米:農業倉庫火災盗難予防月間2020
農業倉庫火災盗難予防月間 米保管 効率的に安全に大切に【農業倉庫火災盗難予防月間2020】2020年12月21日
米の需要は中食・外食産業など業務用需要の割合が大きくなり、実需者ニーズに合わせて安心・安全な米を安定的に供給することが産地に求められるようになっている。同時に生産現場では法人や集落営農などの大規模な担い手が地域の米生産を担うようになり、それに対応した集荷・販売体制をJAグループが構築していくことが課題となっている。こうしたなかでカントリーエレベーター、ライスセンターなど大型乾燥調製貯蔵施設とともに農業倉庫の役割が一層重要になっている。
JA全農と公益財団法人農業倉庫基金は、施設の重要性に鑑み、毎年11月15日から翌年の1月31日までを「農業倉庫火災盗難予防月間」として防火・防犯意識を高めることや、保管管理体制の再点検などを徹底するよう呼びかけている。この予防月間の運動に合わせて、今回はJAと一体となった集荷・販売体制の構築に取り組んでいるJA全農石川県本部の農業倉庫を取材した。
安心で安全な米をしっかりと保管し品質を維持して消費者、実需者に供給することは国民への食料の安定供給の一翼を担うJAグループの重要な役割であり、組合員である農業者の所得維持、増大にもつながる。
ただし、全国的にJAの農業倉庫などの施設は老朽化や低温保管に対応できないなどの課題を抱える。同時に生産者の大規模化が進み、効率的な集荷のためにフレコン集荷への取り組みも求められている。
JA全農いしかわではこうした課題に応えるために「JAと一体となった集荷・販売体制の構築」に取り組んできた。1996(平成8)年には金沢市に金沢米穀冷蔵低温倉庫、2004(同16)年には県南部に小松米穀連合倉庫、14(同26)年には県北部に能登米穀連合倉庫、そして18(同30)年には県央の拠点として四つ目の津幡米穀連合倉庫を建設した。
こうした連合倉庫を整備しJA全農いしかわは県内JAの倉庫の状況をふまえて、老朽化したJAの倉庫は検査場として活用し、農産物検査後に県本部の倉庫に集約する「ルート集荷」を実施しているほか、大規模生産者に対しては庭先集荷やフレコン集荷を実施、利便性を向上させて集荷拡大につなげてきた。
JA全農いしかわによるとJAの倉庫事情が厳しくなるなか、民間倉庫も利用されるようになったがそれによって運賃や保管コストが増大したという。これに対して県本部の倉庫が稼働することによって共同計算のなかで大きくコスト削減できたという。
また、主食用米の適正な需給環境の整備のために政府備蓄米などへの取り組みも産地には求められる。その保管は原則として5年間。これも農業倉庫の役割であり、JAと県本部との機能分担はますます重要な課題となっているといえる。JA全農いしかわはこうした情勢変化に対応する取り組みを進めてきた。
【現地レポート】JA全農いしかわ 金沢米穀低温倉庫 津幡米穀連合倉庫
金沢米穀低温倉庫の外観
消費者、実需者の近くで
金沢市にある金沢米穀低温倉庫は延べ床面積は約3040平方メートル。四つの本庫を持ち、標準収容能力は8万4000俵。
現在4つある県本部の連合倉庫の最初にできた施設で3年かけて計画した。完工した1996(平成8)年は食管法から食糧法に大きく制度が変わった直後で、石川米の倉庫事業を補完するとともに品質・食味を保持して通年販売体制の機能強化を図ることなどをめざした。長期保管の品質保持を確保するため、北陸で初めて5℃の冷蔵設備も導入した。
稼働後は金沢市周辺のJAが集荷、検査した米を保管している。これまでにエアコンの入れ替えや修繕などを適宜実施し、照明はすべてLEDを導入し電気代の削減も実現している。フォークリフトは万一の事故を考えて電動化した。フレコンは週2回専門業者が回収してスチーム洗浄し破れなどがないか点検し修繕もするという。
実需者が米の保管を見学に来ることも
「衛生的」実需も太鼓判
この倉庫の特徴は立地にあるといっていい。隣接する建物はJAグループと取引が多い(株)米心石川の精米工場。倉庫の前が精米工場でそこに直接原料を持ち込むことができる。
こうした立地のため、トラックが頻繁に出入りするなど玄米保管から精米へ、そして実需者、消費者と米が流通する最前線への起点でもある。
それを象徴するのが、コンビニや生協など顧客である実需者の見学。精米工場の見学だけにとどまらず、原料米の保管の様子も確認したいと倉庫にも足を向けるのだという。
JA全農いしかわ米穀課の是枝征秀調査役は「お客さんが見に来る倉庫」だと話す。消費者、実需者の安全・安心への意識の高まりを反映しているといえるが、信頼を得る機会でもある。徹底した清掃と設備の点検、野鳥の侵入の防止、ネズミ対策など基本の取り組みとそれらの記録など細かく取り組む。また、月に1回、米穀課として米の保管数量や水分などの点検を行っている。
「まずは保管業務の基本をしっかり実践しつつ、変化するお客様のニーズに応えられるよう運営に心がけています」と是枝調査役は話す。
津幡米穀連合倉庫の外観
農家の規模拡大を後押し
南北に伸びる石川県の中央に位置し県央地区の拠点として2018(平成30)年に完工した津幡米穀連合倉庫は延べ床面積約3727平方m、約10万俵の収容能力を持ち保管温度は15℃で稼働している。他の三つの連合倉庫とともに県全域をカバーし取引先や大手実需者から要望のある通年での品質確保・安定供給への対応をめざす。 生産者の利便性を向上させるため、今後も拡大が見込まれるフレコンでの集荷、流通を想定し、検査場となる前室は十分なスペースを備えている。敷地も広く、多くの車両や運搬されてきた米などにも十分に対応できそうだ。
倉庫の担当者によれば倉庫内の温度と湿度の管理にもっとも注意するという。積み上げた米の穀温は上、中、下の3カ所で検温している。朝、夕で温度の変化もあり、15度以下、湿度65%となるようファンなど回してきめ細かくチェックする。防虫のためのモニタリングも実施している。
フレコン対応OK
この連合倉庫を活用している近隣JAの担当者によると温暖化の影響で最近では常温倉庫では5月ごろから湿度が高くなり、品質を維持するため他の低温倉庫に移送することを余儀なくされていたという。コストも手間もかかることになる。
しかし、この連合倉庫ができたことから、18(平成30)年産から前室をJAの検査場とし、検査が終了した米を連合倉庫の担当者が本庫に搬入するという役割分担で生産者の米をスムーズに低温で保管できるようになった。
紙袋による集荷はJAが支店単位で集荷し連合倉庫に運搬する。一方、フレコンは希望する生産者に事前に配布して出荷予定をJAに連絡する。JAは連合会の運送子会社を利用して生産者からのフレコンを倉庫に運搬する。こうした集荷の方法、つまり、JAと連合会の役割分担については建設計画時から関係会社も含めて協議してきたのだという。
JA業務効率化を推進
検査時期は8月末から10月の初頭まで。現場で同JAの検査のとりまとめにあたった営農販売課の担当者は「たとえば、フレコンが明日何本出荷されるかという連絡があらかじめ入りますから、それに合わせて検査員の対応を依頼するなど、スムーズに作業ができました」と話す。室内のため雨天でも検査作業はできる。
JAによると地域の農業者でフレコン利用は年々増えており普及率は4割を超えたという。フォークリフトなどの導入費用はかかるものの圧倒的に労力の軽減となるため後継者確保のためにも導入が進んでいるという。JAの担当者は「連合倉庫によって地域の水稲生産者の大型化を後押しすることになる」と強調する。
これまではそれぞれの倉庫で検査していたがこれによって一本化でき、さらに低温倉庫によって品質を維持して安全・安心な米を提供できるようになったとJAは評価。「米を集めてくれば収まる場所があるという体制になった。10万俵も保管できる倉庫を県下JAで有意義に活用できれば」という。
県本部では生産者からの集荷段階から検査までタブレット端末で数量や検査結果などをデジタル化して管理できる仕組みの導入を進め、JAの業務の効率化、簡便化も進めている。JA全農いしかわ米穀課の宮下徹也専任課長は「全農は今後もJAを補完する機能を果たし県産米の安定供給につなげていきたい」と話す。
JA全農いしかわ米穀課の宮下徹也専任課長(左)と是枝征秀調査役00
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