米:CE品質事故防止強化月間
事故防止徹底 JA挙げて米の品質向上へ JAにいがた南蒲・いちいカントリーエレベーター(新潟県)【CE品質事故防止強化月間】2020年8月20日
全国の大規模乾燥調製貯蔵施設の管理・運営改善に取り組む全国農協カントリーエレベーター協議会、JA全農、公益財団法人農業倉庫基金は、毎年この時期に「米のカントリーエレベーター品質事故防止月間」を設け、事故防止運動を展開している。今年度も8月1日から10月31日まで、(1)品質事故の防止、(2)衛生管理の徹底、(3)ヘルメット着用の徹底の3つの重点目標を定め、運動への取り組みを呼び掛けている。米どころJAにいがた南蒲の「いちいカントリーエレベーター」(いちいCE)に、その取り組みを見た。
水田に囲まれた、いちいカントリーエレベーター(左側に5基のタワーサイロ)
管内に5基のCE
JAにいがた南蒲は新潟県の米産地、蒲原平野の南部、新潟県のほぼ中央に位置し、信濃川水系、五十嵐川、刈谷田川、加茂川などの豊かな水を取り入れた穀倉地帯を形成している。同JAには5基のカントリーエレベーター(CE)があるが、いちいCEは同JA南部にある3つのCEの中心的な存在として、JAの米づくりを支えている重要な施設だ。
三条市の中心部から南西へ直線距離で10km余り。周辺は水稲やダイズを作付けた広々とした農地が広がり、遠くからでも「JAにいがた南蒲カントリーエレベーター」の文字が目に入る。貯蔵方式の違いから、当初の貯蔵乾燥ビンと、後から増設したサイロの部分に分かれており、外見上もよく分かる。
建屋に入ると、内部はきちんと整理・整頓されており、荷受け場には、カントリーエレベーター協議会の衛生管理の標語である「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)が目に付くところに貼ってある。そのなかで、収穫期を控え、長橋浩己主任オペレーターら職員は、いま50t入り、77器もある大きな貯蔵乾燥ビンの清掃や施設・機器の点検などの受け入れ準備に追われている。
JAにいがた南蒲には、いちいCEを含めて、田上CE(貯蔵能力1250t)、下田CE(同2400t)、見附北部CE(3000t)、中之島CE(3000t)の5基のCEがあり、貯蔵能力は合わせて乾燥籾で1万4000tを超える。このなかでいちいCEは最大で4500tの能力を持つ。
いちいCEは平成9年稼働の自然乾燥方式のCE(当時の貯蔵能力は3000t)で、その後、冷却装置を設置し、タワーサイロ(貯蔵能力1500t)を増設。いまは同JAのほかのCEも採用している方法で、いちいCEはその先駆的な役割を果たした。
籾の受け入れを前には貯蔵ビンの清掃に追われる(50t貯蔵の角ビン。77器ある)
米は販売高の7割強
品種ごとの利用状況を令和元年度でみると、5基のCEで1万3100t余り。うち「こしいぶき」が約6600t(50・9%)で、次いで「コシヒカリ」が約6300t(48・6%)となっている。平成元年度の同JAの米販売取扱高は約90億円で、2位の果実(13億円)を大きく引き離し、農畜産物の全販売高約125億円の7割以上を占める基幹作目。特栽米のコシヒカリを「難関突破米」として販売に力を入れている。
同JAの高山栄代表理事理事長は「昨年は主力のコシヒカリが台風の影響で品質が低下し、販売に苦戦した。そのため今年は、相当、力をいれて指導してきた」と、品質に影響を与えるこれからの気候と、米の品質管理に特に気を遣っている。
JAにいがた南蒲で、その年のCEの運営方針を決めるのは「CE広域利用連絡協議会」だ。5地区のカントリーエレベーター利用者協議会から2名ずつ選出された生産者代表で構成し、当該年度のCEの運営方針などを決め、それをもとに地区ごとに何回かの利用者協議会を開き、CEの稼働計画・稲の刈り取りなど具体的な計画を協議する。
具体的なCEの運営にあたっては、特に(1)記帳類の統一、定期的な巡回など全CE担当者による情報共有・意思統一、(2)品質事故が発生したとき、早急に原因究明できるようトレース訓練の実施、(3)新任オペレーターの育成など職員教育、(4)特に繁忙期に備え、安全作業に向けた意識統一などに留意している。
この取り組みのなかで、同JAでは研修への積極的な参加を促す。毎年2名ずつのオペレーターを育成しており、現在22名のオペレーターを確保。また作業の安全に関しては、毎日、作業を始める前にKY(危険予測)による注意喚起や、危険個所のバイロン(カラーコーン)の設置や動線の確保を徹底している。
昨年度はCE作業に関わる全職員に安全靴を支給した。今年度は個人用にマイヘルメットを支給する。施設内にも共用のヘルメットはあるが、他の人が使用したものをかぶるのを嫌がる担当者もいるためだ。
また、衛生管理面で、長橋主任オペレーターは「カントリーエレベーターは食品工場と同じ、食品を扱っているという意識を職員に徹底している」という。特に注意を払うのがコクゾウムシやメイガ類で、夏の燻蒸は徹底して行う。
貯蔵中の環境を制御するコントロールセンター
平成22年度優良農協カントリーエレベーターの賞状と長橋主任オペレーター
法人の施設と連携も
だが、この数年、CEおよびライスセンターの利用面積、利用戸数ともに減少傾向にある。平成28年度までは面積で2000haを超えていたが、29年度は1900ha台になり、利用戸数も毎年30~50戸(平成30年度1409戸)のペースで減っている。高齢化で作業ができなくなった生産者が、乾燥施設を持つ法人などへ経営を委託するケースが増えているためだ。
同JAの高山栄理事長は「自前でライスセンターを備える生産者が増えている。半乾燥籾、乾燥籾を受け入れることで、生産者は労力を軽減できる。計画的に更新しているが、施設の老朽化も進んでおり、生産者や法人と連携した取り組みがこれから重要になる」とみる。
JAでは利用効率を高めるため、平日の利用者に助成を行うとともに、「コシヒカリ」よりも10日ほど収穫期の遅い中生種の「あきだわら」への品種転換を勧め、作期の分散化を促している。それには育苗段階からの調整が必要で、育苗センターでは遅植えに対応するとともに、生産組織に対しては、混雑が想定される日の刈り取りをできるだけ避けるよう呼び掛け、CE間の受け入れ調整も行っている。
籾を受け入れる繁忙期には他の部署からの応援も
CE間で受入れ調整
利用率にはCEごとのばらつきがある。このため管内全施設間の調整と併せ、特にいちいCEのある南地区では、半径3km以内にあるほかの2か所のCEとCEの施設コードを統一している。生産者はCEからの情報・指示に基づいて、より近くで、余裕のあるCEに搬入する。CE利用率の平準化とともに、搬入の幅が広がることで、作業が天気や日程に制約される生産者にとって大きなメリットになる。
受け入れの平準化には大規模法人への乾燥委託も行う。いちいCEでは近くの法人に1ha分の乾燥施設を常に空けてもらい、搬入が集中した時に利用。さらに生産者や法人の半乾燥籾や乾燥籾も受け入れる。昨年試験的に行ったところ、刈り取り期間を短縮できることで好評だった。このため、今年度から本格的に取り組む方針。これは「カントリーエレベーターのない地区の生産者の利用を呼び掛けるとともに、規模拡大をめざす経営からの要望がある」と長橋主任オペレーターはいう。
常にチェック・検査
品質管理は生産段階から徹底する。生産履歴をチェックし、JAの栽培履歴に反した場合は受け入れ拒否を通達する。さらに圃場巡回を行い、予め1圃場に1枚の立札を設置し、刈り入れ直前に現地確認調査を行う。特にクサネム(マメ科の雑草)、トウコン(雑草イネ)、倒伏などを重点的にチェックする。その上で、CE搬入時に立札、籾の状態、脱ぷした玄米をチェックし「受け入れ」、「別処理」を決める。
またCE段階では、マニュアルに沿った乾燥作業を徹底し、毎日のサイロ(貯蔵ビン)の穀温管理、定期的な水分・品質チェックを欠かさない。このほか籾摺機、揺動板、色選で玄米の状態のチェック、月2回程度の籾摺り検査を欠かさない。「過去に異物混入、異臭、虫害などのクレームが発生したことを教訓に、品質管理を徹底している」と長橋主任オペレーターは自信を示す。
収穫時の長雨に備え
今後の課題として同主任オペレーターは、(1)長期天候不順による荷受け集中時の対応、(2)施設の老朽化、(3)作業人員の確保、(4)水田活用米穀の処理量増大による精算の遅れを挙げる。
最近のように天候不順が続くと、刈り入れ時の長雨で、荷受けが集中することが多い。このため、不測の事態を想定した対応マニュアルの作成を進めているところだ。またCEの運用面では、籾穀処分が大きな問題になっている。
同JAの高山理事長は、「新潟県は全国一の米どころ。米の供給はまかせていただきたい。生産者と一緒に品質のよい米づくりに努め、米産地の責任を果たしたい」と、米づくりに意欲を見せる。
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