では、JA全農が重点取引先と判断する実需者を全県で共有化して最優先で原料米の安定供給がはかられる供給スキームを構築する。これにより、重点取引先には、一部産地が不作時でも連合会として全体でカバーできる体制を目指す。
事前契約は140万t+αを目標とした。播種前・複数年契約を基本に、全量が実需者と結びつくことを条件として、数量規模拡大だけでなく、契約内容の質的な充実をはかることに重点を置く。
また、人手不足や原料燃費の上昇により、米の輸送コストが増嵩していることから、物流課題にも取り組む。物流改善プロジェクト(仮称)を立ち上げ、コスト削減の視点とあわせて輸送力確保の観点から検討し、改善を目指す。
【消費者販売・消費拡大対策】輸出拠点を拡充しニーズを把握
消費者直接販売については、パールライス卸と連携してアマゾンをはじめインターネット通販会社に精米・米加工品の商品提案を行い、量的拡大をめざす。とりわけアマゾンとは、全農パールライス㈱を中心に産地と連携して限定ブランド商品の開発・販売を行う。香港のTVモールなど通じた海外消費者への直販事業も強化。米の輸出では海外拠点の拡充によりニーズを把握、国内でも輸出用産地づくりを進め産地から海外市場までのサプライチェーンの構築をめざす。
米の消費拡大に向けては米の機能性についても研究成果の情報発信(「なるほど! 米の新発見」)、弁当や丼などレシピ提案、さらには米を食べながら健康的にダイエットできるプログラム(おにぎりダイエット+ウォーク)の普及などを図る。「お米は太る」との誤解を払拭し、「お米を食べよう」という動機づけとなる情報発信に取り組む。
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