米:2021年 農協協会 JAの米実態調査から
【JAの米づくり実態調査結果】(2)農薬の使用制限 6割 担い手支援に大型規格品2021年9月16日
(一社)農協協会では、毎年、全国のJAの協力を得て「JAの安心・安全な米づくりと防除対策について」と題した実態調査を実施している。その調査結果から前回「水田農業の概要」(9月13日付)に続き、今回は米の特別栽培への取り組みや防除対策などの実態をまとめた。
【調査の概要】
この調査は、水稲作付面積100ha以上の全国547JAを対象に、各JAの水稲関係担当者(営農・購買)に回答してもらった。調査方式は郵送による自記入式アンケート。調査期間は2021年2月15日~5月31日で回答数は481件(回収率87・9%)だった。
地区別の回答数は次の通り。
○北海道=46件(回収率95・8%)
○東日本地区(東北6県、関東7都県、甲信越3県、北陸3県)=205件(同89・5%)
○西日本地区(東海4県、近畿6府県、中国5県、四国4県)=150件(同83・3%)
○九州地区(九州7県、沖縄1県)=80件(88・9%)
図1
各栽培技術の普及面積
各栽培技術について2020年度の普及面積と5年後の推定面積を聞いた(図1)。
移植栽培は2020年度全国平均で2436haだが、5年後には2209haへと9.3%減少する。東日本では13%減少する見込みだ。移植栽培でも疎植栽培は増える。2020年度は全国平均で431haだが5年後には493haへと14.3%増える結果だ。とくに東日本では20.4%増える。
普及が進むと見られる栽培技術は密苗と密播(ぱ)。密苗は全国平均で67haが123haへ、密播は66haが121haへとともに80%以上増える見込みだ。
図2
ドローン散布が普及
水田農業では農地集積・集約化を進めるとともに、労働力不足にも対応するスマート農機など省力化技術の導入も課題となっている。
JA管内でドローン(マルチローター)による散布農家がいるJAの割合は全国平均で73%となった。北海道では83%、九州では80%と高い(図2)。ドローンの活用方法でもっとも多いのは「農薬散布」で全国平均では82.2%を占める。
そのほか「生育状況の確認、施肥時期・収穫適期の予測」11%、「病害虫発生のモニタリング」3.4%など。現在は圧倒的に農薬散布目的でのドローンの導入が多い。
JA管内の平均ドローン所有件数は9.8台。北海道9.5台、東日本12.0台、九州9.5台と西日本の6.8台を除けば地域差はさほどない。必ずしも大規模で平たんな農地での利用だけでなく、さまざまな土地条件で導入されている実態があると想定される。
ドローン散布農家の増加見通しは全国平均で95%が増えるとの見方を示している。
図3
図4
農薬成分制限が6割
使用農薬の制限や散布回数を制限した特別栽培の取り組みについては聞いた結果では全国ベースで「成分数を制限して取り組んでいる」が60%だった(図3)。
慣行栽培の成分数は17.2成分、これに対して特別栽培の成分数は8.6成分となっている。全水稲栽培面積に占める成分数を制限した特別栽培の面積は13%となった。地域別では北海道20%、東日本13%、西日本9%、九州13%となっている。
また、「散布回数を制限して取り組んでいる」は全国で1%、「成分数と散布回数の両方を制限して取り組んでいる」は11%だった。
散布回数については慣行栽培9.39回に対して特別栽培は5.09回となっている。
現在の特別栽培の総散布回数で満足な防除ができているかを聞いたところ、全国平均で「現在の回数で十分防除できている」は30%、「使用できる回数が少なく毎年品質を保つのに苦労する」が19%だった。もっとも多かったのが「年によって病気、害虫の発生頻度が異なるため規定の防除回数では十分防除できない年がある」が47%だった(図4)。
特別栽培の農薬散布回数の削減意向について聞いたところ「もっと減らしたい」が13%で「これ以上、減らしたくない」が87%と太宗を占めた。
特別栽培 面積現状維持
2020年度の特別栽培の取り組み面積は全国平均で338ha。「取り組んでいない」は28%と約3割近い。
3年後の特別栽培の予想面積は「増える」が9%、「減る」が21%、「現状と変わらない」が69%だった(図5)。
図7
剤型「多いほどいい」
同じ成分を含む除草剤の剤型の多さに対しての考え方を聞いたところ「剤型が多いほどよい」32%、「3つ以上の製剤が必要」32%、「2つの製剤が必要」5%だった。現場では多様な剤型を求めていることが示された。
現在使用している剤型を薬剤別に聞くとともに、3年後の予測を聞いた(図6)。
初期除草剤では粒剤34%、フロアブル剤40%、ジャンボ剤14%、乳剤11%。3年後には粒剤32%、フロアブル剤39%、ジャンボ剤16%、乳剤11%となった(図7)。
初中期一発剤は粒剤43%、フロアブル剤22%、ジャンボ剤28%、豆つぶ剤5%。3年後には粒剤40%、フロアブル剤21%、ジャンボ剤30%、豆つぶ剤6%となった。殺虫剤・殺菌剤、育苗箱処理剤も含めて、使用する剤型について大きな変化は見込まれていない。
JA管内で問題となっている病害について聞いたところ、「防除が極めて困難」との回答率が13%ともっとも多かったのは「稲こうじ病」だった。 そのほか、「防除がかなり難しい」との回答率が高かったのは「育苗期細菌性病害」、「紋枯れ病」、「苗いもち病」などが挙がった。
また、「抵抗性がある」との回答がもっとも高かったのは「もみ枯れ細菌病」。23%が抵抗性があると回答した。
抵抗性病害の発生による被害面積の程度で「大」との回答が多かったのは「育苗期細菌性病害」(20%)、「ばか苗病」(17%)、「もみ枯れ細菌病」(17%)だった。
また、SU抵抗性雑草への対策のついて聞いた。全国平均で具体的な対策をしているとの回答は69%となった。具体的な対策は「SU抵抗性雑草を含めた幅広い草種に効果がある一発処理除草剤(SU剤を含む)を1回散布する」が46.0%、「初期剤、一発処理剤、中・後期剤を組み合わせた体系処理を実施する」が43.1%となった。
担い手向け大型規格
JAでは生産者の経営安定のためにどんな取り組みをしているかを聞いた(図8)。
もっとも多かったのが担い手向け大型規格の取扱いで75%が取り組んでいる。次いで「畑作・園芸を含めた複合経営への取り組み」58%、「多収品種の導入」57%、「共同利用施設の有効活用」56%。そのほかは「水稲除草剤の銘柄の集約」48%、「国産化成肥料の銘柄集約」49%などが挙がっている。
主食用米の生産の課題の一つが業務用需要への対応だが、今回のアンケートからは、食品加工や外食向けに収量の多い品種の導入への取り組みが進められていると同時に、畑作や園芸を含めた複合経営にも力を入れる産地の取り組みが浮かぶ。
また、農薬の大型規格品の取扱いや、銘柄集約などによる事業改革によるコストダウンとともに、共同利用施設の有効活用も進めるなど担い手へのJA利用のメリットを示す取り組みにも力を入れていることが示された。
栽培面では特別栽培の取り組み姿勢とともに、米の量と品質を維持するための病害虫防除に苦労している点も具体的に示された。
今回の調査実施後、農水省は「みどりの食料システム戦略」を策定した。みどり戦略では2050年までに化学農薬使用量をリスク換算で50%低減をめざし、化学肥料を30%低減を目標としている。来年度予算ではみどり戦略の実現に向けて予算を確保し、スマート農業の展開や栽培暦の改善によるグリーン栽培体系への転換などを後押しする。
こうした新たな動きに産地がどう対応するかも課題だが、同時に今回の調査でも示されているように近年増えつつある病害へどう的確な防除をするかも迫られている。現場の実態をふまえた栽培体系への転換を後押しすることも政策の課題だ。
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